第93話 魔道具と精霊 ★リオ SIDE
目が覚めた時には体もスッキリしていて、ソラも完全復活していたわ。寝る前の疲労回復魔法が良かったのか、眠りに誘ってくれたユーグのお陰なのかは分からないけどね。
「さて、朝ご飯も食べたし、教会に行こうか」
「オイラも準備オッケ〜!だよ〜」
「気を付けてねぇ。婆はおにぎり作って待ってるからねぇ」
「ありがとう、婆や!」
「クックッ。コテツのお陰で飯も作れるし、精霊界も便利だろう?」
「英気を養えますね。やっぱり、食事と睡眠は大事なのだと思い知らされました」
「リオが良い笑顔で居てくれて嬉しいぞ。我の亜空間にある材料は全て食べ尽くしてくれて構わぬからな?どうせまた暇になれば田畑を耕して亜空間に入れておくから食べに来ると良い」
素敵なお誘いにはしゃいでしまう。食べ尽くして良いって言うけど王様の亜空間には、どれだけの量が入ってるんだろうね?
「もしかして、梅干しや味噌も作れるのですか?」
「あぁ、何度もコテツと一緒に作ったからな。我だけでは無く、あの頃一緒に居たユーグ達も作れると思うぞ」
「凄いね〜。異世界の食べ物を精霊が作るなんてね〜」
「そうね……醤油や味噌は作るのが大変だからね。工程もたくさんあるし、何より時間が掛かるから……」
「『ミソ』は『オミソシル』にしか使えないんじゃ、沢山作っても仕方ないんじゃないのぉ?」
「あぁ、味噌は他にも色々使い道がありますよ。1番簡単なのは、生野菜に味噌を付けて食べたり?おにぎりに味噌を塗って焼いても美味しいですし、お肉やお魚料理の味付けに使ったりもしますね」
「あら、そんなに色々レシピがあるのねぇ。他の調味料なども同じ様にレシピがあるのかしら?」
「はい、ありますよ。醤油は特に……日本人なら何にでもかける人が居るぐらいですからね」
「コテツもこの料理には合う合わないと、色んな物にかけて食っておったなぁ。コテツの国のニンゲンがそうだったのか。精霊は飯も食わぬから、不思議だったのだ」
「あぁ、確かに不思議かも知れませんね。私は西の出身でしたので、お出汁の方が良く使ってましたけど」
「他にも調味料があるのだな。当たり前か……ふむ。作り方が分かれば、リオの好きな調味料も作って見るかのぉ?」
「出汁は、昆布や鰹節から作るので……材料があるか分からないですしね?」
「『カツオブシ』は魚から作るのだろう?カツオと言う魚が見つからんかったらしいぞ?その代わり、サバと言う魚は
「えぇ――――!!!」
「あらあら、その召喚者様は何でも作れてしまうのねぇ」
「本当に……この件がひと段落したら、王様の亜空間の中身を確認させて貰っても良いですか?」
「クックッ、構わんぞ。出来るだけリストにしといてやるから楽しみにしておるが良い」
「ありがとうございます!潜入調査、頑張って来ますね!」
準備を終えた私とソラは、アンタレス帝国の教会近くへ転移した。先日の雰囲気とは打って変わって、教会は人も多く、慌ただしい様だ。
『リオ、どうやらリオがデュルギス王国から居なくなったのは帝国の所為だと言い掛かりをつけたヤツがいるみたいだよぉ〜』
『あぁ、『精霊の罠』を受けた直後だったから……?』
『皇太子の所為で帝国は滅亡するとか言ってるけど〜』
『えぇー?そんなに帝国って弱っちいの?それに、あの皇太子は嫌われ者なの?』
『第二王子の時と同じなんじゃない〜?』
『本当に人間って愚かよね……』
『あはは、人間であるリオが言ってるよ〜』
『私も自分が愚かだと思う事はあるわ。人は誰でも必ずと言って良い程、
『ふぅ〜ん。過ちを犯したらどうするの〜?』
『相手に謝って許して貰うか、牢屋に入ったりして罪を償うか……かしらね?』
『それって自己満足なんじゃ無いの〜?』
