カラスの道しるべ

@ray_amamiya11

第1話

 わたしたちは長い長い1本の道を真っ直ぐに歩いている。互いに互いを知らずとも、ただ真っ直ぐに歩いていることはわかっている。あなたの存在は、私の存在を肯定する。やがてわたしは列車に乗って、何処かに連れていかれてしまう。君はきっと川の流れに従って、鮭のように川を昇って、やがて原点にたどり着いたら、そこに根を張って、土の中でふるまうのだろうね。

 わたしはきっと辿り着けない、それは廻り回り、それでもそれでも終わらない渦の中に根を張るのでしょうね。




川のせせらぎが心地よい。

電車のけたましい足音が心地よい。


 深夜3時のことだった。とある駅に辿り着いたわたしは、不思議な光景を目にした。だからわたしは、階段を昇って駅に入って改札の扉を跨いだ。

 1番線。ホームには、外から見た通りに電車が止まっていた。点検でもしているのだろうか。

 しかし違和感がある。列車の何両目かは分からないが、ただひとつの車両だけ電気がついている。ホームに降りる階段をゆっくりと、確かにひとつひとつ降り、その違和感を確かな感覚にしてゆく。ここがどこの駅なのかもわからない。駅名が書かれた看板は角度が悪くてまだ読む事は出来ない。

 最後の階段から離れ、わたしはホームに降り立った。くるりと振り返り、電車の全体を見渡しても電気が付いているのはただの一両だった。ホームに人影はない。明かりの着いた車両の光はやけに明るくて、中がよく見えない。

 少しの震えを身体に感じる。冬の寒空に震えたのか、不気味な違和感に震えたのかはわからない。わたしは階段を降った時よりも更に慎重に、一歩また一歩と近づいた。

 7歩ほど進んだところ。フワッと感じたのは、香水のような、人肌のような、確かに誰かの香りだった。振り返っても誰もいない。ここには誰もいない。確かに、香りは車両の方から感じている。

 何故だか、安堵した。直前までの震えが嘘のように消えた。足取りも軽くなった。列車までの6メートル弱を、わたしは7歩でサッと歩いて扉の前にたった。照明の眩しさで車両の中は見えない。けれどもあの香りがする。

 じっと待っていた。寒さは感じなかった。やがて雨が降ってきた。小雨から始まった雨は、段々とその強さを増し、周囲は雨の語るノイズ音で埋め尽くされた。

 やがて、空からカラスが飛んできて、わたしの隣に降り立った。雨宿りだろうか。その小柄なカラスは、まだ子供のようだった。雨と寒さで、カラスは震えていた。ホームに来て雨は防げたが、この寒さは辛いだろう。じっと動かないカラスを見下ろし、憐れに思った。だからわたしはカラスの傍により、その場に跪いてカラスを胸に抱えた。

「きっと暖かいよ」

そう言ってまた扉の前に立った。瞬きする程の時間が経って、扉は開いた。わたしはその光の中に入っていく。わたしの後ろ足が車両の中に入り切った瞬間、車両の明かりが消えて、ホームは闇に入った。

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