第127話 盗み聴きからポンッ! ★ソラ SIDE→カミル SIDE

 どこの国でも王様は、大事な事しか教えて貰えない事が多いらしい。判断しなければならない事柄が多過ぎるからだねー。


 オイラが今居るデュルギス王国も、それに近い報告がなされるのだが、寿命の長い王様は暇らしい。宰相と呼ばれるオジサンに質問責めしていた。


「それで報告は終わりか?他に何処か小さな町で起こった怪奇現象かいきげんしょうとか無いのか?」


「先日もその様な質問をなさりましたが、そんなにしょっちゅう、その様な現象が起こっても困ります」


「もっと楽しい事件が起これば良いのにな」


「陛下は楽しめたとしても、それを解決する人間は大変なのですから、面白がらないでください」


「はぁ、相変わらず宰相殿は真面目だな。カミルは私より君に似てる気がする……」


「それはそうでしょう。勉強で分からない所があれば、私が一から細かく教えて来ましたから、陛下との時間よりも私との触れ合う時間の方が長かったはずですから」


「ずるい……私も小さかった頃のカミルと遊びたかったなぁ」


「殿下は遊んでる時間など殆どありませんでしたよ。王子教育、魔法が使える様になってからは魔法と、興味をお持ちだった剣術の稽古で幼少期の殆どは過ごされました」


「うげっ。私には無理だな……素直にカミルを尊敬しよう。よく私の息子として生まれて来てくれたよなぁ?」


「王妃様の本質を受け継がれたのでしょう」


「王妃に似たから賢いんだな!って、もう少し私を褒めるとかしたらどうだ?一応はこの国の王なのになぁ」


「貴方は褒めたら図に乗るだけで、次に起こす行動が面倒になりやすいから褒めないのです。褒めて伸びるなら褒めてますよ」


「なるほど……」


「はぁ、納得しないでください陛下。それよりも、お隣の帝国に程近い小さな町の外れの谷に、魔物が200匹程現れた様です。殲滅部隊を送り込んでも?」


「ほぉ?この時期に魔物が?」


「珍しいので、調査隊も出したいとは思っているのですが、町の人間達の調子もおかしい様で……聖女様に『浄化スキル』を使って貰う可能性もあります」


 ん?リオの出番って事?


