第56話 犯人の自供 ★デューク SIDE
私の愛弟子であり、カミル殿下の婚約者であるリオ殿が、カミル殿下を庇って刺された。私にも、殿下にも察知する事が出来ないレベルの隠密魔法が扱える刺客……
恐らく、リオ殿もギリギリで気がついたのだろう。自分に防御膜を張る余裕すら無かったという事だ。
咄嗟に庇ったのは、褒められた事では無いが、彼女は魔導師団の団員では無い。カミル殿下を守ったのだから、褒められる事なのだろう。
団員であったなら、殿下に防御膜を張れば、離れていても守れるし、刺客を取り押さえる事も……と、叱る所なのだが。リオ殿が魔導師として素晴らしいからと、何でも求めるのは間違ってるとは分かってはいるのだが……
今、冷静に分析しても仕方ない。刺客に気づけなかった私が、彼女に何か言う事自体が烏滸がましいのだ。
殿下がそのまま刺されてしまっていたら、この程度の騒ぎでは済まなかっただろう。国王主催のパーティーで起こったと言う時点で、アウトなんだけどな……
隠密魔法を使った状態では、会場に入れないようになっているから、会場に入ってから隠密魔法をかけた事になる。そして、刃物は最初から会場にあった事に。隠し持てる程度の短い刃渡りの刃物を持ち込む事は禁止されているし、会場に入ったタイミングでブザーが鳴る。唯一鳴らないのは、鉄や鉱石で作られていない刃物ぐらいだ。強度を考えると、人を刺せる程、殺傷能力のある刃物は殆どが鉄や鉱石で作られている。だからそれらに反応する装置を作ったのだ。勿論、私が。
なので、分かっているのは、手引きした人間が居るという事と、準備に携わる事が出来る人間も居たはず。複数人での、計画的な犯行であると推測される。
リオ殿の事は、師匠がいらしてくださってからは心配していない。欠損した手足を生やす事が出来るレベルの回復魔法を使えるのは、リオ殿と師匠だけだろう。
カミル殿下が刺されても、リオ殿なら助けられたのでは?と思ってしまうのは不敬だな……殿下が刺されたら良かったのになんて言えない……
まぁ、師匠がいるから大丈夫だと思うが、珍しく殿下が取り乱していた。そちらの方が大事だったな。殿下を宥めるのは他の王子達に比べれば楽だし、一旦冷静になりさえすれば、殿下なら大丈夫だと信用している。
刺客は牢屋に入れたと報告があったし、殿下との約束通り、黒幕まで吐いてもらわなければ。
治療を終えたリオ殿を殿下が会場から運び出したのを確認し、師匠と牢屋に行く事になった。
「デク、自白剤は使うのか?」
「えぇ、嘘で罪の無い者が裁かれるのは避けたいので」
「まぁ、そうじゃのぉ……狙われたのが王太子を任命されたばかりの王子だからのぉ」
「カミル殿下を邪魔だと思っている人物なんて、探さなくても分かっては居ますが……違う可能性も捨て切れないですからね。王太子になるという事は、敵が多くなるという事ですから」
「良く分かっているではないか。立太子するまで気が抜けんのぉ……」
「この国では立太子したら国王陛下と同じレベルの権限が与えられますからね。専属の影もつきますし……ん?影……?」
「可能性は低いが、視野に入れておく必要はあるのぉ」
「処刑されると分かっていても従うしかなかった理由なんてありますかね?影は給金も高いですし、身元の分からない者にはなれません。そして身内も含め、一族全員が処刑されると分かっているはずです」
「国を乗っ取る規模の何かが動いていたなら、あり得るかも知れんのぉ」
「他国からの介入ですか?」
「そうじゃな。そうであれば、身内は既に国外へ逃亡させていそうじゃのぉ」
「私もカミル殿下も察知出来ない魔法を、リオ殿だけが察知出来たのは、加護のお陰でしょうか?」
