お墨付きオーバードライブ

ちびまるフォイ

人から求められたくない人

「これ面白かったなぁ、レビュー送っとくか」


連載している小説に感動し、レビューを書いた。

タイミングがよかったのか数日で大人気小説へとおどり出る。


これまで誰も見向きすらしなかったその作品は、

書籍化、漫画家、アニメ化、劇場版……と人気作品のスターロードを爆走する。


たまたま人気に火が付くタイミングで、

自分がレビューを書いてしまったがために。


『もしもし? 〇〇さんのお電話ですか!?』


「はい。どちらさんで?」


『△△書籍のものです! どうやらあなたのレビューにより

 大人気作品になったという噂を聞きまして!』


実際はそんなこともないが、

自分が発掘しましたとドヤりたくなってしまった。


「いかにも、私がこの目で見てレビューしました」


『やはり! いまやあなたは作品以上の注目度。

 ぜひほかの作品にもお墨付きをください!』


「ええ、かまいませんよ」


それから自宅には山程の本が送られた。

分厚い本に読む気もなく、なんとなく表紙と作者のあとがきだけ読んで

それらしい一文を本の帯に書いた。


「ま、こんなもんか」


数日後、自分がお墨付きを与えた本は大ヒットしたと後で知った。


"あの大人気作品を発掘した〇〇さんがお墨付き!"

と、知らないうちに自分のネームバリューは独り歩きを始めていた。


お墨付き本がどこでも在庫切れの状況となるや、

今度はさまざまな方面からオファーの声がかかる。


「ぜひ! 新番組にあなたのお墨付きを!!」

「うちの映画にお墨付きをください!」

「新しい洗剤にあなたのお墨付きを!!」


まるで神にでもなったような気分だった。


「はっはっは。ひかえおろう、ひかえおろう。

 私は差別なくみなのものにお墨付きを与えてやろうぞ」


「「 ははーーっ!! 」」


誰もが自分のお墨付きを求めている。

それに自分は答えるだけだ。


そして、自分がお墨付きをしたものはなんにでも大人気となる。


大人気となったことで、またお墨付きにハクがつく。

ネームバリューを増やす永久機関が完成してしまった。無敵だ。


「はっはっは!! ひっぱりだこすぎてまいっちまうぜ!!」


札束を燃やして沸かしたお風呂に浸かりながら、

絶世の美女をはべらせウチワをあおがせる。


「いい気分だ。ようし、たまにはお墨付きを与えた作品でも見てやるか」


自分が以前にお墨付きを与えた映画を見ようとしたとき。

映画を見る前に他の視聴者のレビューに目がいった。



>ぜんぜん面白くなかった。〇〇のお墨付きってマジ?

 あんなの見る目ないよ。



「えっ……」


有頂天から奈落まで引きずり降ろされた気分。

でも本当は自分自身でもわかっていたことだった。


ーー 本当は自分のお墨付きに価値がないことを。


節操なくお墨付きを与えた結果、

あらゆる人へ自分のお墨付きが目に触れた。


なかには的を射ているお墨付きもあるだろうが、

多くはまるで価値のないものにお墨付きを与えたものもある。


これはほんのほころびのひとつかもしれない。


しかし、この先続けていけば間違いなく起きうる前触れ。


「ど、どうしよう……。もうメッキが剥がれて来てるんじゃないか」


実はすでに自分のお墨付きなんて価値ないことバレてるのか。

いやいやまだまだバレていないのか。

それもわからない。


そう悩みだすともはやお墨付きなんて与えられない。


滞ったお墨付きに業者はカンカンだった。


「先生、どうしてお墨付きくれないんですか!」

「前はあんなにくれたのに!」

「お墨付きないと売れないんですよ!!」


「わ、私はもうお墨付きなんてやらない!!」


ただただ怖かった。


自分のお墨付きが実力以上の評価をされ、

本当の自分がバレたときに落胆されるのが怖い。


それからというものお墨付きは一切出さなくなった。


はやく自分の存在を忘れてくれと思っていた頃。

家に珍しく来訪者がやってきた。


「誰ですか? 宗教の勧誘ならーー」


ドアを開けると覆面の男がまっていた。

やばいと思ったがすぐに袋をかぶされて意識を失った。


次に目を覚ましたときにはどこかの倉庫。

身体を椅子にしばりつけられて動かない。


「だ、誰だあんたら! なんでこんなことをする!!」


「……」


「か、金が目的か!? ならすぐに用意する!!」


「金なんか目的じゃねえよ」


「え……?」



「これにお墨付きを与えろ」



覆面の男が差し出したのは自由帳に書かれた手書きのマンガ。

お世辞にもよくできているとは言えない。


「あんた最近、お墨付きを与えてないんだろ?」


「そ……そうだ。それがなんなんだ」


「だから今、あんたのお墨付きには、過去イチで価値が上がっている」


「だからってこんな……こんなものにお墨付きを与えろと!?」


「こんなものじゃない!!!

 "勇者の冒険 たかしの日常" だ!!

 

 どうしてもお墨付きをくれないっていうなら……」


覆面の男が倉庫の奥へと向かった。

そこでやっと奥には物騒な器具の数々が置かれていることに気づく。


拷問器具に適しているとはいえない、

ホームセンターで買ってきました感のある機材の数々。


それらが荒っぽい拷問のはじまりを何よりも伝えていた。


「どうなるか、わかってるよな……?」


「ひ、ひいいい!」


「お墨付きをくれなきゃ……こうだ!!!」


さっそく固定された右腕をレンチでぶん殴られた。

激痛が走って今にも意識を失いそうになる。


「うう……い、痛い……」


「お墨付きを与える気になったか?

 早いうちにお墨付きを吐き出したほうが、

 痛い思いをしなくてすむぞ?」


「するもんか……お墨付きなんてやらない……」


「じゃあこうするしかないな!!」


ふたたび頭上に振り上げられたとき。

倉庫の扉が開けられて警察がなだれこんでくる。


「全員うごくな!!」


犯罪素人集団はよく訓練された警察によって拘束された。

人生でここまでホッとした瞬間はない。


「大丈夫ですか?」


「ええ、助かりました……もうどうしようかと」


「もしかして、〇〇さんですか? お墨付きで有名な?」


「……はい。それより、コレほどいてくれませんか?

 縄が身体に食い込んで痛いんです」


「ええ、もちろん」


やってきた警察官はにこやかに笑った。

そして目の奥では打算的な黒い光が輝いた。



「私の逮捕の成果に対し、あなたがお墨付きをくれたらね」



警察官の言葉に私はもう人里離れた場所で余生を過ごそうと決めた。

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