「御披露目の前には動かしたく無いなぁ……」


「その通りではありますが、民の苦しみを後でお知りになったなら、聖女様はもっと早くに助けたかったとなげかれるのではないかと思いまして」


 この宰相、リオの事を分かってくれてるんだよね〜。


「確かになぁ。リオは心根が優しい子だからな。偵察ていさつには向かわせているのか?」


「はい、夕刻までには戻るかと」


「それを待ってから決める事になるな。国内の御披露目まで時間が無い。準備は終わっているのだよな?」


「はい。聖女様の準備は滞り無く終わっております」


「だろうな。周りが優秀だから、間違っても数日後に控えたパーティーの準備が終わってないなんて事はあり得ないよな」


「邪魔するやからがいて大変だった様ですが」


「邪魔?」


「殿下と爺様方が、ドレスで揉めたとか。ドレスに合わせた靴を選ぶ時も揉めていたそうですよ」


「大変だったな、主にリオが……」


 王様もある程度分かってるんだよね。まぁ、どちらかと言えば、カミルとジーさんの性格を、ね。


「そうですね。お優しい聖女様は、遠くからお茶を飲みつつ『話し合い』が終わるのを待たれたそうです」


「ぶふ――っ!あの2人の言い争いを傍観ぼうかんしていたと?やはりリオは人の上に立つべき人間なのだな!あははは!」


「えぇ、報告を受けた時、さすがに私も少し笑ってしまいました。彼女は肝が据わっていて素晴らしい」


「面白い子だよなぁ。あぁ、そう言えば……この前『予言』では無いのだが、女神様が夢枕にお立ちになった」


「え!?何故そんな重要な事を……!」


「あ、いや、内容がな?リオをよろしくって言われただけなのだ。この世界の救世主だからと」


「えぇ……?保護者……的な?」


「あぁ。女神様の愛し子と言うのは本当らしいな」


 あ、そうだった。リオって女神様の愛し子だったね。じゃあ、少し無茶しても大丈夫だね。愛し子って『運』が滅茶苦茶良いんだよねー。


「え?ええっ!?あの幻とまで言われる、本当にあるか分からないと噂の、『加護』より上で、信仰対象に接触が出来ると言う?」


「そうだ。リオは既に何度も女神様と会話をしたらしいからな。爺さんが驚いて言いに来たぞ?」


「何故その情報が私に入って無いのでしょうか?」


「い、言い忘れてたんじゃ無いか?」


 その時、影の鈴の音が響いた。報告したい様だねー。


「ここへ」


「はっ!失礼致します。隣国と接した町の報告に上がりました」


「述べよ」


「はっ!町の人口が183名、魔物の数が300を超えた模様。未だに増え続けております。急ぎ救助すべきかと。また、一部の町民が人を襲っている可能性がある様です」


「何だって?魔物が増えている?」


「スタンピード程では無いと思われますが、『狭間』の様な所から魔物が生まれてると考えるのが妥当でしょう」


「そうなると適任者は……」


「聖女様になるかと」


「そうなるだろうな。人が人を襲ってるのもおかしいからな。それを全て解決出来るのはリオしかいないか」


 浄化が必要なら、カミルとジーさんを連れて行けば足りるかな。シルビーに連れて来させて説明しなきゃ。ポンっ!と2人の前に現れる。


「それじゃ〜、行って来るね〜」


 大きく目を開いた2人は、そのまま固まっていたが、さすがの王様が慌てて声を上げた。


「ソラ殿!待たれよ!カミルと爺さんとデュークは連れてってくだされ!出来ればリオの護衛も!」


「りょ〜か〜い」


 ポンっ!リオの膝の上に戻る。声は離れても聞こえているんだけどねー。実際、今の話しを聞いてたのはリオの膝の上からだったし。


「ふぅ、間に合ったよな?ちゃんと伝わったよな?」


「えぇ、咄嗟とっさの判断にしては的確な指示だったかと」


「はぁ……良かった。後は任せるしか無いのだが……もしかしてソラ殿はその場所も既に特定していた?」


「早く解決すべきだと分かっておられるのでしょう。だから、こちらが気づいて無ければ助言をするべく、近くにいらしたのでは?」


 やはり宰相は良く分かってるね。今回は偶然だけどねー。


「ただ単に、精霊は耳が良いのかも知れんぞ?情報を集めるのが得意だと言っていたしな」


 何気にするどい事を言うね、王様。


「確かに。まぁ、説明の手間は省けましたが、任せて良いのでしょうか?」


「ソラ殿の方からやると言われたのだから断る理由も無いしなぁ?きっと町の人間も怖がっているだろう?」


「そうですね。後は任せても大丈夫でしょう。判断力のあるカミル殿下と、決断力のある聖女様がいらっしゃいますしね」


 溜め息を吐きつつも、2人は皆の無事を願っている様だった。


 ⭐︎⭐︎⭐︎


「リオ〜!お出掛けだよ〜!」


「ソラ、お帰りなさい。何処に行くの?」


「隣国と隣接してる町だよ〜。魔物がどんどん増えて町民達が危険なんだって〜」


「まぁ!カミル達に相談しないと」


「リオ!」


「カミル、話しは聞いた?急がないと」


「あぁ、移動はソラ達に任せるとして、着替えて僕の執務室に集合を。ソラ、シルビー!」


「ジーさんとデューク連れて来る〜」


「リオの護衛探して連れて来る〜」


「よろしく頼むよ。それじゃ、後でね、リオ」


「えぇ、また後で」


 ⭐︎⭐︎⭐︎


「お待たせ、カミル」


「こちらも準備が出来た所だよ。リオは……その格好で良いのかい?」


 リオは細身だから、少し着せられてる感はあるけど、中々勇ましい格好をしていた。


「えぇ、ドレスでは自由に動けないわ。騎士団の制服は黒で汚れも目立たなさそうだし、私はこれで良いの」


「ホッホッホ。聖女様には見えんのぉ。世界を救う騎士様だのぉ?ホッホッホ」


 騎士に成り立ての孫を見ている様な視線でリオを褒めるジーさんは、やっぱりリオが大好きなんだねー。


「乗馬服もあるんだけど、王都から離れた遠い町に乗馬服だと逆に目立つだろうってリリアンヌ達が言うんだもの。目立つと迷惑が掛かるし、騎士に紛れられた方が良いだろうって」


 リオの侍女達も賢いよね。リオがたまにしかお願いしてくれないからと、先回って好みそうなお菓子などを買って来てくれるらしい。先回って何でもやるから、リオがお願いする事が無いんだけどね。いつ気がつくんだろうかと思ってるよー。


