Day2 喫茶店

 サマーブルーム境町102号室。

 うちの幽霊は、キッチンに出る。


 玄関を入ってすぐのところに、狭いシンクと一口しかないガスコンロが設置されている。ささやかだが、滅多に料理なんかやらないおれには十分すぎる設備だ。

 夕方になると、シンクの前に女の影が立つ。

 シルエットを見るに、小柄で華奢な女性だ。かつてこの部屋に住み、そこで食事の支度をしていた住民なのだろうか。手も足も動かさず、ただ黙ってそこに立っているだけなので、おれにはよくわからない。

 とりあえず、彼女のおかげで家賃が若干安くなるので、助かっている。


 アパートの向かいに喫茶店があって、大学の講義がない土日と、平日の空き時間にそこでアルバイトをしている。住まいから近いし賄いは出るし、助かっている。

 喫茶店の窓から、おれの部屋の玄関とその横の小窓を見ることができる。ふと客足が途絶えた夕方なんかに、ぼんやり外を眺めていると、小窓の内側に人影が見える。ああ、シンクの前にあの女が立っているんだなぁ、と思う。

 窓越しに見る女の影は、なぜかよく動く。左右に揺れたり、両手で窓を触ったりしている姿が、摺りガラス越しに見てとれる。

 おれが留守の間、102号室の幽霊は何をやっているのか、結構気になる。

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