第128話 納得したの? ★リオ SIDE

 ソラの転移魔法で、隠れていた子供の前に移動したわ。私は笑顔で顔の前に指を1本立てて見せた。


「シーッ。大丈夫よ、貴女を助けに来たの。良く頑張ったわね」


「ぐすっ、お姉ちゃんとお兄ちゃんが助けてくれるの?」


 目に涙を浮かべ、小さく震えている女の子は私にしがみついた。


「えぇ、そうよ。私とお兄ちゃんが助けるからね。ほら、可愛らしい猫ちゃんも手伝ってくれるわ」


 ソラを抱えて頭を撫でて見せると、女の子は笑顔になった。


「おうちが何処か教えてくれる?歩けないなら、お兄ちゃんが抱いて連れて行ってくれるから大丈夫よ」


「町の左奥から2番目の、赤い屋根のお家よ。町にも暴れる人がいるの。怖いな……」


「ん?魔物じゃ無くて、人だけが暴れているの?」


「うん。町の外は魔物が沢山いるだけで、町の中では人が暴れてるよ」


「どちらかと言うと、中の方が心配ね?」


「うん。ララの友達のお父さんがね、「うーっ!」てうなりながらおそって来るんだって。お母さんは怪我したって泣いてたの。助けて……」


「えぇ、大丈夫よ。私達が必ず助けてあげるからね。デューク、抱っこしてあげて。ララちゃん?目をつぶって、大きく深呼吸を2回出来るかな?」


「うん、出来るよ」


 ララちゃんは私の言った通りに目をつぶって深呼吸を始めた。ソラに視線を移すと、ひとつ頷いて転移した。


「お姉ちゃん、深呼吸終わったよ?」


「良く出来ました。ララちゃんは良い子ね。良い子だから、すぐにお家に着いたわよ?目を開けて見て?」


「わぁー!私のお家だわ!お母さーん!」


 ララちゃんが大声で呼んだから気づいたのか、ララちゃんのお母さんは家から飛び出して来た。ララちゃんを強く抱きしめて泣いている。


「ララ!何処に行ってたの!心配したのよ?」


「町の外で魔物から隠れてたの。お姉ちゃん達が魔物達から助けて、お家まで連れて来てくれたの」


「な、なんて事!娘を助けていただき、本当にありがとうございました。宜しければお茶でも飲んで行ってください。大したお礼は出来ませんが……」


「お礼は必要ありませんわ。私の仲間がそこまで来ているのですが、少し休ませて貰えますか?」


「えぇ、勿論ですとも。ささ、どうぞ中へお入りください」


 カミル達と合流し、予定通りにララちゃんのお家に入れて貰えたので、後は話しを聞くだけね。


「ララちゃんのお母さん、お話しを伺っても宜しいですか?この町では何が起こっているのでしょうか?」


「何から話せば良いのか……魔物が増え始めたのは最近だと思うわ。先月は普通に町の外へ、木の実や薬草を獲りに子供達と行ってたのよ」


「では本当に最近なんですね……魔物は町の中には入って来ないのですか?」


「えぇ。何故か分からないけど、魔物は町の外にしか居ないのよ。そして、半狂乱している町民も居るけど、縄で縛って、町の牢屋ろうやの中では1番人気ひとけの無い地下の部屋に入れてあるわ」


「賢い選択ですね。町民は183人だったと記憶しておりますが、何人ぐらい半狂乱になったか分かりますか?」


「それが、ここ数日で分かったのだけど、人口がいつの間にか減っているのよ……知らないうちに、誰が居なくなってると騒いでいるけど、外には出られないでしょう?恐らく魔物に喰われたんだと……」


 魔物化してる可能性もあるわね。人口が減ってる理由としては、本当に喰われた人もいそうだけど。


「なるほど……リオ、分かるかい?」


「えぇ。町民全員と話してみたいわね。半狂乱していないけどおかしな人も居ると思うわ」


「え……?あの、確かに暴れはしないけれど、おかしい考えの者がおります。何故お分かりになられたのですか?」


 ララちゃんのお母さんは不安そうにララちゃんと抱き合っていた。そうよね、何が起こってるかも分からないのに、初めて会った人間に言い当てられたら驚くわよね。


「ここだけの秘密にして貰えますか?今は緊急事態なのでお母さんとララちゃんだけにお教えしますけど、彼女は聖女様です。半狂乱した者達を浄化して助けられる唯一のお方です」


