第7話

「来ないでくれ!」


彼は叫んだ。

無駄な抵抗だと分かっている。

この悪夢から

逃げ切れるはずがないことも。

だが、もしかしたら、

ほんの少しの間だけ、

持ちこたえることができれば。


化け物は一瞬ためらい、

黒く、魂のない目が細くなった。

デイビッドは、その瞳の奥底に、

何かがちらりと見えた気がした。


しかし、病院の基礎を揺るがすような、

獣じみた咆哮とともに、

化け物は突進してきた。


デイビッドは後ずさり、壁に手をつく。

懐中電灯の光は、頼りなく揺れ動き、

グロテスクな影を描き出していた。


デイビッドが顔を上げる。

化け物の姿が見えない。

だが、聞こえる。

じめじめした何かが、

床の上を引きずるような、

巨大な虫が、

折れた翅を引きずっているような、

そんな音が聞こえる。

それは、

刻一刻と近づいてくる。


背中が壁にぶつかる。

ひびが入った肋骨に痛みが走る。

もう、逃げ場はない。

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