「あぁ、確かに騎士のフリをした方が、逃げる時は楽でしょうね。特徴があると直ぐに見つかりますし」


「えぇ。そうだと思ったから、騎士服で手を打ったわ」


「皆んな準備は終わった〜?急がないと暗くなっちゃうから向かうよ〜?」


「えぇ、お願いねソラ。位置は分かってるの?」


「うん。もう既に1度往復して来たから、ある程度なら地理感もあるよ〜」


「さすがね、ソラ。頼りになるわ!よろしくね」


 やっぱりリオに褒められるのが1番嬉しいね。行った先でも頑張るぞー。


「は〜い!じゃ〜、行くよ〜」


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 ★カミル SIDE

「皆んな居る〜?リオ、カミル、ジーさん、デューク、リュー、サイラス、シルビーで良いんだよね〜?」


 ソラが点呼してくれている。ソラってリーダーの様な立ち位置が得意だよね。精霊の王子様だからだろうね。


「思ったんだが、何故に少数精鋭しょうすうせいえいで来たのじゃ?急がなければならないのは分かるが、犯人を捕まえたら連れて帰らねばならんから、馬車は必要じゃろう?」


「爺や、恐らくソラの事だから想定済みだと思うわ。その上で、私が現場に行かなければ解決しないと陛下が思っていらしたのであれば、ソラは私の御披露目の日までに終わらせたかったのでしょう」


「さっすが〜。リオはオイラの行動を良く理解してるよね〜」


 ソラとリオの信頼関係は眩しいよね。僕もシルビーとそんな関係を築ける様に、もっと対話しようと思う。


「ソラ、嬉しいけど、ちゃんと皆んなにも説明しないと駄目よ?手伝って貰わなきゃいけないんだからね?」


「本来なら手伝って貰う必要無いからね〜。リオとオイラだけでも解決は出来るよ〜。見届け人が必要だろうと思ったからカミル達も呼んだだけだよ〜」


 ソラの言っている事は確かに正しい。精霊に人間のルールを適用しろと言う方がおかしいだろう。何歩も譲って、僕達を連れて来てくれただけでもありがたい事なのだ。


「ソラ、ありがとう。リオ、それで良いんだよ。ソラはちゃんと最低限の報告はしてくれているからね。精霊の行動を縛るより、自由にさせた方が効率も良い。精霊は契約者に不利な事はしないからね」


「カミルはソラをとても信用してるわよね、最初からだと思うけど」


 あぁ、リオには言って無かったかな?


「うん。古文書を読んだからリオも分かると思うけど、精霊って契約者が儚くなるまで寄り添ってくれる存在だとあったからね。勉強していたあの頃の僕は、誰にも興味を示せなかった。リオが僕の前に現れてからは違うけど、あの頃は精霊という存在が隣にいる事が羨ましかったんだ」


「なるほど。気持ちは分からなくも無いわね。人ってたまに孤独におちいるもんね」


「リオってたま〜にだけど、深い事言うよね〜」


「シルビー、そんなのたまにで良いのよ。いつも深く考えてたら疲れちゃうでしょ?人間って前向きに考えないと生きて行けないくせに、怠け者なのよ。面倒よね」


「色々詰め込んで吹っ飛ばした言い方ではあるけど、言いたい事は分かったよ〜。リオは真面目なんだね〜」


「そうだね、ソラ。哲学者になったら面白そうだね」


「嫌よ、私は無知むちだもの。そんなの『賢者』の爺やに任せておけば良いわよ」


「無茶振りしよるわい。それより次は、何処どこへ向かえば良いのじゃろうか、ソラ殿?」


「もう少し待機だね〜。リオの背面、60mぐらいの所に女の子……5歳ぐらいかな〜?隠れてるんだけど、魔物が多過ぎて近寄れないから、今は様子見してるよ〜」


「その子を助けて、届けるついでにご両親に話しを聞く予定なのかしら?」


「正解〜!リオ、今日もえてるね〜」


「なるほど、さすがじゃの。それなら町に入っても怪しまれない上に情報も手に入るからのぉ」


「凄いわね、ソラ。精霊って、そんな戦略的な事まで出来るの?」


「普通は出来ないよ〜。ソラ様は特別なんだよ〜」


「シルビーは褒め過ぎだよ〜。オイラはカミルと王国の王様がシミュレーションしてるのが面白くて聞いてたから覚えてただけだよ〜」


 あぁ、しょっちゅう陛下に付き合って、策略をシミュレーションしてるのを聞いてたんだね。


「ほぉ、暇潰しにカミルとシミュレーションなんぞしておったのか。ワシもやりたかったわい」


「私もやって見たいわ!面白そうよね。ソラは知識欲があるのかしらね?私も見習わなきゃ」


「リオは充分だと思うよ〜。あ、動いたね〜。オイラはリオとデュークを連れて行くから、その他はバレ無い様に近付いてね〜」


「えぇっ!危険じゃ……」


 パッとリオとデュークとソラが消えた。仕方ないから言われた通りに近づくけど……リオの護衛が、全く護衛出来ないんだよね。ソラにはもう少し言いたいけど、精霊だから仕方ないかなぁ……

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