第22話 マイペースな精霊との出逢い ★リオ SIDE

 執務室の前に着くと、スッと扉が開いた。扉の近くにいたキースが私達に気づいて開けてくれたみたいね。


「リオ様、お久しぶりです。お体は大丈夫ですか?」


「ごきげんよう、キース。すっかり元気よ。お気遣いありがとう」


 笑顔でキースに返答する。あら?クリスは不在のようね?今日は休みなのかしら?辺りを見渡すも、彼の姿は見当たらなかった。


「おいで、リオ。話があるんだろう?」


 カミルと並んでソファに座ると、キースがすぐに紅茶を淹れてくれた。とても良い香りだわ。紅茶の香りに癒されつつも、先程の話しをしなければと姿勢を正す。


「あのね、朝起きてすぐに疲労回復魔法を自分にかけたのだけど、いつもと違ったの」


「どう違ったんだろう?僕にもかけてみてくれる?」


「えぇ、かけるわね。お腹辺りが光るから、驚かないでね?」


 カミルのお腹辺りに手を伸ばし、疲労回復魔法をかける。先程と同じく、白く輝いた。


「凄いな……威力が桁違いだ。恐らく、目に見える程の威力だという事だろうと思うけど……デュークを呼ぶかな。まぁ、こんな事初めてだから呼んでも分からなそうだけどね」


「呼んで来ましょうか?」


「キース、クリスが戻って来てからで良い。さすがに部屋に2人きりだと、周りがうるさいからね……」


 カミルが遠い目をしている。イチャイチャしたいって事なのかしら?侍女がいても、普通にイチャイチャしてるじゃない……


「リオ?」


 ハッとしてカミルを見るも、誤魔化そうと話しを戻す事に。


「それでね、先日までと何か変わっていそうでしょう?だからステータスを確認しようと思ったんだけど、カミルと一緒に確認するのが良いと思ったから話しに来たのよ」


「そうだったんだね。じゃあ、早速鑑定して教えてくれる?」


 コクリと頷くと、自分に鑑定をかける。ステータスボードをじっくり確認すると、不思議な事に文字が浮かんで来た。


「か、カミル!ステータスボードの前に、文字が浮かび上がって来たわ。私には読めない文字……」


「キース、紙とペンを。リオ、その文字を書き写せるかい?」


「やってみるわ」


 キースから紙とペンを受け取り、浮かんでる文字を何度も見直しながら紙にペンを走らせる。


「『神々に愛されし少女は 空の青さと白さに輝く』って書いてあるよ。古文だから読めなかったのだろうね」


 カミルが私の書いた文字の下に、現代文字で分かるように書いてくれたので、それを口に出して読んでみる。


「神々に愛されし少女は空の青さと白さに輝く?」


 すると、ブワァ――――――――!っと目の前が白く輝いた。キラキラと光が降って来る。


「呼んだ〜?」


 目の前にフワフワと白い雲のような物が浮いている。カミルが慌てて私の前に出て庇おうとしてくれた。


「何もしないよぉ〜」


 何とも気が抜けるような声は、白い雲から聞こえるようだ。


「何者だ!姿を現せ!」


 カミルが白い雲を威嚇している。


「え〜?呼ばれたから来たのに〜。オイラを呼んだのは……そこの黒髪の娘だね〜?ねぇ君、好きな動物は〜?」


「え?私?えっと、猫ちゃんかしら」


「おっけ〜、猫ね〜!にゃ〜ん!」


 ポン!と白い雲が弾ける。その中から1匹の白く輝く猫が現れた。そして私の前でフワフワと浮いている。


「これでい〜い?君の名前を教えて〜?」


「私はリオよ。こちらは婚約者のカミル殿下」


「リオにカミルね〜、オイラは〜名前はまだないよ〜。リオがつけてくれると嬉しいなぁ〜」


「おい!待て!お前は何者なんだ?浮遊魔法は……」


「カミル〜、リオに名前をつけてもらわないと、何も話せないんだよ〜。そういう決まりなの〜」


「何だと!」


「カミル、大丈夫よ。悪い感じはしないから。ね?」


 カミルの腕に手を乗せ、軽く揺らす。前のめりになっていたカミルが少し体を起こした。


「変な動きをしたら焼くからな」


「やだ〜、カミル怖〜い」


 全然怖がってない口調で、浮いている猫が喋っているわ。あ、名前をつけてあげなければならないのよね……


 うーん、白いからシロ?猫だからニャンコ?単純な名前しか浮かんでこないわ。名付けって苦手なのよね……猫の名前をうーん、うーんと言いながら考える。


「猫ちゃんは男の子?女の子?」


 悩んだ末、猫からヒントを得る事に。


「オイラはどちらにもなれるよ〜」


「何処から来たの?」


「お空からだよ〜」


「じゃあ、『ソラ』と『ルナ』なら、どっちが良い?」


「わぁ〜、選ばせてくれるの〜?嬉しいなぁ〜。んー、ソラが良いなぁ〜」


「分かったわ。今日から猫ちゃんはソラって名前よ」


「ありがとぉ〜」


 パァ――っとソラの輝きが増してスゥーっとソラの中へ吸い込まれて行く。


「ふぅ〜契約完了だよ〜。今日からよろしくね〜リオ」


「契約、だと?」


「そうだよ〜?オイラはリオに召喚された使い魔だよ〜。詠唱してくれたでしょ〜?」


 さっきの古文の事でしょうね。確かに声に出して読んだから、詠唱した事になるのかしら?


