来訪者

第1話 

「いったぁっ!!」


 静寂を保っていた資料室にイエンの声が響いた。

大きな机の上には何冊もの分厚い本が積み重なっており、イエンは危うくその山に突っ込むところだった。


「人が説明している時に、頬杖ついてうとうとしない」

「あ……ジェーン。俺、寝てた?」


 ジェーンに本の角で頭を小突かれるイエン。

 小突かれた場所をおさえ、少し涙目でイエンはジェーンを見た。

 うす茶色の髪はピシリと決まっており、何人もの女を魅了する整った顔立ちと、すらりとした長身のジェーンは、呆れてため息をつく。


「これに俺が説明していたことが書いてある」

と、イエンの目の前に、ドスンと色褪せた本を五冊程置く

「人造人間の書と、三体の人造人間それぞれの書と、これからの人造人間との関わりについての本だ」


 大量の汚ならしい本に、イエンはあからさまに嫌そうな目をした。


「……あとイエン様、めっちゃホコリ被ってますけど」

「まじで!?」


 イエンは驚き、慌てて服の隅々に目を配る。

青を基調とした服には、頬杖をついていたせいか、ひじの部分が白っぽくなっていた。

ジェーンに小突かれた頭にも、茶髪の中からキラキラとホコリが舞って落ちてくる。

 ジェーンに聞こえるように、重く長いため息をついたイエンだが、向けられた本人はそっぽを向いていた。


「それより、時間はいいんですか?」


 ジェーンは、明後日の方向を向いたまま言った。

 一瞬キョトンとしていたイエンだが、一拍遅れてハッとする。

ホコリの舞っている空間の奥にある壁掛け時計に目をやった。


「もう時間じゃん! ってか、過ぎてる!」

「寝てたお前が悪い」


 ジェーンは、もう一度先程よりも強めに本の角でイエンの後ろ頭を小突く。


「ぃってぇ……」

「この本、一読してから来なさい」

「えー、時間過ぎてるのに?」

「もう一回?」


 ジェーンは笑顔で本を持ち上げた。

本の角はもちろんイエンに向いている。

 イエンは、灰色の目を細めて、観念したようだ。


「わかったよー……」


 イエンは、ジェーンの持っていた分厚い本を持ち、すぐさまホコリの舞っている資料室から飛び出した。

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