第110話 飯、風呂、そして寝る ★リオ SIDE
気持ち悪い魔道具は、魔導師達が防御膜で包み込んで『黒いモヤ』に触れられない様にしてくれている。
魔道具を持っていた魔導師は、よく見ると痩せ細って頬がこけており、目の下の隈が不健康に見える。取り押さえたデュークが「細過ぎだ」と呟いていたから間違い無いだろう。
「『対価』の『生命力』が何処の何に使われているのか不明なのが怖いんだけどな」
「デューク、『生命力』は魔道具を動かす為の『対価』でしょう?」
「魔導師から聞いた日数などの情報と、魔道具のエネルギーを計算すると、どう考えても魔道具の動力だけに『生命力』が使われているとは考えられないのです」
「えっ?魔導師の弱り方が酷いとか?」
「どう説明すれば良いのか……あの魔道具に必要な『生命力』は、数年持っていても所持者の見た目は変わらない程度なのです。そして彼は魔道具に気が付いたのは3ヶ月前と言っておりました」
「気付くまでに数年経っていた可能性は?」
「掌サイズではありますが、あの魔道具の存在を数年気が付かないとは……」
「正常な人間ならあり得ないね」
「じゃあ、魔道具は他にも用途があるって事で間違い無さそうなのね?」
「そうでなければ、逆におかしいかと。どうやって『生命力』の溜まった魔道具を回収してるか不明だが」
それらもまた調べなきゃ駄目なんだろうなぁ?デュークと爺やに任せてしまえたら良いのにと現実逃避したくなる。でも、やるべきはやらなきゃね。伝える事も、だ。
「ジャン、リア、恐らくなんだけど……」
「どうなさいましたか?」
「私の見解なんだけど、恐らくあのまま魔道具を引き離せなかったら、彼は魔物になっていたのかもしれないわ……」
2人が固まっている。ジャンには前に少し話したから、リアにも伝えていたかも知れないわね?ふと目が合ったリアが何か思い付いたのか、スッと前に出て来た。
「この前リオが言ってた事が気になって調べたのだけど、貴族の人間で行方不明になった人数だけでも、何故気が付かなかったのか不思議なレベルだったわ。それも長い年月、連続で行方不明者が出ていたの。ここ最近は特に増えていたみたいだわ。恐らく、平民はもっと多いのでしょうけど……」
「リア、調べてくれてありがとう。とても気になっていたから助かったわ。これで短期間で『生命力』が奪われている可能性も出て来たわね」
「我が国の民が消えている事に気が付かないなんて、皇族失格だわ……もっと早くに調べておくべきだったのに」
「何を言ってるのよ。現状では皇帝が1番悪いに決まってるじゃない。精一杯やって来たリアが責められるのであれば、私が文句言ってあげるわ!」
「ふふっ、ありがとうリオ。まだ終わって無いものね。私は責任を放棄するつもりも無いからね……」
やっぱりリアもカッコ良い。帝国の女性はきっと強いのね。婆やもカッコ良いセリフが多かったものね。それとも、リアが婆やに似てるのかもね?身内だから?
「リアは婆やと面識はあるの?」
「婆や?あぁ、叔母様の事?えぇ、面識があるわよ」
「リアと婆やは似てるわよね。婆やと同じで、リアの側に居ると、とても安心するわ」
「そう言って貰えると嬉しいわ。私、叔母様に憧れていたの。男達より強くて、親より優しくて、賢者並みに賢い叔母様……私がいつか叔母様を手伝えたらと思っていたわ」
「信頼関係もあるのね。私、結婚するまでは婆やのお屋敷に居る事も多いと思うから、しょっちゅう遊びに来ると良いわ。私の友達のリズも紹介するわね」
「リオの友達?」
「えぇ、カミルが信頼している公爵家の御令嬢よ」
「あぁ、そうなのね。公爵家なら助かるわ。皇女だからと息が詰まる様なお茶会なんて皆んな嫌でしょう?」
「ふふっ、そこじゃ無いわよリア。リズはカミルとデュークの幼馴染なのよ!色んな話しが聞けるでしょう?」
「きゃあ!リオ、ありがとう!大好きよ〜!」
リアが抱き付いて来た。恋の味方は今の所私しかいないのだし、手伝ってあげなきゃね。気持ちも少しは浮かんで来たかしら?
