第88話 帝国への潜入捜査 ★リオ SIDE
作戦決行の朝になった。今日もスッキリと目覚める事が出来たわ。疲労回復魔法をかけて寝ると、良く眠れるのよね。私が住んでいた、あちらの世界に必要な魔法だと思うわ……
朝から婆やと精霊王が見送りに来てくれている。見送って貰うのって、何だか嬉しいわよね。
「それでは行って来ますね!」
「気をつけてねぇ。無茶しちゃ駄目よぉ?」
「そうだぞ。危ないと思ったら、一旦戻って来て再度立て直してから行けば良いのだからな」
「はい。無理せず頑張って来ますね」
「王様、バーちゃん、行って来ま〜す」
私は擬態魔法をかけてフワフワ浮いた状態だ。今日は無難に翼の無い普通の黒猫にしてみた。ソラが白猫だから白黒で分かりやすいでしょ?
準備が出来たことを確認したソラに隣国の教会近くに転移して貰った。世界が違うのに一瞬で着くのは凄いわよね。
「わぁ……大きい教会ねぇ……」
どこかの国の神殿の様な、異国めいた大きな教会があった。精霊に因んでなのか真っ白で、正面の扉は大きく高さも5m以上ありそうだ。私が精霊サイズだから、全てが大きく見えるだけなのかも知れないけどね。
「リオ、ここからは念話で話そうね〜」
「そうね。念には念を入れましょう。先ずはどうするつもり?」
「教会の裏に噴水があるんたけど、そこに行って見ようと思うよ〜。精霊は水辺を好む子が多いからね〜」
「了解。案内をよろしくね」
ソラのスピードに合わせて、のんびりフワフワ進んで行く。違和感を感じさせない様に、普通の精霊の飛ぶスピードで行ってもらう事になっているのだ。何処で誰が見てるかなんて分からないからね。
『リオ、あの角を曲がった場所に噴水があるよ〜』
『精霊達はいるかしら?』
曲がり角からひっそりと噴水を覗いてみる。
『あ〜、いるにはいるみたいだけど……ん〜?何だかおかしいね〜?』
『確かに?私には黒い何かが……モヤモヤしたものが見えるわね?』
『ん〜、何だか気持ち悪い〜』
『一度離れましょう?』
『ううん、あの子達に話しを聞こう?』
スーッとソラが先に行ってしまった。慌てて私も追い掛ける。
『待って、ソラ!罠かも知れないわ!』
パフン!と何かの魔法が私とソラにかけられた。魔道具だろうか?初めて受けた衝撃に驚く。人のかける魔法とは全く違う事しか分からなかった。
『リオ、大丈夫だよ〜。この魔法は、擬態魔法が解けない様に固定する魔法だね〜。突っ走ってごめんね〜?』
『仲間が心配だったのでしょう?でも、ソラが捕まっちゃったら助けられないんだから、気を付けようね』
『うん、分かったよ〜』
『それにしても、何故擬態魔法を解けなくしたのかしらねぇ?』
『多分、雲の姿に戻れない様にだろうねぇ〜。雲の姿だと捕える事が出来ないでしょ〜?』
『あぁ、なるほど……今すぐに危害を加えられるかは分からないけど、取り敢えず逃したくは無いって感じかしら?』
『……リオは冷静だね〜?怖く無いの?』
『ソラはさっきの魔法、弾いたでしょう?ソラだけでも逃げられると分かってるから安心よね』
『本当にリオは凄いよね〜。普通の女の子って、こういう時には泣き喚くものなんだって言ってたのに〜』
『誰が言ってたの?』
『あ〜、えっとぉ〜?誰だったかなぁ〜……』
『私が知ってる人で、言いづらい……カミルかデュークか爺やに絞られるわね?』
『リオ〜、ほら〜、今は潜入調査中だし〜?ねぇ?』
『分かってるわ。取り敢えずはその子達と話しをしてみましょうか』
目の前に居る、噴水の周りをフワフワしてる精霊達に話しかけて情報を得る事が優先よね。ただ、目の前に居るのに私達が視界に入ってない様な気もするけども……全くこちらを気にするでも無く、ただ遠くを眺めながら浮いてるのだ。
『何だか不気味だねぇ……目の前にいるのに、無視されてる感じ〜?なのにイラッとすらしないぐらいに興味が無い様に見えると言うか……』
『えぇ、とても不気味だと思うわ。だけど、何かしらのヒントが無いと……』
『うぅ……何故か話しをするだけなのに、声を掛けるのを躊躇っちゃうよぉ〜』
『私が声を掛けようか?』
『嫌な予感がするから、オイラが行くよぉ〜。何かあったら、リオは逃げてね〜』
『ソラを置いては行かないわよ。手でも繋いでおく?』
『あ〜、オイラの尻尾に掴まって〜?』
『ふふっ、良いわよ。ここに居るから、安心して話してね』
ソラと視線を合わせて頷く。2人……1人と1匹なら怖く無いわよね。
「ねぇ、君達は何処から来た精霊なの〜?」
「せ、精霊、の、く、国……」
『駄目だ!逃げて!僕達に構っちゃ駄目なんだ!』
え?この子の思念が聞こえて来た?
