第2話

 長く続く赤い絨毯の先、突き当たりにイエンの部屋がある。

胸を踊らせそこを走り抜け、扉を強く開いた。

目に入ったのはベッドの近くに立て掛けている木刀。

 しかしイエンは、頭をかきながらホコリのかぶった本を渋々開く。


「えーっと、まずは本を一読、だっけ?」


凄い勢いで本をめくり一瞬でそれを閉じるイエン。


「よし、完璧!」


 一言そうこぼし、本をテーブルの上に放り投げた。


「ジェーンのやつ、俺を誰だと思ってるんだ……こんなのすぐ終わるっての」


 次にお待ちかねの木刀を手にして笑う。


「よし! 今日はたっぷり稽古をつけてもらうぞ!」


 独り言にしては大きい声を出し、目的地に向かおうとドアノブに手をかけた時である。


「……やっと、開発者の居場所が……」


 ジェーンの声がイエンの耳に届いた。

 イエンは部屋から出ることを躊躇い、少しだけ扉を開けて、廊下を覗いてみる。


「ジェーンと……メイド?」


 ジェーンは、険しい表情をして腕を組んでいたかと思うと、次にメイドの胸ぐらを掴む。


「場所は……!?」


 いきなりの暴力的なジェーンの行動を見、イエンは扉をガタリと鳴らしてしまう。

ただでさえ、背が高く威圧感があるのだが、扉越しのイエンでも怖じ気づく程だ。

 もちろん、その音に気づいたジェーンは、メイドから手を離し、何食わぬ顔で扉に近付いて来る。


「盗み聞きは良い行いではないですねー?」


 ジェーンは扉をグイッと開け、イエンの額を軽く指で小突いてやった。

 痛いとまでは言わないものの、イエンは小突かれた部分に手をやりながら、先程のメイドに視線を向けようとした。

しかしその時には、もうメイドの姿はなかった。


「さっき話してたメイドって……」

「ちょっとミスしてたから注意してただけで……」


 そんな内容ではなかったような、と、言いたげなイエンのようだが、ジェーンにこれ以上攻撃されたくない気持ちが勝ったか、ふーん、とだけイエンは答えた。


「それより、準備はいいのです?」


 イエンはジェーンの言葉にニコリと笑う。


「ばっちり! ジェーンを泣かすくらい稽古をつけてもらうぞ!」

「私が泣くことはあるのでしょうか?」


 ジェーンもイエンと同じく微笑み返す。

 二人は長く赤い絨毯を並んで歩き、中庭へと向かった。

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