第11話 レンキンさん(11日目・錬金術)


「この学校に、レンキンさんという怪人がいるらしい」

そんな話を聞いたのは、放課後の教室だった。

僕と、友人の満寛みちひろ十朱とあけしばで、だらだらと駄弁っていた。暑いから皆でアイスを買いに行くはずが、こういう雑談はついつい長引く。

「レンキン、っていうのは、錬金術師から来てるらしいんだけどよ」

十朱の言葉に、少し考える。

「錬金術って、金属を作るんだっけ」

「そうそう。でも、金属だけには限らないらしいね。人や魂も入るとか」

僕の問いに、芝が答えてくれる。人や魂を造る。想像もつかない。

「で、レンキンさん、って言うのはよ。欲しいものを書いた紙と、自分の髪か爪、欲しいものに似た物を用意する。それを誰にも見られないように、旧校舎の三階にある仮眠室のロッカーに入れるんだ。入れた後『レンキンさん、欲しいものあげます』って三回唱える。これで終わり。一週間後に、レンキンさんがその欲しいものをくれるってわけだ」

何故か、ぞくりとした。違和感を覚えるのだけれど、それが何か分からない。それと、

「欲しいものに似た物って?」

僕が聞くと、十朱は楽しげに笑う。

「分かりやすいのだと。例えば、金が欲しい、って願うなら、おもちゃのお金やコインチョコなんかを用意するってことだな」

「なるほど」

欲しいものに似た物だ。それにしても。

「レンキンさん、って初めて聞いたけど、この学校の七不思議かなんか?」

この疑問には、芝が答えてくれた。

「七不思議とは別枠だよ。最近噂になり始めた、って感じの話かな」

芝の隣で、十朱もうんうん頷いている。この二人の情報網はどうなっているんだろうか。

「随分親切なんだな、そのレンキンさんとやらは」

それまで話に入って無かった満寛が、呟いた。言われると、確かにそうかもしれない。渡さなければならないものは多々あるが、レンキンさんからすれば無償で相手の欲しいものを用意するに等しい。十朱が、満寛を見て笑う。

「それだけどさ、誰でも手に入る訳じゃない。どういう基準かは知らないけど、レンキンさんに選ばれたやつだけがもらえるんだな。もらえるやつには、三日以内に印が現れるんだと」

「どんな?」

「そいつにしか分からない形で現れる、って話だから、具体的にどんなものかは知らない」

「実際にやってみた生徒が何人かいるらしいけど、何ももらえなかったらしいよ」

それは、安心すれば良いのか残念がればいいのか。肩を竦める芝を見ながら、微妙な気持ちになる。満寛が、興味を失ったように欠伸をした。

「いい加減、アイス買いに行こうぜ」

その一声で、皆鞄を持ち、教室を出る。

「今度、旧校舎の仮眠室行ってみるかー。やっぱ百聞は一見にしかずだろ」

「話ばっかりよりは、実際どんなのか見てみたい」

校門に向かいながらはしゃぐ十朱と芝を見てから、旧校舎に目を向けた。夏の西日を受けて、ますますぼやっとした怪しい雰囲気になっている。錬金術。レンキンさんか。何となくおかしい。何となく胸騒ぎがする気がしたけど、気のせい、ということにした。今日のところは。











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