 騎士服を着ているサイラスが説明したから真実味があるわね。ララちゃんは楽しそうに、ララちゃんのお母さんは驚いた顔をしている。


「だから猫ちゃんを連れているの?」


「そうよ、ララちゃん。この猫ちゃんは精霊でソラって言うの。お話も出来るのよ」


「ララ、はじめまして〜。精霊の王子様のソラだよ〜」


「わぁー!猫ちゃんが喋ったー!」


「ララ、絶対に皆んなには内緒、出来る〜?」


「うん、ララ言わないよ!大事なお仕事中なの?」


「そうだよ〜。この町を救う事が聖女様の今回のミッションだよ〜」


「じゃあ、もう大丈夫だね!お友達のお父さんも助かるよね?」


「えぇ、必ず助けるわ。だから、全てが終わるまで、お家から出ないで待っていてくれるかしら?」


「危ないから?」


「えぇ、そうよ。外に出ちゃったララちゃんを助ける為に、誰かが怪我をするかも知れないでしょう?だから外には出ないで欲しいの」


「そうね、今は危ないんだもんね。ララもお外で危なかったから、お家からは出ないで良い子にしてるね!」


「良い子ね、ララちゃん。じゃあお姉ちゃん達は頑張ってお仕事して来るから、また後でね」


「うん!頑張ってね!」


 ララちゃんのお母さんに牢屋の位置や人数を細かく聞いてくれている爺やとソラ達がひと段落したら、地下へ移動する予定だが、その前に町長さんのお家に行かないとね。


「カミル、町長さんのお家は分かった?」


「どうやら、町長も地下に居るらしいんだ……」


「えぇ……まぁ、それじゃあ仕方ないわね?食べられた人と、半狂乱になった人が居るから、戸籍とかがあるなら調べるべきよね?」


「それは後で来る予定の調査員達がやってくれるから大丈夫だと思うよ。僕らがやるべきは、町長を正気に戻して、詳しく説明させる事かな……」


「分かったわ。取り敢えず地下へ移動しましょうか」


「そうだね。人数も8人らしいから、僕らだけでも対処出来ると思うよ」


「ソラ、お願い出来るかしら?」


 ソラが固まって微動だにしない。珍しいわね?