『ソラ、聞こえた?』
『え?何が聞こえるの?』
『この子、ソラに向かって、逃げて!って。僕達に構っちゃ駄目だって』
『話しを出来ない様にされてる〜?』
『この子の本音が、私が聞こえた思念の声だとすれば、この子の近くに居るのは危ないって事になるんだけど……』
『この子には、攻撃する気は無い〜?』
『えぇ、そう言う事になるわね』
ソラと念話でどうすべきか悩んでいると、目の前の精霊が苦しみ出した様に見えた。黒く分厚いモヤが、その子の姿を覆い隠す様に包み……あっという間にその子とモヤは私達の目の前から消えてしまった。
『え…………?』
驚きよりも恐怖が勝った。私もソラも、固まってしまって動けない。
『消えたというより、消滅……』
ソラには精霊の存在が確認出来るのだろう、目の前から居なくなっただけでは無く、この世界から消滅したのだと……
『ソラ、転移魔法で精霊界に帰れる?一旦、立て直しましょう』
『う、うん。尻尾、掴んでてね〜!』
⭐︎⭐︎⭐︎
よ、良かった……無事に精霊界に戻って来れたわ!ちょっと泣きそうになりつつも耐える。ソラの方が怖かっただろうからね……私は人型に戻ってソラを抱き締めようと……あれ?
「戻れないわ……」
「あ〜、リオは擬態魔法を解けなくする魔法がかかってるからね〜……」
あぁ、そうだったわ。まぁ、困らないから良いけど。おにぎりは握れないから婆やに握って貰おうかしら。
「坊や!リオ!大丈夫か!?」
少し遠くから、王様と婆やが走って来る。
「婆や!そんなに走って大丈夫なの!?」
「リオちゃん!今は婆の足より、リオちゃんとソラちゃんでしょう!?」
心配してくれる人が居るって、やっぱり幸せな事だなぁ〜と……恐怖は収まらないけどね……?なので、黒猫の姿で婆やに抱きついた。ソラの尻尾を掴んだままに。
「あらあら、リオちゃんが甘えてくれるなんて嬉しいわねぇ。ソラちゃんも一緒にが良いのぉ?」
私は大きく頷いた。私とソラを包み込んでくれて、程良い力加減で抱き締めてくれる。とても安心するわね。
「リオ〜……」
「うん、大丈夫よ。私が説明するからね」
私は精霊王と視線を合わせた。
「王様、教会の噴水に居た精霊達の周りには、黒いモヤがありました。噴水近くで出会った子は、黒く分厚いモヤに包まれて……消滅した様に見えました……」
「黒いモヤ、オイラとっても気持ち悪かったよ〜……」
「ふむ。坊や、良く頑張ったな。仲間が消えて行くのを見ているのは辛かっただろう。だが、王になる者には必ず訪れる試練だと思うんだよ。さぁ、気を取り直して作戦会議だ。リオが見えるのだから、かなり強いと思って良いのだろうなぁ……」
精霊王はソラに対して厳しいのでは?と思ったけど、婆やに抱き締めて貰ったソラは、少しスッキリした顔をしていた。猫だからハッキリとは分からないけどね……顔を上げ、先を見つめる様は、強く賢い王様になるんだろうなと思わせる力強さがあった。
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