第101話 隣国でもスタンピード ★リオ SIDE

 辿り着いた教会は大量の魔物と、それを抑えるために魔導師達が張り巡らせた結界しか見えなかった。噴水のあった場所も魔物で埋め尽くされていて、水の音すら聞こえない。


「皇太子殿下、この今張り巡らされている結界は、超級魔法に耐えられるかしら?」


「え!?ちょっとお待ちください!おい!魔導師の責任者はどこだ!」


「呼んで来ます!」


 バタバタを走って行った騎士が、でっぷりしたオジサンを連れて来た。


「皇太子殿下、お呼びでしょうか」


 面倒臭そうな、ふてぶてしい態度で皇子に話しかけた男が帝国の魔導師団の責任者の様だ。


「ん?お前誰だ?」


「それは後にしてよ。魔物の湧くスピードが更に上がってるのよ」


「マジか!おい、この結界は超級魔法に耐えられるのか?」


「はぁ?超級の魔法なんて打てる人間がいるわけないでしょう」


「そこはどうでもいいのよ!撃っても耐えられるかって聞いてるの!」


「なんだこの生意気な黒猫は。お前も消滅したいのか!」


 大声で怒鳴るオジサンは顔がテカテカしていて気持ち悪い。が、全く怖くは無かった。威圧感のある人間を沢山見て来てるからね。それぐらいの脅しには負けないわよ。


「はぁ、埒が明かないわね。そこの結界を張ってる貴方、この結界は超級魔法に耐えられるか教えて貰えるかしら?」


「あ、はい。なんとかギリギリ耐えられると思います、精霊殿。ただ、魔導師達にもそれなりに覚悟がいりますので、撃つ前には教えて欲しいですね」


「分かったわ。すぐに撃ちたいのだけど、どれくらいで準備出来る?」


「あ、お待ちください直ぐに。おい!お前ら、超級魔法が撃ち込まれるぞ!準備を!良いな?」


 実質的な現場の指導者はこの方だったみたいね?まとう魔力が安定しているのと、最近分かる様になった魔力の色が『透明な赤』だったから悪い人じゃ無いと判断して話しかけたんだけど。精霊にも敬意をもって接してくれてるみたいだし、とても心証が良いわね。


「精霊殿、準備出来ました!」


 考えてる間に準備が終わったみたいね。やはりこの人は優秀なのだろう。


「皇太子殿下、超級魔法を帝国で放つ許可を」


「はい、勿論許可します。よろしくお願いします」


 私は黒猫のまま魔力を練ろうとしたが、ソラに止められてしまった。


「リオ~!そのまま魔法使ったら、毛が燃えちゃうよ~!一旦人間に戻らないと~!」


「え?そうなの?魔法使う猫ってカッコ良いと思ったのにー」


「リオなら回復魔法と併用出来そうだけど、毛に構ってられる数じゃなくなってきてるからね~?」


 今度、猫の姿でも魔法を使うにはどうすべきかを、爺やとデュークを巻き込んで論争しようかしら。なんて考えてる暇は無いわね。王国でのスタンピードより魔物との距離が近いから、実際の数より多く見えるわ……


「ホントね……解除してっと」


 ポンッ!と元の姿に戻ると、魔導師や近衛騎士達は呆然と私を眺めた後、どう接していいのか迷ったようだった。


「お前達!彼女は俺の客人だ!魔法に特化しておられるが故、これから超級の魔法を放って貰う!各々の役割をしっかり勤めよ!」


「「「「はっ!!!」」」」


 さすがは皇太子ね?今回は少し見直せそうだわ。私は早速スッと手を上げ、超級の魔法を無詠唱で20発程連撃した。


「うわっ!も、もう少しゆっくりでお願いします!!」

 

 結界がもたない様だ。この前は広々とした場所で、狭間に向かってひたすら上級魔法……あ!カミルが超級は内緒にしろって言ってたような?特級が内緒なんだっけ?超級魔法使って良かったのだろうか?まぁ、私一人だったから仕方なかったって事で……ね?


