【短編】 三角関係ラブコメ漫画の一人に憑依した俺は、主人公を応援していたらヒロインの様子がだんだんおかしくなって……。
ふおか
終わりでもあり、始まりでもある
いつだったか。
僕が恋という言葉を失ったのは…。
外はだんだんと蝉の声が鳴り始め、暑い太陽に照らされ始めた、あの高校の頃の夏。
それは僕が初めて恋を知り、そして同時に恋が枯れた季節。
…
……
………
あの日僕は放課後の教室へと呼び出された。
その誰もいない教室に一人の女の子がいた。
僕が彼女と目を合わせると、彼女は口を開いた。
"付き合ってほしい"
と。
僕は戸惑いこそしたが、「喜んで」と答えた。
それから彼女と付き合い始めた。
数日間の彼女と出掛けたり楽しかった。
そして同時に、僕の彼女への感情がいつしか恋に変わっていた。
しかし2週間たった後、彼女からまた放課後の教室へと呼び出された。
その教室に入り、彼女と目を合わせたとき彼女はこう言った。
"別かれてほしい"
と。
なんでとか、なにがいけなかったかと言おうとしたが何故か声が出なかった。
そして彼女は逃げるように教室から出ていった。
ポツンと教室に残された僕は、涙に溢れた。
ただ普通に付き合って別れるなら僕は前に進めた。
でも偶然ある会話から聞いてしまったのだ。
罰ゲームで告白であったことに。
僕はこの日から恋を信じなくなった。
恋愛は醜いのだと考えるようになった。
恋は人を籠絡させる。
恋は幸せもあれば不幸もある。
恋はいつだって甘い果実だと思わせて、現実はひどいものだ。
…
……
………
そして今に至り、僕は社会人である。
朝を起きて仕事をして帰って寝る、それを繰り返すだけの人生。
僕の生活は他の人達のように華やかではない。
こんな生活を死んだ親が僕の今を見たらどう思うだろうか。
僕は溜め息をつく。
「はぁ。少し今日は酒を飲みすぎたな」
今僕は飲み会から家に帰る途中だ。
本当は行きたくなかったが、お世話してくれた先輩からの誘いだったため断りづらかった。
断るべきだったかと今更後悔をした。
もう一度溜め息をつこうとしたとき、バサッっとなにか落ちる音がした。
「あ……はぁ、酔いすぎて力が抜けちまったな」
僕は落ちているレジ袋を手に取った。
「これ、興味無いのに買ってしまったな」
袋の中には、ある漫画が入っている。
先輩に勧められて買った漫画だ。
ジャンルはというと【恋愛漫画】である。
正直恋に関しては散々であったが、気分というやつだ。
「つまらなかったら捨てるか――――」
そう僕が言葉をこぼしたとき、右耳からピーーッ!
と音が聞こえた。
振り返ると―――――――
いや、振り返る前に僕の体は吹き飛んだ。
…
……
………
はっ―――!!
目が覚める。
あれ…僕は……
確かなにかに引かれて……
死んだ……はず?
というかここはどこだ?
僕の目には見知らぬ天井が映っていた。
真っ白で何も無い天井。
まるで病院のようで――――
「あっ! 目覚めましたよ! お母様! お子様がお目覚めに!」
奥の方から女性の声が聞こえた。
なにやら慌ただしかった。
その声が聞こえた後、数分経つと走る音が聞こえた。
その足音がだんだん近づいて、
「かいと! 起きたのねっ!?」
そう聞こえた。
どうやら同室にかいとという子供がいるらしい。
そう思っていると、仰向けの僕の視界に女性が映った。
その女性は僕を見ながら、
「よかった…! 目が覚めて!」
涙を流した。
え?
僕の頭の中に疑問で埋め尽くされた。
僕がかいと…?
そんなわけない。
夢か?
そして僕は手を伸ばした。
そうすると、僕のじゃない手が映った。
細くてまるで子供のような。
そこで僕は初めて以前の僕ではないことに気がついた――――
…
……
………
その後僕は検査を受け記憶喪失と結果がでた。
なにやら強い衝撃が頭に当たったようだ。
まぁそんなことより、この今の現状に説明してほしい。
転生? いや転生ではない。
異世界ではなく現代だし、年齢も中途半端で5歳だし。
この現状を説明するにはまさしく憑依なのではないか?
今の母らしき人から聞いた話によると、僕の名前は櫻井魁斗というらしい。
どう見ても僕の本当の名前ではない。
だって僕の名前は、發ア徽エ麼嗣――――
……あれ?
名前が思い出せない? さっきまでは思い出させたはずなのに……
僕はもう一度、記憶を思い出そうとした。
しかし、それは叶わなかった。
僕の名前、親のこと、住んでいたところ、
何もかもが、霧が掛かったようで思い出せない。
どういうことd―――
「かいとっ!」
「っ!? ――ど、どうしたの?」
僕は母の声にびっくりし、肩をピクリと動かした。
「もしかして、まだどこか悪いとこでも……」
「だ、大丈夫だよ…あはは」
「…それならいいのだけど……」
母は心配の目を僕に向けた。
…
……
………
それから時間が少し経ち、入院室へと戻っていた。
医師曰く、まだ安静にということらしい。
僕はまだ慣れない現実に少しずつ落ち着きを得ていた。
少し前に母から昔の自分について話してくれたおかげだ。
母からの話を聞き、今の自分は前の自分ではないことを認識したのだ。
そういえば、もう少ししたら僕の友達来るとか―――
そんなことを思っていると、病室の外から走る音が聞こえた。
何の音だろう、と思っていると、病室の扉が勢いよく開けられた。
「目を覚ましたのかっ! かいと!」
「目を覚めたんだねっ! かいとくん!」
そんな言葉を扉を開けた男女二人が大きな声で放った。
男女というより、男の子と女の子であった。
僕くらいの年齢の子だろうか。
二人はすぐさま僕の近くへと駆け寄った。
二人の身長は低く、病室のベッドに顔を乗せるのがやっとだった。
「やっと………やっと目を覚まして………」
一人の女の子が泣き出した。
それを見たもう一人の男の子が女の子を慰めていた。
「えっと……君等は、僕の友達なの…かな?」
そう僕が言うと、
「「え?」」
と、驚愕の顔を浮かべた。
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