ゆうれいやしき ~文披31題~
尾八原ジュージ
Day1 夕涼み
古いアパートに住んでいる。
サマーブルーム境町101号室。
うちの幽霊は、縁側に出る。
太陽が沈む前のひととき、涼を求めて掃きだし窓を開ける。ぬるい風を顔に浴びながら、それでも閉め切っているよりはずいぶんマシだ。
蚊取り線香を傍らに置き、座ってぼんやりしながら氷を舐めていると、ふっと隣に気配が現れる。
縁台がかすかにきしむ。目の端に白くて小さな裸足が見える。子どもの足だ。
はっきり見ようと顔を動かすと、それは消えてしまう。何もない空間を見つめてもう一度視線を戻すと、また視界の隅に足が見える。
それだけだ。今のところ何の害もない。
子どもは夏でも冬でもかまわず縁側に立つ。かならず裸足で、部屋には入ってこない。
だから私は、暖かい季節になるとほっとする。冬はあの子が外で震えているような気がして、どうにも落ち着かない。
夏は夕涼みの時期だ。私は小皿に氷を載せ、自分の隣に置いてまたぼんやりと外を眺める。生垣の朝顔がもうつぼみをつけている。湿った地面に、雑草の緑が鮮やかに見える。
しばらくして隣を見ると、小皿の上の氷はなくなっている。溶けたあとの水も残っていない。
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