さかだちするとあたまのわるくなるどうぶつってなーんだ?

あめはしつつじ

えー、毎度ばかばかしい話を一席。

 どうも、あめはしつつじです。

 蒸し蒸しと暑い季節、こんな時はビアガーデンなんかで、

 ごくごくごくごく、プハー。

 一杯のお運びありがとうございます。

 さて、酒は百薬の長、なんて申しますが。

 薬っていうのは、裏返れば、毒になる。

 つまり、酒は百薬の長、であると同時に、

 百毒の長でもあるわけでございます。

 毒を喰らわば、クワバラクワバラ。

 化けて出る事になりますよっ、てなもんで、

 ドクターストップ。

 私は、禁酒を命じられたわけでございます。




「先生、あっしはね、飲むためだけに、毎日毎日、一生懸命、働いているんでい。あっしにとって、酒っていうのは、生き甲斐なんでさー。それをね、あんた、やめろっていうのかい? 先生それは、あっしに死ねと言っているようなもんですよ」

「あめはしさん、別に私はあなたに、死ねと言っているわけじゃない。あめはしさん。あなた、ビールを一本だけで我慢しろ、と言われたら、どうだい?」

「いや、二本は飲みてえ」

「じゃあ、二本だけで、終わらせようってのは? どうだい?」

「いや、三杯目からは焼酎が……」

「そうかいそうかい、そうだよねー。私が言っているのはね、あめはしさん、あなたが酒をやめれば、ビールを一本、と言わずに、二本。三杯目からは、焼酎だって、なんだって、飲んだって構やしないっていう話なんだ」

「どういう意味だい」

「あめはしさん、あなた、このままいけば、持って数年の命だ。ビールを毎日一本飲んで、二年生きる。そいでもって、えー、あの世行きだ。だがね、酒をやめれば、この二年が増えて二年、四年に。さらに増えて二年、六年に。八年十年十二年。これだけ、長生きできるってんだ」

「先生、あっしは、酒が飲めりゃ、長生きなんざ……」

「まあまあ、話は最後までお聞き。いいかい。あなたが、酒をやめなければ、あと二年。毎晩ビールを、たった一本飲んで終わりだ。でもね、酒をやめるだろ。そうすると、あなた、もう二年生きられる。つまりだ、ビールをもう一本飲めるわけだ」

「うん? おう。二年でビール一本。二年と二年、ビール一本と、ビール一本。おう、二本だな」

「それだけじゃない。酒をやめれば、さらに二年。六年だ。この二年ビールをもう一本飲んだっていいが、三杯目からは、あめはしさん、焼酎。いきたいんでしょう?」

「おう、長崎のよ、いいー焼酎があるんだよ」

「酒をやめれば、二年の寿命が六年に。これで三杯目の焼酎も飲める。もっと酒をやめれば、六年が八年に。十年、十二年に。四杯目にワイン。五杯目にウィスキー。六杯目に、という具合に。酒をやめればね、あめはしさん。お酒をこれだけ飲めるってことなんですよ」

「おう、おうおうおうおう。ちょっと待ってくれよ先生。二年で、えーと、ビールが一本。酒やめりゃ二年に二年足して、四年で。ビール一本に足して一本、ビール二本。四年が六年になりゃ、三杯目に焼酎飲めて、八年でワインで四杯目。十年でウィスキーで五杯目。十二年で、六杯目。おいおいおいおい。七杯。八杯。九杯。いくらあっしでも、そんなには飲めませんぜ。まいたっな先生、酒やめるだけで、こんなにも酒が飲めるなんて。いや、すまねえ先生。あんたすげえ人だ。決めた、あっしは、今日で酒をやめやす」

「そうかい、そうかい、そいつは良かった」


 というわけで、六月。私は禁酒をしたわけでございます。

 しかし不思議なもんで、禁酒をしても、先生の言ったように、一向に酒が飲めない。一口も飲めない。六月中、禁酒に身を尽くし、澪漂。三〇日間ことごとく、まるで飲めない。こいつは、おかしいってんで、先生のところに再度行ったわけです。


「おうおうおうおう、こら薮、てめえ、酒をやめりゃ、酒を飲めるって言ったが、ちっとも、飲めやしねえ、この藪医者が、騙しやがったな」

「おや、あめはしさん、薮だなんて。むしろ薮の方があなたには、良いのではないですか?」

「どういうこったい? この薮が」

「なーに、薮にはささが、たくさん」




 えー、オチを解説すると、酒のことを昔、ささ、と言って……。いや。やめましょう。無粋だ。というわけで、落語パート、閑話は休題。話を元に戻しましょう。


 さかだちするとあたまのわるくなるどうぶつってなーんだ?

 どうも、あめはしつつじです。

 六月。酒断ちをしたのです。

 私は基本、お酒を飲みながら。晩酌しながら、執筆をしています。酒筆しゅっぴつといっても良いかもしれません。

 酒断ちしてから、確かに健康は手に入りました。

 しかし、全く筆が進まない。原稿用紙が白面しらふ白面しらふ

 六月は何も書いていない。無月です(一月ではない)。

 健康だが、最低限度の文化的な生活しかしていない。

 と気づいたのです。

 というわけで、健康のため、酒断ちしてバカのままでいるより、原稿のため、酒飲んで、バカになった方が良いんじゃないかということで、ハイボール三杯飲みながら、書いております。

 えっ、ハイボールの、ウィスキーの? 銘柄は、なんだって?

 そいつは、もちろん。

 角でございます。

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