「それなんだがのぉ……カミルとデクが察知出来なかったのは確かじゃろう?嬢ちゃんだけに『見えていた』のも確かじゃが……それは意図して『見せていた』可能性があるとは思わんか?」
「師匠……それはかなり難易度が高いのでは?」
「じゃが、最初からカミルでは無く『カミルの婚約者』を狙ったとするならば?その事を知られたく無ければ……一か八かにはなるが、カミルを標的にしたと思わせ、嬢ちゃんに庇わせるまでが計画となるのぉ」
「ふむ……リオ殿が王太子妃になる事を阻みたい人間の仕業なのか、ただ単にリオ殿に恨みを持っているか」
「そうじゃの。ただ、ここまで人と金を動かして計画を実行してるのを見るに、アホな王子が単独でやったとは思えんのじゃよ」
「そうですね。アレがリオ殿を消したい理由としては、カミル殿下がこれ以上力を持たないためでしょう。それに乗っかって計画を手伝った人間が居るのも確かだ」
状況証拠から推理して行く。師匠は国外の事情にも詳しいから、いつもこうやって一緒に考える事が多い。自分1人では思いつかない事や、忘れていた事を思い出させてくれるので、そう言う所は尊敬している。
「方向性としては、そこら辺をハッキリさせてから、国外が絡んでいないか確認。国内だけで解決する問題であれば良いのじゃが……」
「そうですね。今回は王子が関わっていますから……」
「あのアホ王子がクロなら、さすがに陛下も庇い切れないじゃろう。恐らく、厳しく処罰されるじゃろう」
「えぇ。王太子に任命された人物を危険に晒しただけでも本来なら即、処刑ですからね」
「憂鬱じゃのぉ……」
「本当に……」
2人並んで地下の牢屋への道を進み、男の入れられた牢の前で立ち止まった。さっさと尋問を開始しよう。
「おい、名前は何と言う」
「…………………………」
⭐︎⭐︎⭐︎
牢屋に到着してから既に1時間。全身黒ずくめの男は身元を調べる質問や簡単に答えられる質問にすら答えない。聴覚をやられてるのか?と思わせる程に反応しない。
魔法は使えないように、魔封じの腕輪をつけられている。使える魔法は隠密魔法だけでは無いだろうからな。我々が気付かないレベルの隠密魔法が扱えるのだから、超級や特級の魔法も使える可能性はある。
「デク、そろそろやるか?」
既に体罰……拷問には屈しなかった為、自白剤を使うかと聞いて来ているのだ。
「そうですね。このままでは拉致が開かない。使うと発狂してしまう可能性もありますから控えたかったのですが……」
男がピクッと反応した。これで耳は聞こえているし、言葉も理解している事が確定したな。すかさず師匠が男を煽る。
「王太子殿下を狙ったんじゃ。どちらにしろ、処刑は免れないじゃろう?」
「そうですね。この牢屋は陛下の許可が無ければ入れませんし、許可なき者が侵入すれば爆破しますからね。入れられた囚人が外に出た場合は……」
「あぁ、アレは悲惨だったのぉ……」
「えぇ。まさか脱走する者がいるとは思わずに、説明して無かったのが悪かったのでしょうが……『賢者』と魔導師団が全力で研究したトラップが仕掛けられてる事は一応国家機密ですから仕方ありませんよ」
「最後には処刑される囚人が入っているとは言え、この大掛かりなトラップの存在を知る者は、陛下と我々と宰相ぐらいだからのぉ……」
「えぇ。王子達も知りませんからね。立太子したらカミル殿下は知る事になるのでしょうが」
「まぁ、この牢獄から脱走出来た者は誰一人としていないし、侵入出来た者も居なかったからのぉ?知らなくても問題無いとは思うのじゃが」
「さすがに王子達には伝えるべきだと進言したのですがねぇ?なのに陛下は、例え王子だろうが脱獄も侵入も反逆罪なのだから、死んでも仕方ないなんて仰って……」
男はガックリと項垂れている。王子も知らないトラップで脱獄も不可能と理解しただろう。侵入者も然り。
