第124話 未来へ向かって ★カミル SIDE

 リオとソファに並んで腰掛け、お互い契約している精霊を膝に抱いて、のんびり過ごす時間はとても幸せを感じられる。


「リオ、慌ただしくて申し訳ないんだが、今後の予定も軽く決めなきゃならないんだ」


「あら、もう動くの?」


「あぁ、皇帝を呼ぶのはもう少し後なんだけど、リオの御披露目パーティーを国内で先にやらないのはおかしいだろう?」


「…………何処からか苦情でも出たの?」


 あぁ、もう何かかんづいたかな?リオは賢いから下手に隠し事は出来ないので、全て正直に話すしか無いんだよね。


「主に陛下やリズ達だね」


「それって身内のお祝いで良くない?」


「陛下は民にも還元したい様でね」


「あぁ、少し大きめのパーティーを開いて、お金を使いたいって事かしら?」


「うん、そうだね。今年は大きなパーティーが少なかったんだ。スタンピードのパーティーも小さめで、一部の貴族しか来てなかったしね」


「なるほどね。パーティーなどでお金を使う口実が欲しいのなら仕方ないわね。貴族達は新しい服や靴にお金をかけるだろうし、還元するならパーティーが手っ取り早いもんね」


「さすがだね、リオ。だからリオのドレスも新調しようね。アクセサリーも揃えようか」


「ドレスだけで良いわ。アクセサリーは、アメトリンのネックレスをお披露目したいの。あれからこの時をずっと待って居たのよ?ふふっ」


「それじゃあ、指輪のデザインに合わせたイヤリングを贈るね」


「限定的ね?もう準備してあるの?」


「うん。本当は指輪を作った時に、イヤリングも同じデザインと同じ石で注文していたんだ。指輪を急いだから、イヤリングは落ち着いてから受け取りに行ったんだよ」


「急いだ?あぁ……」


「うん、プロポーズした時だね。師匠と婆やの思い出の宝石店で、そろいで作って貰ったんだ。受け取ってね」


「えぇ、ありがとうカミル。婚約指輪とおそろいなんて素敵なサプライズね。嬉しいわ」


 喜んで貰えて良かった。あの繊細な細工のデザインは、小ぶりなイヤリングであってもリオに良く似合うだろう。指輪も毎日つけてくれているし、また良い石が見つかったら贈りたいと思っている。リオが遠慮しない程度にだけどね。


「喜んで貰えて良かったよ。リオの御披露目パーティーが終わったら、皇帝を王国へ招待する事になるだろう」


「どうやって皇帝を呼び出したの?」


「あー、その、リオの御披露目パーティーは、かなり盛大に行われると吹聴ふいちょうしておいたんだ。王太子妃になるとは言え、まだリオは一貴族と同じ扱いだからね」


「なるほど、私をどれだけ大事にしてるかを知らしめた形になるのね」


 今回はどうしても、リオが危険だと分かっていても、この策しか思い浮かばなかった。そんな自分が不甲斐ないが、次は絶対にリオをおとりの様には使わないと女神様に誓うよ。


「そう。危険な目に遭わないとは言い切れないけど、必ず僕が守るから安心してね」


「ふふっ、ありがとうカミル。大丈夫よ。私もカミルを守りたいわ」


「無茶はしないでね?リオが居ない世の中なんて生きている価値すら無いのだから」


 僕を庇って刺された、血にまみれたリオの横たわる光景が思い出される。リオも僕も、あの時とは違うと分かっているけど、思い出すと未だに胸がギュッと締め付けられる。


「えぇ、私もよ。カミルが居なきゃ意味が無いの。2人とも無事に生存出来る、最善と言える選択肢を探しましょうね」


 きっとリオもあの出来事があったから分かっているのだろう。前回、互いが互いを失いたくない存在だと気が付いたからこそ、どちらがどちらかを守るってだけでは駄目なのだと。2人とも助からなければ意味が無い。


「あぁ、そうだね。是非、そうしたいと思うよ。何があってもね」


「カミル、これから出兵する訳でも無いんだから……何か気掛かりな事でもあるの?」


 あぁ、不安にさせてしまったか。滅多に弱音なんて吐かないのに、リオのそばは優しく包み込まれる様に心地良くて、つい弱音を吐いてしまったなぁ……


「いや、違うよ。僕達は2人とも狙われやすい地位にいるからね。少しナーバスになっていたのかな」


「カミルは幼い頃から狙われ続けて来たんだから仕方ないと思う。でも、私達が居る事を忘れないでね?みっともなくても最後まで足掻きましょ」


 上部うわべの良い所だけを見るのでは無く、立場や考えまで理解してくれる伴侶が見つかる事なんてまれだと分かっている。だからこそ、リオを手放すなんて有り得ないのだ。


「ありがとう、リオ。僕はリオが居るから頑張れるんだよ。いつまでも側に居てね?愛してるよ」


「えぇ、勿論よ。ふふっ、カミルはソラと同じで寂しがり屋さんなのかしらね?次世代に王位を譲ったら、精霊界でソラとカミルとシルビーの4人で、一緒にのんびり暮らしましょうって話しをしてたのよ?ふふふ」


