阿修羅姫と定食屋

老師

No.1(シオン)

ここは王都アルタヤの中央にある大広場を埋め尽くす敵兵達と並べられた家族の首が処刑台の上で鎖に繋がれている私を見ている。


ジクジクと胸が痛い。

七日前にユーディー将軍の裏切りで王都は陥落。

国王陛下であるお父様と王太子である兄上が討ち取られ都にいる王族は自害するか捕らえられた。

私は毒を飲み自害しようとしたが、死には至らず鎖に繋がれて投獄された。

獄中では死なないように解毒されたが後遺症なのか胸がとても痛い。


まぁ、胸の痛みなんてすぐにどうでもよくなるでしょうね。


周りを見渡すと戦に敗れ略奪され尽くされ、廃墟となってしまったこの王都の状況がよくわかる。


崩れ落ちた城壁の外から無數の煙が立ち昇っている。

どうやらこの戦で亡くなった人達を燃やしているらしい。

私ももうすぐあの煙になるのでしょう。


「おのれぇ!

 この謀反人がぁ!」


 断頭台の上にひざまづかされた腹違いの兄の首が処刑人の斧で切り落とされると歓声と共に敵兵達が足で地面を蹴る音が王都内に響き渡る。

そして兄は家族の首の横に並べられた。


「最後だ。

 シオン・ディネ・アルタヤ!」


 私の名前が呼ばれると巨漢の兵士が首輪を掴み断頭台へ引きづっていく。

そして体を固定されると目の前に王都に攻め込んだオラノ候が現れた。

この人が謀反をおこす前に一度だけ会った事がある。

その時の穏やかで優しい紳士だった。

お父様もオラノ候の事を信頼していた。

でも今は悪魔のような邪悪な笑みを浮かべ私を見下ろしている。


「お転婆姫か・・・

 まだ幼い貴様を処する事に反対する者も多いが、アルタヤ王家の血筋を残す事は出来ぬ。

儂を恨め。」


私は元々死ぬつもりだった。

運悪く生き残ってしまっただけだ。


 「外道が!

 早く殺せ!」


淑女にあるまじき乱暴な言葉で罵ったが、オラノ侯は鼻で笑った後、私から離れていく。

私の家族の首を指差しながらユーディーと笑っているオラノの姿を見ながら布袋を被せられた。


呪ってやる。

絶対にあの男を呪い殺してやる。


「処せ!」


あの男の最後の言葉を聞いた後、私の意識は途切れた。



気がつくと私はベットで寝ていた。

柔らかく肌触りの良い毛布がかけられていた。

周りを見回すと漆喰の壁に質素な調度品。

銀色の髪に赤い目の神秘的な雰囲気のお姉さんが椅子に座りながらジーっと私を見つめている。


「気がついた・・・」


「あ、あの、ここは?

 私、処刑されたんじゃ?」


「私の名前はフィリア・・・」


「私はシオン・ディネ・アルタヤです。

 ここはどこですか?」


「私の家・・・」


「家?

 私、処刑されたのに。

 あの助けてくれたのですか?」


「違う・・・」


フィリアさんが私から毛布を剥がすとお腹の上で茶色い目が六つある半透明のネズミが眠っていた。

正直、不気味で気持ち悪い。


「な、なにこれ。」


「霊獣ミツキ・・・」


「霊獣?」


「この霊獣が連れて来た・・・」


「どうしてこの霊獣は私を助けてくれたのかしら」


「知らない・・・

 でもそれはクロスに使役されてた・・・」


「クロス?

 そのクロスさんが私を助けてくれたのですか」


フィリアさんは上を見ながら頭を振り子のように左右に動かしている。

色々考える見たい。


「そうかもしれない・・・」


「あの!

 そのクロスさんにお会いしたいです。

 どこにいるのですか?」


とりあえず、お礼を言わなければ。

生き残ったのなら家族の仇を討たなければならない。

そして霊獣を使役できるほどの力をもつ人が助けてくれたのなら絶対に味方にしたい。

フィリアさんはカーテンを開けると窓の外に雲海の上に浮かぶ巨大な浮島に建てられているお城を指さした。


「ヴァニア城!?

