第91話 精霊達と作戦会議 ★リオ SIDE
『また話しが逸れそうだから、戻すよ〜?』
ソラが寝てるはずなのに疲れるという事態に、今更ながら気づいたらしいわね?確かにこのまま目覚めたら疲れなんて取れて無さそうよね。
『そうね。私も質問しようかしら。消滅しちゃった精霊さん?本当に消滅しちゃったの?そして構っちゃ駄目って何故?自分達に関わるな、と言ってると理解したのだけど……』
『あ、はい。消滅しました。えっと、構うなって言ったのは、考えられなくなるからです』
この子はとても真面目なタイプの精霊さんね……見た目はグレーのフェレット。姿を持ってるって事は、契約者が居たのでは?まぁ、後で聞いてみましょう。今は教会の話しを進めなきゃね……
『頑張って端的に話そうとしなくても大丈夫よ……?』
『すみません……内容が伝わらないと意味ないですよね。あの噴水の周りには、魔道具が隠してあるんです』
『ボーッとしちゃう魔道具?それとも擬態魔法が解けない様にする為の魔道具?』
『どちらもですが……既にご存知でしたか……?』
『あ、いいえ、推測でしか無かったからね?確信が持てるとまた違うわ。教えてくれてありがとう。情報を集めて、他の子達を助けられたら良いけど……』
『噴水の周りに精霊が集まり、黒いモヤに慣れて来ると……何も考えられなくなるんです』
『気持ち悪いでしょう?慣れるものなの?』
『仲間が辛そうな姿を見ると、助けようって……最初は気持ち悪いって表情や感情にもちゃんと出るんです。でも、少しするとボーッとして来て、考えと行動がチグハグに……』
『貴方は優しい精霊さんなのね。あの時は、私達まで黒いモヤに巻き込まれない様に気を遣ってくれたのね?』
『それもあるけど、あの噴水がおかしいって知ってる子が、王様の所に帰らなきゃ駄目だって思ったんです』
『そっか、君は賢い子なんだねぇ。珍しく、自分でちゃんと考えて行動する事が出来る様だ』
婆やの契約精霊が消滅した精霊を褒めている。この子は消滅したはずなのに、全く悲しくなさそうよね?婆やの精霊も、80年ぐらい前に消滅したのよね?さすがに80年も経てば達観するのかしらねぇ……
『精霊は基本的に、周りや楽な方に流されちゃう子が多いからね〜』
『それは人間も同じよ。堕落した生活をしたいと思ってしまうのは、ね。ただ、理性が働いて、まともな生活をしようと努力している人間が多いだけよ。人間も動物だから本能で生きたい事もあるわ』
『へぇ――?ニンゲンって皆んな真面目だと思ってた』
『貴方の場合は、近くに婆やが居たからでしょうね』
『そうかもね。爺さんも……出逢った頃はまだ青年だったけど、どちらかと言えば真面目だった様な?』
『あのおちゃらけてる爺やが真面目だったの?』
『リオ、オイラもジーさんは、今でも真面目な部類だと思うよ〜?』
精霊の基準って相変わらず分からないわね?爺やはどちらかと言えば不真面目でしょう?精霊で言う『イタズラ』が好きなタイプよね?
『えぇー?じゃあ真面目じゃ無い人ってどんな人よ?』
『お酒飲んでぇ〜、お外で暴れて〜、お家に入れて貰えない人〜?』
『人の物を平気で壊したり、奪う人なんじゃない?』
『お仕事探しに行ったのに、賭博して全財産飛ばしちゃう人かなー』
『あー、思ったよりヘビーな駄目な人ね……なるほど、それを基準にしてるから爺やは真面目なのね』
精霊達の基準はやっぱり分かりにくいけど、真理を突いてる気はするのよね……生きて行けるギリギリのラインを探るのが上手いイメージかしら。
『まぁ、精霊の基準は置いといて……賢い精霊さん、黒いモヤに触れちゃ駄目なのは分かったわ。その2種類の魔道具を壊せば何とかなりそう?』
『お姉ちゃんは多分大丈夫だと思うんだけど、『黒いモヤ』は王子様が近づくのは良くないと思う……』
『どうして〜?オイラはあの時、転移魔法も使えたよ〜?』
『僕が消滅するちょっと前にね、黒いモヤが王子様だけを包み込もうとしたんだ……』
『『えっ!?』』
『王子様の尻尾をね、お姉ちゃんが掴んでたでしょ?そこだけ『黒いモヤ』が避けてる様に見えたんだ』
『私達が見えて無い『黒いモヤ』があったって事になるわよね?後は私がモヤを弾くらしい?』
『そうなるね〜。オイラにもそのモヤは見えて無いし、リオがモヤを弾いた事にも気が付かなかったよ〜』
『精霊に感知出来ないモヤがあるのかしら?』
そうだとしたら面倒よね。私だけでも見えれば良いんだけど。弾けるのであれば、守る事は出来るだろうし?
