第23話 難癖令嬢のリベンジ ★リオ SIDE
コンコンと扉を叩く音がする。カミルがキースに視線で合図を送ると扉を開けた。
「失礼します。召喚者様はいらっしゃるでしょうか?」
「僕に挨拶も無いのかい?」
「も、申し訳ありません、カミル殿下。ご機嫌如何でしょうか……」
「君の所為でとても機嫌は悪いが、何か用かな?」
「あ、あの、はい、召喚者様にお話しがありまして……」
「ほぉ?では、そちらに座ると良い。話しを聞こうじゃないか」
すると、両手を振って「畏れ多い」と後退る。
「召喚者様にいらして貰えるとありがたいのですが」
「何故、僕の婚約者がわざわざ行かなければならない?お前から話しがあるのでは無いのか?」
「あ、はい。私からお話しがあるのですが……」
「ではここでも良いではないか。僕に聞かれたく無い話しなのかい?」
「い、いえ……その、悪い噂を聞きまして……」
「構わないから、そこへ座れ。我が愛しの婚約者殿に悪い噂があるなんて、聞き捨てならないからね」
カミルは優しい目で私を見つめ、頭を撫でる。態度で表してくれるのは嬉しいんだけど、さすがに人前では照れるわね。
「その……カミル殿下は騙されていると……」
「誰にだい?」
「そちらの召喚者様に……です」
「騙されてるって言うけど、召喚者は各王子が婚約者とする事が決定しているのに、わざわざ騙す必要があるのか甚だ疑問なのだが?誰からの情報かな?」
「それがその、匿名でして……」
「リオ、君がこれまでに顔を合わせた人、全て言えるね?」
「えぇ、勿論ですわ」
男は目を見開いて汗を拭う。
「では、名前を上げてくれるかい?」
「先程廊下で難癖をつけてこられた御令嬢のお名前は存じ上げませんわ。それ以外は、私の専属侍女2名とデューク様、殿下の補佐官のお二方、そして殿下ですわ」
「キース、リオの専属侍女に話しを聞いて来てくれ」
「御意」
キースが部屋を出ると、直ぐに戻って来た。
「殿下、こちらの女性が廊下で盗み聞きしておりましたが、捕らえますか?」
ふと廊下を見ると、さっき難癖をつけてきた女性が顔色を悪くし、立ち尽くしていた。
「んん?そちらは先程の失礼な令嬢ではないか?捕らえて牢へ……」
「お、お待ち下さい!私めが連れて来たのです!」
「なんだと?令嬢を廊下で待たせたと言うのか?」
「えぇ、い、いえ……その、ですから……」
「叔父様!何故この女はまだここにいるのですか?!」
「ここにいてはならないのは、貴女の方ですよ?先程から失礼なご令嬢。不敬だぞ?」
カミルがスッと目を細めて女性を睨む。女性は怯んで一歩下がるが、部屋を出て行く気は無いらしい。
「キース、不敬だ。捕えろ」
「何故ですか!やはりこの女に騙されて操られているのですな!この悪魔め!」
叔父様と呼ばれた男は、大きく拳を振りかぶる。素手で殴るつもりらしい……え?魔法でじゃなくて、素手?
怖がる素振りもせず、コテンと首を傾ける私を見て、失礼な女性は口角をニヤリと上げていた。おかしな令嬢ね?まぁ、私も怪我はしたく無いので、ギリギリで防御結界を張るわよ。
ガツン!と大きな音がして、男が膝から崩れ落ちた。拳を怪我したのに、膝からなんて大袈裟だなぁと思ったけれど。これは正当防衛よね?……カミルを見上げると、良くやったと顔に書いてあった。
「な、何が起こったんですの?」
「うぐっ……」
男は怪我した方の手の手首を、逆の手で握り締めて悶絶している。言葉すら出せないようで、自業自得なんだけど少し可哀想だと思った。
「あの、私でよろしければ、お怪我を治しましょうか?」
男が驚いた顔で私を見上げた。何に驚いたんだろう?
「貴女は回復魔法を使える程の、魔力量は無いでしょう」
言われて納得した。魔力量が増えた事は、ごく一部の人しか知らないのだ。
「それくらいなら治せると思いますが……」
「それくらいって、骨が折れてるんだぞ!」
ふぅ、と小さく息を吐いて遠い目になる。
「ふふっ、リオ?治してあげてくれるかい?」
面白がっているカミルを細目で睨み、男に顔を向けた。
「手を見せてください」
「本当に治るんだろうな」
「はぁ……でしたらお医者様に見せたら如何です?」
「お前の所為で怪我をしたんだぞ?!」
「なぜ私のせいなのです?殴り掛かって来たのは、貴殿ですよね?」
「うるさい!お前が変な魔法を使ったんだろう!」
「……貴方、さっきは魔力量が少ないから魔法は使えないだろうって言いませんでした?」
あまりにも滅茶苦茶で出鱈目な主張をしてくる男にイライラしそうになるも、どう考えてもあちらがおかしいのは明らかなのでグッと我慢する。お互いに睨み合っているところへ「失礼!」とデューク様が現れた。後ろにはクリスも控えている。
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