その笑顔は宝石のように綺麗だ

あれから数分が経ち、僕は教室へ戻ったが、案の定先生に怒られた。

そして、僕は自分の席に戻った。


「もしかして、さっきの時間割の件生徒会に言ってきたのか」


勇人は凄い嬉しそうな顔をしながら掠れたような声で聞いてきた。


「いや、まだそれ諦めてなかったの……」

「当たり前だろ? 毎週毎週キツイんだから。部活もあるしな」

「それには同意するけど……残念ながらそんな事のために遅れるには御免だよ」

「ってことは、トイレで遅れたとかか」


僕は、そうだよと返した。

そして僕はさっきの出来事を思い出した。

頭の整理が追いつかないほどに、凄い内容だった。

しかし、その内容には勇人がいた。

これを勇人に話してもいいのだろうか。

いや――――これは僕の心の中に留めておこう。


それから授業が始まったが、内容が頭に入るわけもなく先ほどの内容を整理していた。


1つ目として、まず美夢は他クラスの女子に虐められていたということ。


2つ目は、嘘の噂を流されているということ。

ただその噂については僕は知らなかった。

女子だけに広まっているのだろうか?


3つ目、それらの出来事を踏まえ美夢は不登校、つまりは家に引きこもる原因となったわけだ。


さて、ここまで整理した内容を踏まえてどうすればいいか。

ただ幸いな事に、先ほどの女子の会話は録音している。

これを学校側に告白すれば解決はするだろう。

がしかし、美夢個人は解決はしないだろうな。

美夢は深い穴のような傷を負っている。

物理的にも心理的にも。


僕が出来ることは――――――――――――







―――なにがあるだろうか?



……

………



少し風が流れる。

まるで次に始まる季節を予言しているかのように。

僕はそんな風にあてられながら、ある家の玄関前にいた。


扉のすぐ横にあるボタンを押した。

聞き馴染んだ音が耳に流れると同時に、扉の向こう側から声が聞こえた。


それから数十秒が経過した頃、目の前の扉が開いた。

その扉からは二十代後半のような女性が出てきた。


「あら、いらっしゃい魁斗くん。あ、今日もプリント持ってきてくれたのね」

「はい、美香子さん。これ、先生からに渡してほしいって言われたプリントです。」

「ごめんねぇ。本当は美夢が直接受け取るはずなのだけど……まだ癒えてなくてね。」


そう、この二十代後半のような女性とは美夢の母だったのだ。

ちなみにだが、この美夢の母、美香子さんは実は二十代後半ではなく普通に三十代後半である。


「……今、失礼な事を思わなかった? 魁斗くん」

「いえ決してそんなこと」

「あら、そう? 結構早口になっていたけれど?」

「アハハ、そんなことはないですよ。 …ええと、それで……まだ美夢は癒えてないんですよね」

「そうなのよね。母親である私自身もあまり話せてなくてね」

「そうですか……。そういえば、美香子さんはなんで美夢がこんな事になったか知っていますか?」

「そうね。なんとなくがあったということ、は思っているわ」

「じゃあ、一つお願いを聞いてくれませんか?」

「…なにかしら?」


僕は今日の出来事について美香子さんに話した。

そして美香子さんはその話を聞いたとき、少し表情が変わったことに僕は気がついた。

それからその話を踏まえ、美香子さんにあるお願いをした。

そのお願いに渋々美香子さんは顔を縦に振った。



……

………



僕と勇人は何度も美夢と話したいと美香子さんに話したが、美夢自身はそれを望んでなかったため実際に美夢と話すことは出来なかった。

だが今日は違う。美夢は話すことを望んではいないだろうが、ここまでの出来事を踏まえて無理を通ってでも美夢と話がしたかった。


僕は懐かしい短い階段を登り、美夢の部屋の前へと立った。

そして、その扉に軽いノックをした。

一――二――三――と。


「美夢、僕だよ」


そう僕は扉の向こう側にいる少女に聞こえるよう言った。

そして――


「魁…斗……くん?」


扉の向こう側から、今にも崩れそうな声色が聞こえた。


「うん。そうだよ」

「どうして…来たの? 来ないでって言ったよね……」

「そうだね。…だけど、どうしても今日話したくてさ。」

「……私は魁斗くんに話したいことなんてない」

「それでも、一方的でも、僕が話したいんだ」


僕がそう言うと、彼女は静けさを纏った。


「実はさ、今日偶然聞いたんだけど――美夢は虐められてたんだよね」

「………」

「まずは謝らせてほしい。気づけなくてごめん」


それでも彼女は静かさを保った。

それから僕はある出来事について思い出していた。


「それでさ、小学校の頃、僕が虐められていた時に美夢は助けてくれたよね。そのとき美夢はこう言ったよね。一人で抱え込まないで周りに、私達に相談してって」


そう、僕は小学校の頃虐められていたのだ。

それを美夢や勇人が助けてくれたのだ。


「だから、あの時のように、今度は僕達を頼ってほしい」


そう僕が言うと、静かだった少女は口を開いた。


「みんなに……頼ってもいいの?」

「うん」

「迷惑にならない?」

「うん。ならないよ。だって僕―――いや、僕と勇人も美夢とは幼馴染で大の親友じゃないか。僕も勇人も昔みたいに一緒に登校したり、遊んだりしたいと思ってるよ」


扉の向こう側にいる少女の顔は見えない。

どんな表情をしているかなんて分からない。

けれど僕は、自分の思いを伝えるだけだ。

そう僕が思っていると、


「ふふ、まるで小学校の頃とは真逆ね」

「どう? 小学校の頃の僕に掛けた言葉が自分に来るのは」

「うん。なんだか今までがバカに思えてくるね」


先程の静けさの雰囲気とは一転し、辺りは鮮やかな空気へと変わった。

こんな些細な言葉だけで美夢は治らないと思っていた。


そして僕は扉の向こう側で歩く音が聞こえた。

その音は僕の方へと近づき、そして――――




―――扉が開いた。



「ごめんね。こんな事で引きこもって」

「別に。僕も虐められていた側の人間だったからね。気持ちは分からなくはないよ」


開いた扉から出てきたのは、少し焦げついたようなストレートな茶髪に、その端麗な顔立ちに合った黒い瞳の少女だった。


彼女は涙跡についた目の先を僕からずらし、再度僕へと向けた。

そして、少女は口を開いた。







――――ありがとう。





と少女は笑顔を浮かべた。

綺麗だ。

そう僕は感じ取っていた。

それと同時に、その笑顔に僕は胸の中に

だが、そんなことは些細な事であった。

僕はこの笑顔を守りたい、ただそう思うことでいっぱいだった。

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