「ふふっ。持つべきものは友達よね」
「こんなに素晴らしい友達が出来るとは思わなかったわ。年は少し離れてるだろうけど、仲良くしましょうね」
「え?リアはいくつなの?」
「リオは15歳ぐらい?」
「あぁ、私は40代よ……」
「あら、私は50代よ。思ったより近いわね」
「こちらの50代は若いのでしょう?80代ぐらいまでは若いって聞いたわ」
「そうね。60ぐらいまでは子供扱いする人もいるけど、さすがに80代になると青年扱いが多いかしら」
「なるほど。どちらにしろ、私達はまだ子供扱いなのね……」
「そういう言い方はするけど、働いているのが前提だからね。皇族は働いて当たり前ではあるけど、帝国では貴族も25歳ぐらいから働くのが普通よ」
「へぇ、そうなのね。学園卒業してからって感じ?」
「貴族はそうね。学園に行ってないと結婚すら出来ない可能性が出て来るから、学生も必死よ」
「そうなの?少子化なら学園には空きがあるんだと思っていたわ」
「え?どう言う事?」
「席数は変わらないでしょう?子供が減れば、競争率……倍率は下がるじゃない」
「本当だわ……おかしいわね。誰かが操作してる?」
「学園側を調べる必要がありそうね。デューク辺りを転校生として学園に入れられたら直ぐに解決しそうだけどね」
「リオが来たら良いじゃない」
「カミルが許さないわよ。カミルまで来るって言い出したら、大変なのはリア達よ?」
「そ、そうね……それは勘弁して欲しいわ」
「まぁ、帝国の『膿』は、徹底的に出す事になるのでしょうけど。せめてスタンピードを無事に終わらせてから考えましょうか」
「本当に迷惑掛けてごめんね、リオ。わたくしはリオと懐の深い王国に心から感謝するわ」
「そうね、王国と国王陛下には感謝しなきゃね。私もここまで好き勝手させて貰ってるから、とても感謝してるわ。駄目って言われた事も、怒られた事も無いのよね」
「そ、それは本当に懐が深いと言うか、度量が広いと言うか?とても素晴らしい方々ね……」
「実は、私も放任主義なのかと思っていたのです。しかし普段から過保護に守られておいでなので、基本的には自由に過ごしていただいた上で、周りが守りを堅めるスタンスの様ですね」
「デューク様もリオを守る様に言われているのですか?」
「えぇ、勿論です。王国の魔導師ではリオ殿の次……は師匠で、その次に強いのは私なのです。陛下からもしっかり守る様にと、勅令を賜っております」
「王国も、聖女様を守る方向に舵を取ったのね。って、王国でもリオが1番強いの?」
「そうだと言われてるけど、実際は分からないわよ?」
デュークが呆れた顔で私を見ている。
「お強いですよ。元々の素質が素晴らしい上に、努力家でいらっしゃいますので、我々が追いつくのは難しいかと……私は諦め切れないので必死に練習していますが」
「ふふっ。私も追いつける様に頑張りますわ」
良い雰囲気になりそうね?早くくっついてくれたら良いのになんて思ってる私は呑気なのかしらね。
「デューク、スタンピードは私に任せてくれて良いから、デューク達は魔道具の方に尽力して貰って良いかしら?スタンピードは私とテオで問題無いでしょ?」
「そうですが、リオ殿の近くに居なければ、護衛の意味をなさないので……」
振り返り、テオに手招きする。
「テオ!貴方、賓客である私をしっかり守るわよね?」
「も、勿論です!命を賭してお守り致します!」
「あ、命は賭けなくて良いからね?私、これでもかなり強いから大丈夫だからね?」
「ふふっ、そうね。リオは強いものね。王国最強……」
デュークがリアの耳元でボソボソと言い聞かせているみたいだけど、どうしたのかしら?
「あー、なるほどね。カミル殿下は過保護だから仕方ないわね……私とリオとテオなら大丈夫かしら?ジャンには魔道具の方で指揮を取って欲しいのよ」
「経験を積ませたいの?」
「えぇ。これまで平和に見せていたからね。全く経験も功績も無い皇帝では、民も納得しないでしょうし」
「そうねぇ……今回のスタンピードの功績と、魔道具の功績をジャンとリアで分け合えば良いわね」
「え?ジャンだけで良いわよ」
私はスッとリアに近づくと、耳元で囁く。
「リア、功績があれば多少の無理は言えるわよ?お嫁に行きたい、とか?」
「えっ!そ、そうね……それは功績があっても良さそうではあるわね?」
「そうよ。それに、今回は特に、皇族の2人が頑張ったという事実が必要になると思うわ」
「そうですね。お2人に功績があった方が、帝国内でもそこまで混乱はしないでしょう。片方に権力が集まると、面倒な事にもなりやすいですからね」
「デュークって、カミルと考えが近いの?それともカミルがそうさせているの?」
「どちらもですかね?」
「バランス感覚が良いわよね。ふぅ〜ん……まぁ良いわ。取り敢えず、私達はスタンピード、デューク達は魔道具の方に注力してちょうだい」
「御意」
「リア、私は王国へ一旦帰るわ」
「そう、分かったわ」
「今晩は何時に寝る予定?」
「え?そうね……正直、お風呂から上がると直ぐに眠くなっちゃうから、お風呂に入るのは夕食後としか?」
「ふふっ、私も似た様なものだわ。そうね……じゃあ、私が後に寝てそうだから、勝手に呼ぶわね」
「え?何を?まぁ、リオなら間違い無いだろうから任せるけど……」
「えぇ、任せておいて!それじゃあデュークをよろしくねー!」
「えぇー?デューク様は置いて行くのー!?」
私はリアに向かってパチンとウインクをして、ソラと王国へ帰ったのだった。
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