第167話 絵心は無いけれど ★リオ SIDE

 侍女達の調査を精霊達に任せている間、私はカミルへ贈る指輪を作る為にコテツさんから教えて貰ったレシピ通りに、デュークと素材を加工していた。


 今日はやっと素材加工の工程が終わり、組み立てる所まで辿り着いたのだ。何気に素材加工などの細かい作業も好きだから、ここまでの工程こうていも楽しめたわ。全ての工程を私がやりたいと言う我が儘に付き合ってくれているデュークはやっぱりとても優しいわよね。


 そんな魔導師団の一室で作業をしているのは私とデューク、そして皇女リアである。王太子の婚約者である私が未婚の男性と密室で2人きりになるのがNGなのもあるけど、リアは皇帝達が帝国へ帰った日からデュークに猛アタック中で、出来るだけ近くに居たいからと普段は魔導師団に良く顔を出している。そんなリアに対してデュークはと言うと、まんざらでもなさそうで、お互いを良く知ってからお付き合いをしたいと誠実な対応をしているらしい。意外だと思ってしまったのは内緒ね。


 コテツさんが言うには、上級の素材が集まれば、指輪だけで亜空間を繋ぐ魔道具を作れるらしい。そして、私の亜空間にも干渉出来る様にすることも可能らしい。人や生き物は入る事が出来ない為、私の亜空間から出せるのはおにぎりや味噌汁ぐらいなんだけどね?


 現時点では、王国で精霊と契約している人間は私とカミルしかいないけど今後どうなるか分からないので、カミルの指輪に私の亜空間は繋がない事にしたのよね。カミルは王太子だから、不穏因子ふおんいんしは取り除いておくべきだと思うしね。


 指輪は台座がメタリックブルーで、石は魔石を使っているから、光の当たり具合で色が虹色に変わってとても綺麗なのよ。この指輪は契約している精霊が近くにいなくても、亜空間の中の荷物を取り出せるの。将来何が起こるか分からないからあくまでも保険ね。


 私もお揃いのデザインで、ピンキーリングを作る予定よ。前の世界では、「幸せは右の小指から入り、左の小指から逃げる」って言い伝えがあったのよね。だから、私は今の幸せを守る為に左手の小指につけようと思ってるの。この世界でもそうなのかは分からないけどね?ふふっ。


「リオ殿、急激に温度を上げ過ぎると、透明度が低くなると言いますか、色がにごってしまいます。折角せっかく綺麗な殿下の瞳の色なのですから慎重に、ですぞ」


「ええ、分かっているわ。これが失敗したとしても材料がある限り、私が納得する出来になるまで何度も作り直すわよ!」


 私が満足する物を渡したいものね。気合を入れて作るわよ!制作前にデュークが、この指輪の魔道具を作るには、形成するより素材を集める方が大変だと言われてたのよね。要は、素材を集める事が出来た時点で、それらしき物は完成出来ると言う事。だから細部にこだわって、この世に私とカミルしか持たない特別な指輪を作るのよー!


「ふぅん、リオの世界では結婚式で指輪を贈り合うのね。帝国ではバングルって言う腕輪に、自分の魔力を注いで渡すのがならわしなのよ」


「そうなのね!それじゃあ、リアもバングルを作らなきゃねぇ?ふふっ」


「り、リオ!今はリオの指輪の話しでしょう!それにしても、リオは指先も器用なのね。そんなに繊細なデザインを描き写せるなんて」


 私も不思議なのよね。細かい作業が好きだから出来るのだろうと思っていたけど、それなら絵を上手に描く事も出来そうよね?うーん、私の事なのに全く分からないわ。本当に不思議ね……


「私、デザインを作るのも描くのも苦手なんだけど、出来上がってるデザインを写すのは得意なのよね。何が違うの?ってよく言われたけど、想像力が足りないのかしらね?未だに分からないわ……」


「ぶふっ!し、失礼しました。リオ殿は何でも出来るイメージがあり過ぎるのでしょうね。絵も完璧に描けると皆が勝手に思っているのでしょう」


「そんな事ないのに、本当に迷惑よね……デュークは知ってると思うけど、私に絵心は全く無いじゃない?まぁ、今の私は指輪が出来上がればそれで良いんだけどね……」


 黙々と作業を続けて3時間が過ぎていた様だ。リアが集中して人の声が聞こえなくなっていた私を揺さぶって、お茶の時間だと教えてくれた。指輪も一度乾くまで待たなければならないから丁度良かったわ。


「リオ殿、今日仕上げてしまわれますか?リオ殿の指輪は小さいので、本日中に出来上がるとは思いますが」


「そうねぇ。どうしようかしら?まぁ、亜空間を繋ぐ為には契約者の血が必要になるみたいだから、私が試してから渡したいと思っているのよね。確認に時間が掛かる様なら、カミルの指輪の仕上げは明日になるかも?」


 機能するかは使って見なければ分からないのよね。これまでデュークも作った事が無いのだし、王国に精霊もいなかったしね?


「かしこまりました。ではいつも通り、カミル殿下の執務が終わる時間までに出来ていなかったら、続きは明日にしましょうか」


「ええ、そうしましょう。デューク、色々と気を遣ってくれてありがとう。お陰でバレずにここまで来れたわ」


 半月以上は素材の加工に時間が掛かってしまったのよね。私もやるべき仕事やお茶会にも出席する必要があるから仕方ないのだけどね。内緒で物事を進める場合、時間が掛かれば掛かる程、カミルにバレる可能性が高くなるじゃない?だから早く作り終えたいけれど、出来上がりには一切妥協だきょうしたく無いの。要は、私の我が儘ね?ふふっ。


「いえいえ、私も大変勉強になりましたので!コテツ殿の理論も面白い。1000年前の技術だと思えないぐらい先進的で素晴らしい。そのまま研究出来ていたのであれば、今より向上する可能性は高かったのだろうと思います」


「ライが独学であの魔道具を作れたのは、コテツさんの血を引いていたからなのでしょうね。発想が独特で面白いわよね」


「本当に。ライト殿には、世のためになる魔道具を一緒に研究し、作って欲しかったと今では思います」


 デュークが残念そうにしている。本当に魔道具を作るのが好きよね。いつの日か、ライと一緒に作ったり考えたり出来たら良いのにね。きっと話しが合うだろうから、2人で寝ずに盛り上がってそうよね……


「そう言えば、精霊界で魔道具作成の勉強もすると言っていたわよ?彼らは寿命が私達の比では無いから、とんでもない物を作り出しそうよね……ちょっと不安になって来たわ」


「ふふっ、大丈夫よリオ。彼の原動力はリオの為にだもの。リオが嫌がる事は絶対にしないと思うわよ。精霊は良くも悪くも、素直で義理堅いんだから大丈夫」


「ええ、そうね。ライを信じて私も応援するわ」


 リアがとても優しい表情で精霊を信頼して大丈夫だと教えてくれる。そんなリアの表情を見て慌てて顔を背けるも、耳まで真っ赤に染まっている男が1人。むふっ。今のリアの表情、キレイだったもんねー。ふふふ、これで惚れたかしら?今後の2人が楽しみだわ。

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