第23話 増えるストロー(23日目・ストロー)


ストローが、一本多い。

しばが最初に気付いたのは、十朱とあけと行ったファミレスのドリンクバー。ドリンクをグラスに入れた後、確かに一本だけ差したはずのストローが、芝が席に戻ると二本になっていた。芝は不思議に思いながら一本を取って、後は何事もなかったように過ごした。それから、芝が何か飲み物を飲む度、ストローが一本多くなった。グラスやコップ、紙パックでも、ストローが増える。最初はそれだけだったが、段々、中身も少し減るようになって来た。誰かに飲まれている、ような減り方。芝の周りには、いつも誰もいない。

(気持ち悪いな)

そうは思っても、どうすれば良いのか、良い策が浮かばない。そう思う内、芝はまた、十朱とファミレスに行った。

ドリンクバーで、芝が烏龍茶を入れたグラスを手に戻ろうと振り向くと、十朱がいて芝を見ていた。否、芝のグラスを見ている。見ると、やはり一本だったはずのストローが二本に増えていた。いつの間に。芝は目を丸くする。

「タキ、これは」

「けーご、ちょい待ち」

二人きりの時、芝は十朱のことをタキ、と呼んでいる。十朱の名前、孝之たかゆきを縮めて、タキ。十朱は、芝のことをけーごと呼ぶ。芝の名前・研吾けんごからのあだ名。芝を制し、十朱は芝のグラスのストローを口に軽く咥えて、烏龍茶を飲んだ。あっという間だった。

「勝手にこいつの飲み物飲めるのは、俺だけだから。お前はお呼びじゃねーの」

半分くらい飲んだ後、ストローから口を離し、十朱はそう言って空を叩く。何かを払うような動作。芝は呆気に取られた様子で、それを見ている。

「……タキ、何か居た?」

「居たな。よく分かんねぇけど、お前のグラスにストロー差して飲もうとしてたから俺が先に飲んだ」

あっけらかんと言う十朱に、芝はしばらくの後、笑い出す。

「ありがとう、タキ」

「俺も烏龍茶にしよっかなー」

芝の肩を叩き、十朱も笑った。


それから、芝の飲み物にストローが増えることは無くなった。







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