04 ダンジョンの外


「いいか。俺の言った方向に歩くんだぞ。ダンジョンの外に行くんだ。奥に行くんじゃないぞ」


「もう、タク君は心配性だなぁ」




 いやもうほんとに心配してるんだよ。


 セイナは基本しっかり者だが、地図は読めないんだ。


 隠し部屋を出る。




「うわっ、迷路みたい」




 セイナの言う通り、この辺りは遊園地とかにありそうな迷路状になっている。


 ダンジョンはダンジョンマスターのアイディア次第でいろんな姿になるが、うちは十階層ごとに様相を変えるようにしている。


 迷路になっているこの辺りはダンジョンの序盤だ。通路を狭くして、集団で協力し合って戦うことを封じるのが目的として、こんな状態になっている。


 最初から集団で戦うことに慣れていると、中には埋没して役立たずができてしまう場合がある。


 そういうのを防ぐために、序盤は狭い通路で少人数のパーティがちゃんと役割に従った動きができれば攻略することができるようになっている。


 ……バランス調整は祖父か親父の仕事だから、教えられただけだけど。




 そんなことはセイナに教えられないので、頭の中で反芻するだけにとどめ、現実では方向を指示する。


 入り口からそう遠くない場所だからすぐに、ダンジョンに挑む冒険者たちとすれ違うようになる。




「はっ? ……は?」


「へ?」


「うわっ!」




 冒険者たちの恰好を見て自分の恰好を見比べるセイナに対し、彼らはこちらに初心者を見る目で見てから、もう一度見るという芸術的二度見を繰り返し、去っていく。




「ホッパーコカトリス?」


「え? 従魔?」


「ホッパーコカトリスを⁉」




 という会話が聞こえた。


 ううん、冒険者たちの戦闘記録までは覚えてなかったが、ホッパーコカトリスって従魔にされていなかったのか?


 ああいや、こいつ、なにげに中層ぐらいに配置してるモンスターだから冒険者たちに強敵判定されているのかもな。




「ねぇ、タク君」


「なんだ?」




 だが、俺を抱えて歩くセイナは別のことが気になったようだ。




「私、この格好って弱そうじゃないかな?」


「そりゃあ、初心者装備だからな」




 セイナがいま着ているのは、布製のワンピースに革のベストみたいなのだ。




「もっと強くならないとね⁉」


「お、おお……やる気だな」


「うん、目標ができたから!」


「そうか?」


「うふふふ~~」




 あ、これはすぐに話さない奴だとわかったので、深くは聞かない。




「ていうか、俺をずっと抱いてるけど重くないのか?」


「ぜんぜん!」


「……そうか?」




 うん、そうか?




「うわっ! 魔物!」




 曲がり角を進んだところでいきなり悲鳴を上げられた。


 相手は……一人?


 年下? 同い年?


 それぐらいの感じの人物は、俺たちに驚いて仰け反り、そのままの勢いで後ろに下がり、背後にあったドアに当たり、そのドアが開き、吸い込まれていった。




「ぎゃああああああ!」




 そして、悲鳴が上がる。




「な、なに?」


「ああ……なんか罠にかかったな」




 たぶん、ランダムモンスターハウスだ。


 この階層には開けてもなにもない部屋がたくさんあるんだけど、たまに宝箱があったりする。


 だけど、もう一つ、たまに罠も発動する。


 それが、ランダムモンスターハウス。


 外から見ただけではわからないけど、足を踏み入れるとモンスターが湧くのだ。


 さっきの彼? 彼女? よくわからなかったが、それに引っかかったんだろう。




「運の悪い奴だなぁ」


「なに? なんなの⁉」




 いきなりの悲鳴にセイナがビビッている。


 俺が教えると、ビビり顔が一瞬でまじめになった。




「たすけないと!」




 叫んで部屋の中に飛び込んでいく。


 ううん、そうなるかぁ。


 まぁそうなるよなぁ、セイナなら。


 だから奥に迷い込まないように言ってたんだから。


 もしも奥の方で苦戦してる冒険者とか見たら、絶対に同じことしてた。




「大丈夫ですか⁉」




 中ではラピッピにタコ殴りにされている人がいた。


 ラピッピというのはうちのダンジョン限定で出てくる……いわゆる最初の雑魚モンスター。


 二足歩行のウサギで、前足ならぬ短めの手には棒が握られている。


 転がり込んだ彼はラピッピに囲まれて、棒で叩かれている。




「や、やめてください!」




 その状況を見てセイナは叫ぶ。




「セイナ、モ……魔物に人の道理は通じないぞ」




 あっぶな。


 モンスターって言いかけた。


 そういえば、こっちの世界では魔物か。


 今度から気を付けないと。


 どっかで間違えてないかな?




「そ、そっか……なにか、武器は……」


「鞄に杖があっただろ?」


「そっか……でも、いま手にはタク君がいるから……」


「放せよ! ああ、いいや」




 俺が解決させればいいんだ。


 戦闘訓練にもなるし、ちょうどいいか。




「くらえ!」




【衝撃邪眼】を使ってみる。


 スキルを発動させてから目を向けると、光線が放たれてラピッピが派手な音を立てて吹き飛んでいく。


 コカトリスやバジリスクは、調べてみると石化能力の根拠ってTRPG準拠だったんだよな。


 そのせいか、うちのダンジョンではこの二種に石化能力はない。


 だけど、コカトリスには、視線で飛ぶ鳥を倒す能力があったそうなので、【衝撃邪眼】というスキルが存在する。


 一応光線が放たれているようなエフェクトがあるが、これはどっちかというと受ける冒険者側に配慮した効果だ。


 見ただけで打撃を受けるのだから、回避はほぼ不可能。


 強力だ。


 あっというまにラピッピの群れを倒した。




「あれ?」




 戦闘が終わったところで、セイナが首を傾げた。




「いま、なにか私の中でなにかあったような?」


「ああ、たぶん……レベルアップ的な成長?」


「え? なんで?」


「セイナは【魔物使い】のスキルがあるからな。従魔の俺が戦った結果は、セイナにも影響を与えるんだよ」


「ふうん?」




 よくわかっていない顔で首を傾げている。




「まぁ、後で自分のステータスを確認してみな」


「え? どうやるの?」


「ステータスを見たいって念じてみろ、なんとなくわかるから」


「んん……あっ、ほんとだ! 【魔物使い+1】だって!」


「自分の能力のことを話すのは、誰もいない時な」




 俺はスキルを止めてから倒れている少年を見た。




「あ、そうだった。大丈夫ですか⁉」


「うっ、あ……はい。大丈夫です」




 あれ?


 声が高い。


 あ、これ少女か。


 髪が少年でもありそうなショートだったし、一瞬だったからわからなかった。




「怪我してますし、とりあえず外に出ません?」


「うっ、はい」




 というわけで、俺たちはその少女を連れてダンジョンを出た。








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