「ソラ様〜?」


 シルビーが心配そうにソラを覗き込んでいた。


「リオ、またあの気配がするよ〜。僕とシルビーはこの家で待機してる方が良さそうかな……転移したら直ぐに戻って来るから、シルビーはここで待機していて?」


「了解だよ〜、ソラ様〜」


「ソラ、大丈夫?ソラは王子様だからか敏感よね。無理はしないでね?」


「うん、大丈夫だよ〜。出来るなら一時いっときもリオとは離れていたくないけど、リオの邪魔はしたく無いからね〜。終わるまで我慢して待つよ〜」


「ありがとう、ソラ。待っていてね、大好きよ」


 ギュッとソラを抱き締めてから離すと、地下へ転移してくれた。


「じゃ〜、ララのお家に帰ってるね〜」


「えぇ、ありがとう、ソラ」


 ポンっ!と去るソラは寂しそうだったけど、こればかりは仕方ない。早く終わらせてソラの所へ帰ろう。


「リオ、サイラスとデュークを先に行かせるよ?」


「えぇ、任せるわ。ただ、少しでも具合が悪くなったら教えてね。一応、防御膜を皆んなに張っておくわね」


「ありがとうございます、聖女様」


「サイラス、良い加減に名前で呼んでくれる?一時期は名前で呼んでくれてたじゃない」


「…………善処ぜんしょします」


「もう何回目の遣り取りでしょうか。サイラスも飽きませんね」


「そうね……リューは体調大丈夫?少しでもおかしいと思ったら、早めに言ってね。何故そうなるのかすら分かって無いから心配なのよね……」


「そうですよね。狂うか、具合が悪くなるか?どちらも嫌ですよね……」


「問題無い。受け入れたら良くなる」


「誰だ!?」


 バッ!と後ろを振り返ると、顔は美しいと思われる部類だが、血の気が引いているのか青白い顔色は人形の様で少し怖い。そんな中性的な見た目の男の子?が立っていた。


「やぁ、初めましてだよね。吾輩わがはいの邪魔ばかりをしてくれている『聖女様』、だったかな?」


「えぇ、貴方が魔道具を作った張本人であるならば、私は貴方の邪魔ばかりをしていると思うわ。貴方は誰?」


「ハハハ、吾輩が怖く無いのか?お前以外のニンゲンは吾輩を怖がって、言う事を何でも聞いてくれたのに」


「言う事を聞かせてた?魔物にするか、苦しませるか、だけでは無いと言うの?」


「へぇー?そこまで分かったんだね!凄いなぁ。あの男は理由も分からずに死んで行ったと言うのにね」


「あの男って、コテツさん?」


「…………お前、アイツを知ってるのか?」


「えぇ、夢でお会いして話しをしたわ。何やら色々とすれ違ってたみたいね」


「何がすれ違いだ!アイツの所為せいで!」


「ねぇ、貴方は何を怒っているの?私達は町民を助ける為に、この町に来たの。貴方は帝国に家があるんじゃ無いの?何故なぜ王国に来たの?」


「そんなの吾輩の勝手だろ。お前になんぞ教えてやる気は無い」


「あら、貴方は王国への不法侵入ふほうしんにゅうで捕まえる事が出来るのよ?犯罪者なのだから、貴方は私の質問に答える義務があるわ」


「うるさい!吾輩に指図さしずするな!」


「あらそう、残念ね」


 私は大量に作って貰った『魔封じ』を顔色の悪い男に付けようと近づく。


「何だ、それ?吾輩を捕まえる気か?転移が出来る吾輩を?お前馬鹿だな」


「転移は貴方の専売特許じゃ無いでしょ。それは精霊の能力よね?貴方だけのものでは無いわ」


「ははっ!精霊の居ない王国には専売特許も同然ではないか。それに、精霊が居たとしても吾輩に近づけまい」


「気持ち悪くなるとか?」


「いや、精霊は基本的にボーッとする事が多いな。苦しむのは抵抗するニンゲンが多い。抵抗せずに受け入れたなら、ボーッとして言う事を聞く。欲深よくぶかい者の方があつかいやすいな」


「抵抗した人間は苦しむのね?受け入れた人間の最後は魔物になるの?」


「そうだ。精霊は皆んな素直で良い子だから、魔物にちないんだ。賢い子はたまに抵抗して消滅してしまうけどね」


「なんて事!抵抗した子は死んでしまうの?」


「心配しなくても、抵抗出来る賢い子は少ないんだ。大体はゆっくり気持ち良いままで消滅して行くよ」


「結局は遅かれ早かれ死んでしまうんじゃない!」


「苦しまずに幸せな気持ちのままでけるんだよ?とても幸せじゃないか。何故怒る必要がある?」


「貴方のせいで消滅してしまった精霊が、残して来てしまった契約者を心配していたわ。ずっと一緒に居るって約束したのにって!貴方が引き離したのよ?」


「えぇ?そうなの…………?」


 え?ちゃんと考えてるみたいね?それともポーズだけ?不思議な子ね……


「うーん、ちょっと考えたいから吾輩は帝国に帰るよ。お前、また話しを聞かせろよ。知らない事、誰も教えてくれないから分からない」


「え?貴方には母上が……」


「黙れ!その事は言うな!分かったな?」


「分かったわ。貴方が言いたく無いなら無理には聞かないわよ。それより魔物は置いてく訳?半狂乱してる人間はどうしてくれるのよ?」


「魔物はお前が狩れば良いだろ?吾輩が送り込んだ魔物数百万匹すら意図も容易く殲滅していたではないか。この程度の魔物は『朝飯前』だろ?抵抗して狂ったニンゲンは浄化すれば普通のニンゲンに戻る。抵抗せずに受け入れた、おかしいと言ってたニンゲンは、まだ吾輩の指示は出して無いからお前が浄化すれば元に戻る」


「ご丁寧に説明してくれてありがとう?」


「どういたしまして。それじゃ、吾輩は帰るからな」


 コテツさんの子は転移魔法で帰った様だ。半分精霊だからか、素直な所もあったわよね?