 ここってルクロスなの?」


「そう・・・」


浮島の上に建つ城なんてこの世界に一つしかない。

魔王と女神が住む天空の禁域。

たしか女神様の名前はクロス。

でも、どうして私を助けるの?


「あの。 女神様が助けてくれたのですか?」


私の質問を聞くとフィリアさんは物凄く嫌そうな顔になった。

どうして?


「毒は消えてる・・・」


「毒? あ、直してくれたのですか?」


そういえばジクジクとした胸の痛みが消えてる。


「ここにいれば何でも治る・・・」


そういえばルクロスの地は強力な回復魔法放ち続けられてると聞いた事がある。


私は窓に近づき外の様子を見てみる。

周りには数えきれないくらいの浮島が漂っている。

そして、下をみると雲の下に山や森や広がっている。


「あの、フィリアさんは何者ですか」


「・・・

 ・・・

 イルミリア・・・」


「イルミリア?」


「あなたたちは吸血鬼と呼んでいる・・・」


え!

吸血鬼!?

人の生き血を吸い取る化け物じゃない。


「怖がらなくてもいい・・・

 鬼じゃない・・・」


そうなの?

でも、吸血鬼って人間の生き血をすする化け物なのだけど。


フィリアさんは棚から透明なグラスと真っ赤な液体が入った瓶を取り出しトクトクと注いだ後、直ぐにコクコクとグラスの半分ぐらいまで飲んだ。

すると白い肌がほんのり赤くなりトロンとしならが赤い液体が入ったグラスを眺めている


「金豚の血・・・

 最上の血・・・

 他の血なんて飲めない・・・。」


つまり、人間の血より良い血があるから襲ったりしないということかしら。


「あの、それで女神様にお会い出来るのでしょうか。。。」


また凄く嫌な顔をされた。

ひょっとして女神様の話題は嫌なの?


「クロスは寝てる・・・

 当分目覚めない・・・」


寝てる?


「いつ頃お目覚めになるのですか?」


「処刑されたと言った・・・

 あれを巻き込むのは止めるべき・・・」


女神様をあれ呼ばわり!


「私は何も悪いことはしていないのに処刑されそうになったの。

 女神様に救いをお願いして助けてもらいたいの。

 人間族の神様に助けをお願いして何が問題なの?」


女神クロスは人間族を守る神様。

隣国のグレートフリート王国に南部都市連合など多くの人間族の国が女神としてあがめている。


「ここから直ぐに去るべき・・・」


「私はアルタヤ王国の王女。

 オレノの謀反にあって王家の一族は根切りにされた。

 いえ、私だけが助かってみんな処刑されたの。

 こんな理不尽で野蛮の事をされたから、女神に助けを求めたい。

 だから会わせて欲しいの!」


「無理・・・

 たぶん死ぬことになる・・・

 助かった幸運に感謝して危険なことは避けるべき・・・」


そう、助かった。

私は生きてる。

でも、さっきから何度も並べられた家族の首がはっきり鮮明に脳裏に浮かんでくる。

そして虚ろな目が私に仇を取れと訴えかける。


頭が痛い。

胸が苦しい。


布袋をかぶせられ、死を覚悟した時オラノとユーディは必ず呪い殺す誓った。

でも、生き残った。

ならばオレノとユーディの一族は全員私の手で殺さないといけない。

家族の仇。

あいつらは絶対に殺す。


「あなた呪われてる・・・」


「呪われてる?」


フィリアさんはコクコクと頷いている。

私は呪う事があっても呪われるような事はしていないのだけど?


「出ていくのならあれの代わりに助けする・・・」


「あなたが?

 どうして助けてくれるの?」


フィリアさんはまた左右に振りながら考えている。


「暇つぶし・・・」


「そ、そう

 じゃあお願いするわ」


吸血鬼といえばかなり強力な化け物。

暇つぶしでも何でもいい。

仇をうてるなら

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