間宮 菜々未
第25話 太陽の裏側
お店を出ると、グーにした右手の指で涙を拭いながらうつ向き続ける光を、人目のなさそうな路地裏へ連れて行った。
そこでゆっくりと手を離し、向かい合うようにして光の泣く姿をしばらくの間ただ黙って見ていた。
「……私ね……もしいつか菜々未が自分から離れていくようなことがあったら、その時は笑って送ってあげようってずっと前から決めてたんだ……。菜々未が大好きだから、そうしてあげなきゃって……」
涙が止まらないまま、光は話し始めた。
「でも……本当にそうなったら、思ったようにいかなくて……私とじゃ菜々未は幸せじゃないかもしれないのに……それでも側にいて欲しい…って思っちゃって……誰かに菜々未を盗られるなんて……やっぱり耐えられなくて……」
「光……」
「……ごめん、今、泣きやむから……もう、ほんとにすぐやめるから……」
光は泣くことがまるで罪だと思っているかのようだった。
「いいの。泣きやまなくていいよ…光。私、そんな光の姿が見られて嬉しいの……」
私がそう言うと光は心配そうに私を見た。
「……初めて会った時から太陽みたいな光に惹かれて、私はそんな光が好きだなってずっと思ってた。なのにいつのまにか、どんな時でも太陽みたいな光を見てると逆にどんどん寂しくなっていった。私は、私のことで雨の一粒も降らせない光を見てるのが辛かった。愛されてないんじゃないかっていつも不安で……」
「……私はずっと無理してただけだよ。本当は、菜々未のことになると心がぐちゃぐちゃになることばっかりだったけど、全部隠してなんにも気にしてないフリしてた」
「どうして!?」
「だって菜々未はいつも明るく笑ってる私を好きだって言ってたから…。そうじゃないと菜々未が離れていくと思って恐かった。……だけど本当は、飲み会の後の菜々未の電話に出るのも嫌だったよ…。私のいないところで楽しく過ごしてたんだなって電話の声で伝わってくると、聞いてられなかった…。会えない時はいつもいつも不安だったから……」
信じられなかった。光がそんなふうに思ってくれてたなんて、今まで全く気づかなかった。
心の内を話してくれながらも今もまだ私に嫌われることに怯えて泣き続ける光を見て、光は何も変わってなんかなかったんだと今さら気づいた。
「……ごめんね、ごめんね、光……私…、私は、自分ばっかりが光を好きで、光はもう昔みたいに私のことを好きじゃないんじゃないかって思ったの…。そう感じれば感じるとほど恐くなって、側にいるのが辛くなって……新しい恋に逃げた……。でもやっぱりダメだよ、光とじゃなきゃ意味がない……」
「私は……初めて中庭で菜々未を見つけた日から毎日、ずっと菜々未に恋してるよ。毎日可愛いって思うし、毎日好きって思う。菜々未が着飾ってると誰かに狙われそうで不安だったし、出来ることならずっと部屋の中に閉じ込めていたいって思ってた。……だから、菜々未がいなくなった時、目の前が本当に真っ暗になった。こんな風に生きていくならもう今終わりたいって、本気で思った……」
「………私、何やってるんだろう……大切なのは光だけなのに、そんな光をこんなに傷つけて……」
「………でも、戻ってきてくれた…」
「……私たち、まだまだなんだね…。長く一緒にいるから、思ってること、ほとんど分かってるつもりでいた。きっとこうなんだろうって決めつけてた。だけど、7年くらいじゃまだ全然知らないことばっかりなんだね」
「……そうだね」
「……あのね、光、あともう一つ、気になってることがあるんだけど……」
「……なに?」
「光は、もう私とエッチしたいとかは思わないの…?」
「えっ!?なんで!?」
「……だって、全然しようとしないから……」
「……それは…、全然そんなことないよ。……すごいしたいと思ってるし……」
「じゃあなんでいつも手出してくれないの?」
「だって、逆に不安で悲しくなるんだもん…。エッチしてる時の菜々未が可愛すぎて、そんな風に週末を過ごすと月曜日に菜々未を外の世界に送り出すのが恐くなるから…」
「……そんなに心配だったの?」
「いつも心配だよ」
いじけたように言う光がたまらなく愛しくて、私は思わず光を抱きしめてキスをした。
光は私からのキスに喜びを隠せない顔をしながらも、路地を横目に通り過ぎていく人目を気にして少し慌てていた。だけど、私はそんなのどうでもよかった。
「……大好きだよ、光…。だから、やっぱりもっとエッチもしたいよ……。光に抱かれて安心したいの……」
「うん……これからはもっとしようね」
そんなこと言ってくれる光が可愛くてまた強く抱きしめた。
「ねぇ光、これからはもっと二人とも素直になろう。かっこ悪くても、泣いてもいいから、これからは太陽だけじゃなくて影も見せて欲しい……。そうゆうところも全部愛してるから…」
「……うん…」
そう言って頷くとまた光は泣いた。
素直になったかと思ったらまたすぐまだ強がる癖が出てしまい、光は私の言葉に返事をするだけだったけど、その涙が伝えたいことはちゃんと私の中に届いていた。
「……光、一緒にうち帰ろ」
私がそう言うと光は、
「じゃあ今から二人でクリスマスパーティーしようよ!」
とキラキラと光る涙目で嬉しそうに笑った。
私が大好きなあの太陽みたいな笑顔で……。
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