「僕が読んでも来なかったじゃないか!」


「え〜だって〜、カミルは精霊の加護を持ってないでしょ〜?」


「精霊の加護?それじゃあ、ソラは精霊さんなの?」


「そうだよ〜。これでも精霊の王様から産まれた、上位の精霊なんだよ〜。だから使い魔になれたんだ〜。ニンゲンでいうと、王子や姫だね〜」


 あら、ソラって凄いのね。最初から精霊だと教えてくれたらカミルも警戒せずに済んだのにね。でも、分からない物体?から、私を守ろうとしてくれた事は、とても嬉しかったわ。


「精霊の王子……君は精霊王に言われて来たのかい?」


「カミル〜、オイラの事はソラって呼んで〜?確かに精霊王がリオの所へ行っておいで〜って言うからやって来たよ〜」


 チラッとキースを見ると、完全に固まっているわね。人間の王子に仕えるキースにとっては、精霊の王子は格上になると考えたのでしょう。本来であれば、こちらから声をかける事は許されないものね。


「キース、ソラに飲み物を出してもらえる?ソラ、熱いのと冷たいのはどっちが良いかしら?」


「わぁ〜ありがと〜。リオは気が利くんだね〜。猫舌だから、冷たいのが嬉しいなぁ〜」


「かしこまりました……」


「笑うところだったのにぃ〜」


 ソラはお茶目な精霊らしい。カミルは顔を引き攣らせながらソラを観察している。


 ソラにコップで飲み物が渡された。器用に両手……両前足でコップを挟んで飲んでいる。てっきり舐めて飲むんだと思ってたわ。


「猫らしく飲んだ方が良かった〜?」


「いいえ、飲みやすい飲み方で構わないわよ」


「喉が乾いてたから、一気飲みしたかったの〜」


「それは気がつかなくてごめんなさいね?」


「ううん。美味しかったよ〜。キース?ご馳走様〜」


 礼儀正しい猫……精霊ね。何故ここに来たのかしら?


「ね〜、カミル。予言の内容は知ってる〜?」


「あぁ、勿論。リオが召喚された理由だからね」


「あ〜なるほどね〜。だからリオの魔力はこの世界の色じゃないんだね〜」


「魔力の色?」


 魔力に色があるのは本を読んで知っていたけれど、この世界に無い色なんてあるのね?


「そうだよ〜。リオは知らないかもね〜?すっごく昔に、この世界へ召喚されたニンゲンと同じ色だよ〜」


「他の召喚者もそうなのか?」


「会ってないから分からないけど〜。『純白の魔力』を持ってるのは、リオだけだよ〜。すっごく特殊で、とぉ〜っても強い魔力だから、この国には……この世界ではリオだけって分かるよ〜」


「ソラは凄いのね。それにしても、何故私だけなのかしら?」


「古文書によると、召喚されし聖女はひとりと書かれているからだと思うよ。恐らく、今代に1人しか存在しないんだろう」


 カミルは色々と分かっていたみたいね?私が『聖女』の称号を得た事と、召喚された者だからでしょうね。何かしら古い文献から似たような事例を読んでいたのかも知れないわね。カミルはとても賢いもの。


「正解〜!カミル、頭良いね〜。古文書全部読んだの〜?」


「あぁ、後に付け足された古文書まで全部読んだよ」


「うわぁ〜……オイラには無理ぃ〜。お爺に要点だけ教えて貰ったの〜」


「そんなに難しい内容なの?私も読んでみたいわ」


 やっぱりカミルには知識があったのね。聖女について、私も知りたいから、読めたら良いんだけれど。


「やめときなよ〜、リオ……古代語だから難しいだけじゃなくって〜、1192冊もあるんだよ〜?」


「正確には、古文書1000巻と書き足されたのが192巻で、書き足された後半には古文書1000巻の修正もされてるから面倒ではあったよ」


「書き直してくれたら良いのにね〜」


「それは僕も思ってたよ」


 カミルは勤勉なのね。賢いとは思っていたけど、まさか精霊の王子が大変だという本を全部読んでるなんて。ソラはいくつぐらいなのかしら?


「ソラっていくつなの?」


「ん〜?オイラは〜……500歳辺りから数えるのやめたから、ん〜、わかんないや〜。ハハハ〜」


 思ったより年上……世代まで違うレベルだったわね。もっと敬った方が良いのかしら?話し方に緊張感が無いから無理そうだけど。


「廊下〜、誰かが凄い勢いで走って来る〜」


「ソラ、私のお膝にいらして?誰か分からないから、普通の猫ちゃんのフリをしていてくれる?」


「りょ〜か〜い」


 私の膝の上で猫らしく丸まってくれたソラは、とても賢い精霊みたいね。私は柔らかい毛並みを撫でながら、扉が開くのを待つのだった。

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