静寂の歌姫
O.K
第1話:歌わない歌姫
主人公、健太は大学生で、夜は近所のカラオケ店でアルバイトをしていた。カラオケ店は賑やかな場所で、友人たちが集まり、歌ったり、笑ったりする姿を見るのが彼の楽しみだった。しかし、ある夜、いつもとは違う雰囲気を持つ女性が来店した。
その女性は、長い黒髪に白いワンピースを着ており、まるで幽霊のような存在感を放っていた。彼女は無言で受付に来て、一人部屋を借りると言った。健太は少し驚きながらも、部屋を案内した。しかし、彼女が部屋に入った後、何も聞こえなかった。普通、カラオケルームからは歌声や笑い声が漏れ聞こえるものだが、その部屋だけは静まり返っていた。
一時間後、女性は再び現れ、無言で料金を支払い、店を出て行った。健太は不思議に思ったが、仕事に戻ることにした。次の日も、その次の日も、女性は同じ時間に来店し、同じように一時間を過ごし、歌わずに店を出て行った。
健太は次第にこの謎の女性の行動が気になり始めた。何が目的なのか、なぜ歌わないのか。ある日、彼は勇気を出して彼女に話しかけることにした。「すみません、何か問題がありますか?」と尋ねた。しかし、女性は一言も発せず、健太を無視して部屋に向かった。
その日を境に、女性は来店しなくなった。健太はますます謎が深まるばかりだった。彼女は一体何者で、何を求めていたのか。店のスタッフたちも同様に興味を持ち始め、様々な噂が飛び交った。
ある日、健太は掃除をしていると、女性が使っていた部屋の隅に一冊の小さなノートを見つけた。ノートにはびっしりと文字が書かれており、彼女の心の内が綴られていた。彼女は過去に歌手を目指していたが、ある出来事がきっかけで声を失ってしまったことが書かれていた。カラオケ店に通うことで、かつての自分を思い出し、少しずつ心の整理をしていたのだ。
健太はそのノートを読み終えた後、女性が再び来店することを期待し続けた。彼は彼女が再び歌える日が来ることを心から願った。そして、いつか再び会う日が来ることを信じて、彼は毎晩カラオケ店での仕事に励んだ。
時が経ち、健太も卒業し、カラオケ店を離れる日がやってきた。最後の日、彼は店の入り口で立ち止まり、ふと女性のことを思い出した。「また、いつか」と心の中でつぶやき、彼は新たな道へと歩み始めた。
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