第9話

彼女の口から、

低い唸り声が聞こえてきた。

デイビッドは、目を力いっぱい閉じた。

汚れた顔に、熱い涙が流れ落ちる。

彼は叫びたかった。

懇願したかった。

命乞いをしたかった。

だが彼の口から漏れたのは、かすれた、

途切れ途切れの声。

このブラックウッド精神病院を支配する、

息苦しい暗闇に、

その声は吸い込まれていった。


彼は、冷たく湿った手が、

自分の手首を掴むのを感じた。

その握力は、驚くほど強かった。

目を開けると、眼前いっぱいに、

マヤのグロテスクな笑みが広がっていた。

ギザギザの、汚れた歯が見える。


「心配しないで、デイビッド」


彼女は恐ろしく、

しわがれた声で囁いた。


「あなたも、選ばれたの」


そして彼女は、彼を闇の中へと

引きずり込んでいった。

彼の悲鳴が、病院内にこだました。

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【ホラーストーリー】ブラックウッド精神病院【短編】 密室 @seiu

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