「取り敢えず、目の前の8人とおかしくなった人達を浄化してから、町の外に居る魔物を殲滅して帰りましょうか」


「あ、あぁ、うん。そうしようか……」


 カミルが珍しく動揺してるわね。やるべき事をやってから、落ち着いて考えた方が良さそうだから、ちゃっちゃと終わらせるわよ?膝をついて手を合わせる。スキルが発動して、パァ――――――ッと白い光がキラキラと舞い降りて、8人の体を包み込んだ。


「う、うぅ……ん?どうしたんだ?」


「あれ?ここは地下牢では?」


「え?酒飲んで暴れたか?」


「皆さん、落ち着いてください。聖女様が浄化してくださったので、家に帰っても大丈夫ですが、急に帰っても追い出されるでしょうから、我々が各家庭に説明に行きますので家まで連れて行ってください」


「何だか良く分かっていませんが、やる事は分かりました。よろしくお願いします」


「町長さんはどちらの方?」


「あ、ワイです」


「詳しい話しを聞こうと思ってましたが、記憶に無さそうですね……ご家族にも話しを聴きたいので、お宅を教えてください。一緒に帰りましょう」


「えぇ、分かりました」


「他の方々は、順番にお連れしますのでお待ちくださいね。説明出来る者が少ないので、少し時間が掛かりますが、のんびりなさっていてください」


 説明や書類関係はサイラス、デューク、リューに任せて、私と残った者達で町の外の魔物を殲滅する事に。早く終わらせて、帰りたいわね。今日は色々あったわ。


「300匹ぐらいだし、剣で倒そうか。魔法だと森が近いから少し心配だしね」


「そうね。サクッと終わらせちゃいましょ」


「それじゃ、ワシはのんびりしとるかのぉ。何かあったら知らせるから、殲滅に集中してよいぞ」


「それでは師匠、お願いしますね」


 ほんの10分ちょっとで魔物は殲滅出来たが、何だかスッキリしないわね。まぁ、一度休憩してから考えましょう。デューク達は終わったかしら?


「カミル殿下、8人全員を家に帰らせました。調査の人間が到着しましたので、後は任せて来ました」


「お疲れ様。それでは一旦、王城へ帰って休憩しよう」


「精神的に疲れたわね……」


「あぁ、本当にね。本気でヤバいと思ったのに、何故か納得して帰って行ったよね」


「やっぱり、話し相手が欲しいんじゃないかしら?」


「あり得ないと思ってたけど、何となくあり得るかも?と思えて来たよ……」


 ポンっ!とソラ達が目の前に現れた。


「リオ、疲れた……帰ろ〜」


「えぇ、転移出来るなら、直ぐにでも帰りましょうね」


 ポンっ!とカミルの執務室に転移していた。珍しく、ソラが何も言わずに転移したから、喋りたく無いぐらい疲れているのね、きっと。


「皆んな、ご苦労様。今日は解散しよう。疲れた体をしっかり休めて、明日また集まってくれ。解散!」


「お疲れ様、皆んな。私も部屋に戻るわね」


「あぁ、リオ。また明日ね」


「嬢ちゃん、お疲れ様だったのぉ。今日は王城で休むかい?」


「ソラはどうしたい?」


「バーちゃんの所に行きたい」


「んじゃ、先に帰っていなさい。ワシは仕事が終わったらすぐに帰るからな」


「えぇ、分かったわ。後はよろしくね」


 ポンっ!と婆やの屋敷の私の部屋に転移した。


「リオお嬢様!大丈夫ですか?」


「お顔が蒼白そうはくでいらっしゃいます……」


「あぁ、私もなのね?今日はもう寝たいわ。着替えをお願いして良いかしら。ソラ、一緒に寝ましょう?」


「うん。今日はお布団に入れて〜?リオの近くから離れたく無いよ〜」


「えぇ、良いわよ。もっと普段も甘えてくれて良いんだからね」


「えへへ。ありがとう、リオ。気持ちが嬉しいよ〜。それに今日はリオに甘えられて嬉しいよ〜」


「ふふっ。それは良かったわ。それじゃあ、おやすみなさい、ソラ。良い夢を」


「うん。おやすみリオ。また明日ね〜」


 疲れていた私は、瞬間で眠りに落ちた。もしかしたら、ソラが深く眠らせてくれたのかも知れないけれど、もう考える事すら億劫だった私は、ベッドに入ってすぐに意識を手放したのだった。

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