「凄いな……もう3分の1以下にまで減ってるなんて」


「あ、まだ湧く可能性もあるので。ソラ、残りの数って分かる?」


「後30万は来るよ~。後半に結界がもたない様なら、リオは双剣で戦えば~?」


「そうね、後半厳しくなったらそうしましょ。ドレスだから動きにくいけど5万匹以内なら何とかなるでしょ」


「カミル達に応援頼む~?」


「帝国は貸しを作りたくはないんじゃない?」


「あ、もう既に、カミル殿下には伝言の魔道具も借りているので連絡しましたよ?」


「あら、そうなの?まぁ、王太子が動ける様になるまでには時間が掛かるものだからね。サクッと減らしておきましょ。魔導師さん、上級なら連打しても耐えられそうかしら?」


「あ……威力的に計算すると、50発ぐらいずつだとありがたいですね……」


「超級だと何発ぐらい?」


「10発ぐらい……でしょうか。20発はちょっと厳しいかなぁ……と」


「威力的には超級を撃ちたいけど、上級50発の方が数は倒せそうね。魔物が多い場所に向かって超級、他は上級で調整しながら撃ちますね!」


「あ、ありがとうございます!助かります!」


 帝国の魔導師達と連携して、残りも100匹程度だろうか。私はグッタリしている魔導師達を休ませるために双剣を亜空間から出して結界の内にいる魔物へ突進して行く。近衛騎士達も続いた。


「あの方は誰なのですか?」


 後ろでさっきの赤の魔導師と皇太子が話をしているようだ。ぼそぼそとだが、話してるのが分かる。


「あれはデュルギス王国の聖女様だ。カミル殿下の婚約者様だな」


「聖女様だったのね!桁外れの強さで感動しちゃったわ!」


「姉上!御無事でしたか」


「あ、もう殲滅しちゃいそうね。帝国の女神様だわ」


「やめてくださいって!カミル殿下に怒られるから!」


「僕がなんだって?」


「あ、カミル殿下!お手数をおかけして……」


「僕は何もしてないからお手数はかかってないよ。リオを迎えに来ただけだしね?」


 パチンとウインクするカミルがカッコ良い。サクッと殲滅し終わったので、つい後ろから突進する勢いで抱き着いてしまった。


「うわっ、リオ、久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」


「カミル、久しぶり!あのね、私、おにぎりを作ったのよ!」


「ねぇ、リオ~……久々に会った恋人に、開口一番でご飯の話は無いと思うよ~?」


 ソラが呆れた声で私にダメ出しをして来る。あ、確かに再開を喜ぶ方が先だったかも?


「ぶふっ!し、失礼しましたわ」


「おにぎりってのは食べ物なのかい?後でゆっくり聞かせてね。皇女殿下、ご無沙汰しております」


「えっ?姉上と会った事が?」


「えぇ、ジャンのお祝いの時にいらしてたじゃない。いかつい魔導師様がカッコ良かったわ~」


「いかつい?あぁ、デュークの事かな。あの頃よりもっといかつくなってますよ」


「あら、それは次にお会いするのが楽しみですわ~」


「えっと、話しに割り込んで申し訳ないんですけど、魔導師や騎士の方々を休ませてあげたいので、解散の号令をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「聖女様、敬語じゃなくて大丈夫ですよ。皆の者、ご苦労だった!後片付けも済んだようだし解散!」


「「「「はっ!!」」」」


「聖女様はお優しいのね~。わたくしはアンタレス帝国の皇女でアメリアと申します。弟がご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありませんでした。そしてペガサスの精霊を助けてくださってありがとうございました」