「そう言えば、あの問題児は部屋に軟禁されたそうですね?」
「あぁ、アレは身分剥奪の上、国外追放の可能性が高いと聞いたのぉ。2度とデュルギス王国の地を踏む事は許されまい」
誰がとも言わず、王子であろう事を匂わせる。男は完全に目が泳いでいた。これはクロだろう、王子よ……
「今回の件は、複数の者が関与してるようですから、その家族達も可哀想な目に遭うのですし、当然の判決だと思いますけどね」
最後に関わった人間の家族にも被害が及ぶ事を言及する。王子暗殺未遂なのだから当然であるが。
因みにこの牢獄は簡単なトラップはあるが、死にはしない。雷魔法で痺れて動けなくなるだけだ。年寄りはショック死する可能性が多少あるくらいには強い魔法なので、気を失う者は多いだろう。そして、この牢獄がある場所は地下に隠されている。ここは大罪人が入る場所だからだ。
人は、『噂』と『嘘』と『真実』を、上手く混ぜて混乱させてやると簡単に罠に嵌まるのだ。陛下の噂、王子達の噂……今後の王子への対応なんて我々が知るはずも無い。確実に決定してから沙汰があるものなのだから。
ただ、王子が『軟禁』されてるのは本当だ。動画が証拠となり、反省するようパーティーの後に離宮の塔へ閉じ込められた。
王子が関わってる事が分かったので、後は自白させるだけだ。因みに『自白剤』と言ってはいるが、師匠が特級の『真の魔法』を使うだけである。あくまでも自白剤という『物』があるのだと思わせる為だ。そんな魔法が使えるなんて知れたら、悪用される事間違い無い。
『真の魔法』は、特級闇の精神に干渉する魔法なのだが、かけられた側は嘘がつけず、魔法を解除されると全ての発言や質問を忘れるようになっている。
自供してくれると助かるのだが、嘘を言われると困るので、最後には魔法を使って確認するのだ。お前が言った事は真実か?と。
「さて、やるかのぉ……」
「ま、待ってくれ!」
「ん?何か思い出したかのぉ?」
「その前に、幾つか質問に答えてくれ!」
「良いだろう。時間はあるからのぉ」
「王子が軟禁されてるのは本当か?」
「そうじゃ。証拠があるから言い逃れ出来んかった様じゃなぁ」
「な!証拠があるのか?」
「あぁ、言い逃れ出来ない、決定的な証拠がな」
「そうか……関係した者の家族はどうなる」
「処刑される可能性が高いのぉ。何せ王太子になる予定の王子が暗殺されそうだったのだからのぉ?」
「あれは!王子では無く、元々は女を狙う予定だったんだ!それがバレないようにと、王子を狙うように言われたんだ!王子の暗殺なんて企んでいない!」
「じゃが、誰がどう見ても王子が刺されそうになったと見えたんじゃないかのぉ?だからこそ、お前さんの話を聞きに来たのじゃぞ?」
「そ、そうか……王子を狙っていないと分かったら、処刑は免れるか?せめて家族だけでも……」
「厳罰にはなるとは思うが、出来る限りの事はしてやっても良いぞ?最後に会わせてやる事も出来るかも知れんな。お前さん次第じゃ」
「話す!全部話すから、家族の命だけは助けてくれ!」
「それでは聞こうかのぉ……」
刺客の発言を録画する。ここには書記官すら連れて来れないから、本来は私が紙に書いていたのだが、リオ殿の発想のお陰で手間が減り、助かる事も増えていた。
「そうか、それで全てかのぉ?」
「あぁ、全て話した」
「そうか、お前さんが言った事は、全て事実か?」
「そうだ。何一つ嘘は言っていない」
「そのようだな。よし、ではこれで終わりじゃ。後は沙汰を待たれよ」
「家族を……家族の事をよろしく頼みます」
「あぁ。約束は守る」
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