『リオにも見えて無かったでしょ〜?』
『私は……正しくは、見てなかったのよ。見えていたのかどうか、分からないのよね』
『ん〜?どういう事〜?』
『黒いモヤがね……奥の建物に集まってたのよ。それが気になっちゃって、ソラと賢い精霊さんの会話を耳で聞いていて……心の声を意識して聞こうとした時は集中する為に目を瞑っていたし、精霊さんが消滅する直前の苦しんでる感じがしたタイミングで精霊さんに視線を戻したから……』
『さっきは言って無かったよね〜?』
『えぇ、私も今の今まで忘れてたのよ……』
『何故、今になって思い出せたんだろうね〜?』
『それもあるけど、建物に集まってた『黒いモヤ』も気になるよね?』
確かにどちらも気になるわね。ひとつずつ解決したいけど、原因である可能性が高い、建物のモヤの位置を忘れない様に覚えておかなきゃだわ。
『思い出せた理由としては、順序立てて思い出したからじゃ無いかしら?何故そうしたのかをじっくり考えられる時間があったからとか?』
『恐らくそうだろうね。思い出すキッカケがあれば、思い出せなくは無いのだろうね。ただ、何を忘れてるかすら覚えて無いんだろうけど?』
『確かに、何も分からないのであれば、朝からの行動を全て再現するレベルで見直さなければならないわね』
忘れてしまうのは仕方ないけど、大事な情報まで忘れちゃ駄目よね……潜入調査してる意味が無くなるわよ。
『ねぇ、リオ〜、建物の何処ら辺りに『黒いモヤ』が集まっていたのか、ハッキリ覚えている?』
『えぇ、私達が居た位置から見て噴水の向こう側……大きな木が1本だけ不自然にあったでしょう?その木の近くの建物の2階のバルコニーの様な場所だったわ』
『あ〜、またリオが鋭い事を言ってる気がする〜……』
『えー?説明しただけじゃ無い』
『お嬢さん……その木は『不自然』だったんだよね?』
『そうね、不自然で………あぁ、私が言ってるわね?』
『無意識に気付いてる所が凄いよね〜、いつも……』
『お嬢さんは仲間と話しをする事で能力を発揮するタイプなのかも知れないね?』
『ユーグ、リオは1人でも色々やらかしてるから〜』
『あぁ、だろうとは思うけどね。それ以上に素晴らしい能力を持ってそうだよねって話しだよ』
『私がおかしいのを前提として話しを進めないでよ?私は至って普通で常識人だと、自分を信じているわ……』
『あ〜、うん……?ニンゲンは誰しも己が基準なのだ、と王様が言ってたからね〜。きっとリオは常識人……』
『ソラ、それフォローになってないわ……』
『また話しが逸れて行くね〜……』
『いい加減、ちょっと疲れたわね?婆や達と相談もしたいけど……寝た気にならないだろうから明日は睡眠不足かしらねぇ……』
『疲労回復魔法は使えるでしょう?回復魔法さえ使えれば、完徹×2ぐらいは余裕だって、若かれし頃の爺さんが言ってたよ?』
『それこそ、同じ人として扱っちゃ駄目なのでは〜?』
『ソラが辛辣……まぁ、世界最強らしいからね?言いたい事は分かるわ……』
『え、爺さんが世界最強なの?お嬢さんより強い?』
『あー、経験値と年の功で同等だろうって……』
『だよね?普通のニンゲンの魔力がお嬢さんより強ければ、世界の均衡が崩れるよ……』
『えぇー?私は普通の人間よ?』
『カミルが言ってたけど〜、何故リオは自分が普通だと言えるんだろうね〜……?』
『あぁ、無自覚……恐ろしいニンゲンだな……?』
『あ、あの……それで、一旦は夢からお戻りになられますか……?』
『ふふっ、そんなに恐縮しなくて大丈夫よ?可愛いフェレットちゃん。撫でても良い?』
『は、はい。どうぞ……』
『ありがとう。貴方達には、早い段階でまた会う事が出来る?』
『条件が揃えば会えますけど……お姉ちゃんなら寝れば会えるのではないでしょうか?』
『あぁ、お嬢さんなら条件をいつでもクリア出来るからなぁ……ただ、夢を忘れるタイプの可能性が怖いな?』
『あ、確かに。えっと、じゃあ、ソラも一緒に寝たら連れて来れる?』
『あぁ!そうだね。お嬢さんが寝てから、坊やを引っ張って来れば良いんだね』
『それは可能なのね?』
『夢を見てるお嬢さんを辿って、精霊界にこちらから繋がりに行けば良いだけだからね』
『精霊にしか出来なさそうね?』
『正解〜!バーちゃんも連れて来れば、ユーグと会う事も出来るよ〜?』
『婆やに会いたい?話したい事とかある?』
『あるけど……今は一大事ってヤツだろう?』
『気になるなら、『黒いモヤ』の騒動が落ち着いてからにしたら良いじゃない?そこまで時間が経つと会えないとか?何かあるのなら仕方ないけど?』
『あぁ、それがありがたい。この騒動が落ち着くまでは、精霊の事についてとか、あちらで得た役に立ちそうな情報があれば相談に乗るよ。誰かに話す事で考えを纏めたりも出来るからね』
『そうね。アウトプットしてるだけでも、誰かが有益な情報を拾ってくれるかも知れないしね』
『うん、それじゃ〜、一旦、精霊界に戻るね〜?』
『そうだね。またねー!』
『気を付けてー!』
『色々ありがとう。また会いましょうね』
ふと意識が沈む感じがした。寝落ちした時の様な、このまま眠れたら幸せなのにと思えるぐらい、不思議な心地良さだった。だけど、私には、まだやるべき事が沢山あるのよね。早く終わらせて、ゆっくり眠りたいと思ったのだった。
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