『それもあると思うわ。謝罪を受け入れたら、どんなに辛い事でも許さなきゃならないでしょう?私にはそこまで辛い事は起こらなかったけど、前の世界では、理不尽な犯罪なども多かったから……』
『なるほどね〜。ニンゲンって面倒だよね〜。精霊は全てにおいて悪気が無いから、ニンゲンが言葉で『ごめん』って言う事は知ってるけど、精霊同士では使わないんだよ〜』
『へぇー?ぶつかった時とかどうするの?』
『ぶつかる運命だったと受け入れる〜』
『えぇ……………………』
『まぁ、精霊は浮いてるからね〜?そこまで衝撃は来ないし〜。それに姿を持ってる子もそこまで多くは無いから〜』
『へぇー、そうなのね。確かに精霊界に居た子達は、ソラと王様以外は皆んな雲だったわね』
『さすがリオ〜!良く見てるよね〜』
『あれ?姿を持ってる子が少ないのに、擬態が解けない魔道具を作る意味はあるの?』
『あ〜、そう言われるとそうだね〜?謎が深まった〜』
『本当にね。分かってる事は、姿を持ってる子は姿を取ったまま解除させたく無い事と、ボーッとする魔道具で自我を持たない様に……?んー、表向きはボーッとしてる様に見えたけど、フェレットちゃんは心の中で逆の事を言ってたわよね?』
『確かに〜!見た目はボーッとしてたけど、思考は……あれ?『黒いモヤ』に触れると考えられなくなるよね〜?んー?』
『フェレットちゃんは、最初は嫌だと感情にも出せたと言ってたわ。感情に出せなくなった?ボーッとしてたのは触れて直ぐの頃?色々混同してる様に思えるわ……』
『本当だね〜。オイラが体感したのは、『黒いモヤ』に触れたらボーッとしただけたからね〜』
『であれば、ボーッとする事も、思考が働かない時もあるし、フェレットちゃんの様に考えられる時もある?』
『現時点では、そうじゃなきゃ繋がらないよね〜』
『そうね……?んー……何だか、そう考える様に誘導されてる気がするけども』
『どう言う事〜?』
『ボーッとするのは『黒いモヤ』の見える魔道具の所為だというのも決めつけてるわね。考える事が出来ないと言ったのはフェレットちゃんよね?『黒いモヤ』に慣れて来ると、何も考えられなくなって、考えと行動がチグハグになるって……あれ?フェレットちゃん以外は?』
『姿持ちはフェレットの子だけだったね〜。他の子は雲の姿だったと言う事は……もしかしたら、フェレットの子だけは意思と行動が分離した〜?』
『考えられるわね。姿持ちであれば、実は耐えられるとか?ただ、行動は思考と同じでは無いと?』
『他の子達が一切
『何故、あのタイミングで消滅したのかしら?せっかく夢で会ってお話したのに、全く聞くべき事が聞けて無いわね?』
『オイラ達も、あの時は多少おかしくなってたと考えた方が良さそうだね〜?』
『怖いわね……これが恐怖を覚え込ませる為に仕組まれたのであれば、恐ろしいし、世界が滅亡するわよ?』
『えぇ――?そんな次元の話しなの〜?』
『ソラ、最悪を想定して動くのよ。そこまで酷くなかったならそれはラッキーだったと思うべきよ。人の命や精霊の命が掛かってる時点で、最悪を想定すべきだと思うわ』
『リオはどんな人生を歩いて来たの〜?大袈裟な気がするけどね〜。まぁ、リオの言う通りに考えて動くよ〜』
『えぇ、そうしてくれるとありがたいわ。とても嫌な予感がするの。噴水は近づかないで、『不自然な木』の方へ向かいましょうか』
『ん〜、そうだね〜。オイラも今は、噴水には触れない方が賢いと思うよ〜』
『ソラ、隠密魔法かけて木の下まで行こうと思うのだけど、大丈夫だと思う?』
『まだ誰にも見つかって無いから、恐らく大丈夫だと思うよ〜。オイラ先に見て来ようか〜?』
『駄目よ。今回は私が行くわ。私なら『黒いモヤ』を弾けるかも知れないし、ソラには何かあったら助けを呼びに言って欲しいわ』
『分かったよ〜……何か少しでもヒントを見つけて帰らなきゃね〜。必ず解決するんだからね〜』