 ソラがドヤ顔で良いアイディアでしょ?と言っている様だね。可愛いな。


「いいね!そうしよう。その為にも、目の前の問題を片付けなければだな」


「そろそろお昼だし、ご飯も炊けたぐらいだと思うから、『おにぎり』と『めかぶ』と『味噌汁』を食べて行く?」


「うん!ありがとうリオ、ご相伴にあずからせて貰うね。初めて聞く『めかぶ』が元々捨てていた部分?楽しみだなぁ。リオのご飯は元気が出るからね」


「ふふっ、それは良かったわ。案外、普段捨てている部分って調理が面倒だったり、悪くなるのが早いから捨ててる事が多いのよ。実はとても美味しかったりするのよね」


「へぇー、そうなんだね?今度から、リオが知ってる食材で、美味しく食べられる物があったら、是非作ってくれないかな?」


「えぇ。それは構わないけど……食材の名前が違ったり、用途が違ったりするから、中々見つけられない気がするわね。小麦粉や卵があれば、ある程度はお菓子のレシピぐらいなら覚えているけどね」


「お菓子!良いね。僕は甘い物も好きなんだよ」


「この世界では砂糖が高いとか、塩が高いとかは無いの?この前お金の価値を学んだけど、恐らく私の世界では、砂糖で銅貨2枚あれば1キロは買えたと思うわ」


「こっちでもそのくらいだね。珍しい異国の香辛料になると高値で取引される事もあるけど、基本的に価格は落ち着いてると思うよ」


「それは良いわね。今度、落ち着いてからで良いから、この国の市場を見てみたいわね。食料だけで無く、日用雑貨などの価格も気になるわね」


「そうだね。リオだからこそ、気がつく事もあるだろうからね。国の為にもなるし、一度お忍びで視察に行こうか」


「本当に?嬉しいわ!私の侍女達にもお土産を買いたかったのよ。リズが申し訳無さそうに、いつもお土産を持って来てくれるんだけど、そのお返しもしたいわね」


 あぁ、ソラの言った通りだったんだね。リオは我が儘を中々言ってくれないから、これからは僕がちゃんと気づいてあげなきゃいけないよね。


「リオ、ごめんね?リオにはたくさん我慢を……」


「カミル、それは仕方ない事だから謝らないで?私はカミルの隣に立ちたいと、自分で決めたんだもの。ちょっとした我慢が嫌でも無ければ、後悔もしていないわ。私にとっては、貴方と共にる事が最重要事項よ」


 うっ……不覚にも泣いてしまいそうだ。リオは真っ直ぐな言葉で僕を救ってくれるね。自分で僕と共に生きる事を選んだのだから謝らないでくれなんて……声を出したら涙が流れてしまいそうで、何も答えられない。


「ねぇ、リオ〜。カミルもリオも、一緒に精霊界で住めるの〜?」


 見兼みかねたシルビーが助けぶねを出してくれたね。精霊は契約者のその時の感情が分かるらしい。とても助かるね。


「えぇ、カミルが王様の地位を子供にゆずったら、私もカミルものんびり余生よせいを過ごす為に、精霊界に移住しようかって。まぁ、数百年先の話しになると思うけどね?」


「わ〜い!ボク達精霊にとっては数百年なんて大した長さじゃ無いからね〜。ボクは既に1000年生きてるし〜」


「あー、確かにそうかもね?」


 リオが話しながら『オニギリ』を目の前でにぎってくれている。香ばしく焼けた海苔のりが食欲をそそるね。この前は全てが初めて食べる味で驚いたけど、今回はじっくりと味わいたいね。


「カミル〜、これが『めかぶ』なんだって〜。海藻かいそうの根っこを下処理してからミジンギリ?めっちゃ叩いてた〜!」


「ふふっ。醤油を少しかけてから、良くかき混ぜて食べてみて?苦手なら無理して食べなくて良いわよ」


 いやいや、リオが作ってくれた物なら何が何でも完食するよ。例え丸焦まるこげのクッキーだったとしてもね。


「うん!コリコリしてて美味しいね。珍味?ネバネバしてるのに嫌じゃ無いね」


「暖かいお米をおわんによそって、それにかけて食べる事が多いわね。さすがにカミル達にはお箸では難しいと思うけど」


「え?これって本来は、お箸で食べるの?僕はスプーンでしか食べれる気がしないなぁ……」


「ふふっ。私は小さな頃から使い慣れてるからね。男の子はお椀に口をつけてかけ込んで食べたりしてたわね」


「なるほど、この世界では下品だと言われるから厳しいね。精霊界に移住したらやってみたいかな」


「うふふ、それ良いわね。今出来ない事を、精霊界に行ってから堂々とやってみるのも良さそうね。そういった楽しみを、これからメモして行きましょう?」


「そうだね、それは楽しそうだね。ふぅ、ご馳走様でした。リオ、今日も美味しいご飯をありがとう。午後の仕事も頑張って来るからね」


「えぇ、いってらっしゃいカミル。無理しないでね」


 ついニヤけてしまう顔をソラ達に見られない様にそっぽを向いたのに……


「またカミルがニヤけてる〜」


「世界にラブラブは必要だよ〜。世界平和だよ〜」


「シルビーは大袈裟だね〜」


「だって、笑顔の方が、皆んな幸せだもんね〜」


「確かにそうだけど……まぁ、今日も王国は平和だって事だね〜」


「そうだね〜。バーちゃん家は毎日平和になるね〜」


「ふふっ、シルビーは前向きね。皆んなが毎日笑って暮らせる様に、私達も頑張るからね」


「そうだね。今、僕に出来る事をしっかりやるよ。明日はドレスを仕立てるらしいから、婆やに予定を聞いておいてね。時間が取れたら顔を出すよ。厳しかったら、明後日の御披露目パーティーの話し合いの場になるかな」


「分かったわ。シルビー、カミルが休憩をしっかり取るように見張っていてね?カミル、あまり無茶しないでね」


「は〜い!任せといて〜!」


「あはは、善処ぜんしょするよ」


 こうして穏やかな時間はあっという間に過ぎ、午後の仕事に向かうのだった。

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