 皇女様は深々と頭を下げてくれた。慌てて皇太子も頭を下げるから、私も慌ててしまった。王族や皇族は、人に簡単に頭を下げてはいけないのだ。


「だ、大丈夫ですから頭を上げてください!私の心臓の方がもちませんから!」


「ぶふっ!聖女様は精霊と同じくらい素直な上に純粋であらせられるのね」


「あれ?皇女様はフェレットちゃんの雰囲気にそっくりですね」


「え?うちの子をご存じなのですか?」


「あ……えっと、最後に会いました……」


「リオとオイラの目の前で急に消滅したんだよ〜。分厚い『黒いモヤ』に飲み込まれて消えたんだ」


「そ、そうだったのですね……」


「助けてあげられなくてごめんなさい。目の前に……手の届く所にいたのに……」


「聖女様、顔をお上げください。最後の最後に誰かが近くにいてくれただけでも報われます。一人寂しく消える可能性だってあったのですから。わたくしは聖女様と精霊さんに感謝していますわ」


 とても前向きで美しい女性だと思った。きっと辛いだろうに、皇女であるが故に寂しさや悲しみの表情を浮かべる事すら許されないのだ。必ず黒幕を突き詰めるわよ!私は両手をグッと握りしめた。


「リオ、そろそろ帰ろう?会えなかった時の話をたくさん聞かせておくれ?」


「カミル殿下、お待ちください!せめて報告だけでも……」


「そうですわね、お茶を用意させますから……」


「あー、今はやめておきましょう。まだ不穏分子もありますし、『黒いモヤ』がどれだけの影響を与えているのかも不明ですし」


「あ、カミル。それね、気が付いた事があるんだけど」


「ん?どうかしたの?」


「女性って『黒いモヤ』に影響されにくいんじゃないかしら?」


「えぇ?どうして?」


「だって、婆やだってまともだったはずよ?皇女様も全く問題なさそうに見えるし」


「そう言われると、確かに帝国の女性はまともな人が多いような気がするわね?」


「確かに……俺に苦言や進言をしてくれたのは幼馴染の男の以外はすべて女性だったな」


「あくまで女性はボーッとしにくいって分かっていれば、今後はやりようもあるんじゃない?今回もネックレスの録画は回しておいたから、さっきのでっぷりしたオジサンは捕まえて話を聞いておいてね?」


「でっぷりしたオジサン?」


「私が精霊の姿をしてる時に、「お前も消滅したいのか!」って大声で脅されたのよ」


「自分が消滅させました、って言ってるね……」


「そうなのよ。赤の魔導士の人に話を聞いた方がいいと思うわ」


「赤の魔導士?」


「魔力の色が、透き通った赤色だったの。きっといい人なんだろうって思って話しかけたのよ。帝国の魔道師の中で1番強そうだったし、責任者なんじゃない?」


「あ、あの、聖女様は魔力の色まで見えるのですか?確かにあの魔道師は魔道師団の団長をしている実力者なのですが……まさか強さが見て分かるとは……」


「え?えぇ、デュークも爺やも見えるわよ?私はやっと先週だったかしら?見えるようになったわ」


「あー、リオ……あの2人も決して普通ではないからね?」


「そうなの?あぁ、そうね。爺やは世界最強で、デュークは爺やの弟子だもんね」


「ん~、リオはちょくちょく嚙み合ってないよね~。何となく言いたいことは分かったけど~」


「ちょっとだけ天然だよね。そこがまた可愛いんだけど」


「そのようですわね。第一声がご飯の話だったものね、ふふっ」


「姉上は聖女様を気に入ってるみたいだね。今度の聖女様のお祝いに王国へ一緒に行く?皇帝もいらっしゃる予定だけど」


「行きたいけど……先ずは色々と状況や意見を交換する必要があるわね。我が国の事なのだから、出来るだけ帝国の者達で解決したいとは思っているわ」


「そこら辺は貴方達姉弟に任せますので、聞きたい事は書面でください。今回の魔物殲滅も含め、精霊絡みの報告書は近々作成して届けますので、我々はこれで失礼しますね?」


「カミル殿下、ありがとうございました!」


「聖女様、またお会いしとうございます。わたくしも、もっと魔法と剣を練習しておきますわ!」


 和やかな雰囲気のまま、私達はソラの転移魔法で王国へ帰ったのだった。

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