私はソラにも隠密魔法をかけ、『不自然な木』の近くまで影が出来ない様に気を付けながら進んだ。何がバレるきっかけになるか分からないから、とても慎重に進んで行く。
『不自然な木』の近くにある建物の2階のバルコニーは相変わらず『黒いモヤ』で真っ黒に見えた。
『うっわぁ〜、オイラは前回『コレ』に気が付かなかったなんて、やっぱりおかしいよねぇ〜?』
『ソラに教える前に、転移で逃げるべきだと思ったからね。フェレットちゃんが消滅しちゃったから……』
『確かに、それどころでは無くなったよね〜』
『ソラ、ちょっとここで待っててくれる?私のネックレス……今は首輪みたいになってるけど、一応録画機能もついているから、後で説明出来ると思うし、最悪はこのネックレスを持って逃げてね』
『分かった〜……後ろがヤバいと思ったら、リオの尻尾掴んで転移するからね〜?転移酔いしたらごめんね〜』
『えぇ。それじゃあ後は任せたわ。行って来るわね』
浮いているから足音はしないんだけど、色んな物に対して神経を尖らせて、気配を探りつつバルコニーへ近づく。バルコニーの手すりから少し顔を出して中を窺うと、何かが何かに繋がれていた。
『黒いモヤ』の所為で良く見えない……ネックレスの録画機能が動いてるか確認してから、『何か』に近づいてみる。
猫の足で数十歩進んだ先には、魔道具の様な物に繋がれた、水色のペガサスの姿を持つ精霊が居たのだった。
繋がれた精霊はグッタリしていて、軽く揺すっても反応は無い。駄目元で念話を試みた。
『ねぇ、あなたは精霊さんよね?あなた達を助けたいの。質問に答えてくれないかしら……』
『ぼ、僕の声、聞こえる?』
『えぇ!聞こえるわ!念話でも話すのは苦しい?』
『ううん。実際に話すよりは全然話せるよ……ただ、僕はもう少しで消えちゃうと思う……僕の契約者に……最後に会いたかった……』
『あなたの契約者さんのお名前は?』
『あっ!お姉さん、危ない!』
バルコニーの奥……部屋の中から出て来た人間は、私が見えている訳では無さそうだった。目の前のペガサスちゃんの動きが不穏だから出て来たのだろう。そして、ペガサスちゃんを驚かそうと投げたカップが私に当たりそうになったのだ。
『こ、怖っ!』
『お姉さん、大丈夫だった?ごめんね、僕の所為で……』
『えぇ?ペガサスちゃんの所為では無いでしょう?ここへ繋いだアイツらが悪いのであって、ペガサスちゃんは何一つ悪い事をしていないじゃない』
『ううっ。ありがとう、お姉さん……僕はその言葉だけで報われたよ。アイツらの所為で、仲間がどんどん消滅して行く……僕は何もしてあげられなかったんだ』
『…………じゃあ、これから仲間の為に頑張ってくれないかしら?何が起こってるのか分からないの。だから、私と一緒に来て、色々説明してくれない?』
『勿論、お手伝い出来る事であれば、仲間の為なら何でもするよ!ここから出れるならだけど……』
『オッケー!ソラー!』
『呼んだ〜?』
『王子様!』
『やぁ、久しぶりだね〜?ペガサスの子だ〜』
『ソラ、この魔道具ごと精霊界に飛べる?切った方が良いかな?』
『あぁ、魔道具があった方が後々役に立ちそうだね〜』
『えぇ。そろそろカミル達に連絡しなきゃだし、ついでに調べて貰いましょ?』
『オッケー!じゃあ転移するよ〜?』
『ペガサスちゃん、立派な
ペガサスちゃんの首に抱きつきながら、逸れない様に鬣も握った。猫の手なので、そこまでしっかりは握れないんだけどね……
『大丈夫です。王子様、お姉さん、お願いします!』
ソラは相変わらず私の尻尾を掴み、私はペガサスの首と鬣を握って精霊界へ飛んだ。バルコニーの奥に居た人間はペガサスが消えた事に、まだ気づいていなかった。
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