モブの俺に無自覚で構ってくる学園一の美少女、マジ迷惑なんだが?
なつめx2(なつめバツに)
第一話 ピーマンと卵焼きと間接キッス
クラスのモブである俺(
「お前さあ、
「いつ、俺が構って貰ったって?…席が近かっただけだろ?」
「まあ良い…昨日オレ、媛乃木とヤッタからよ!」
「何をヤッた、って?」
「ばっ!? …あ、アレに決まってんだろ!」
「あれ?」
「だ、だから…せ、セックス、に決まってんだろ!」
少し、俺は動揺したかも知れない。被せるように栢は言った。
「は、初めてだった、ぜ!」
何故こいつがソレを俺に自慢気に言うのか判らないが、俺はダメージを受けたのを悟られないようにそっぽを向いて答えた。
「そうかい、俺には関係ないけどよ……」
腰まであるストレートの黒髪、黒曜石の瞳、桜の蕾のような小さな唇。容姿もスタイルもモデル並みで、文武両道に秀でた欠点らしい欠点がない、まさに(陳腐極まりない形容だが)神々しいまでの美少女である。
思うに栢が俺に突っかかってきたのは、多分前日の昼休みの出来事が原因だったのだろう。
最近、何故か媛乃木は昼休みになると俺の前の席にやってきて、しかも何故か俺の机の上に彼女の弁当箱を広げるのだ。
いや、「何故か」と言ったが理由は判っている。
俺の左隣の席の
席替えする前もいつもこの三人で昼は媛乃木の席周りに集まって弁当を食べていた。
ならば席替え後も媛乃木の席に集まれば良いのに、川俣と舘野の席が(前後に)並んでいた為、俺の前の席(その席の男子は昼休みはいつも居なかった)に媛乃木が来るようになったのだ。
最初は舘野と媛乃木が身体を捻って向かい合うようにしてそこに川俣が会話に加わる、という体だった。
しかし、数日前に俺が席を移る事を提案すると、三人が慌ててそれは駄目だと言い張ったのだ。
殊更に媛乃木の反対が大きかった気がしたが、そんな彼女を他の二人が〝生温かい〟目で見遣っているのが俺には不可解だった。
そして、その日から媛乃木(と舘野)が椅子を後ろ向きにして坐り、俺と川俣の机の上に弁当を広げるパターンが定着してしまったのだった。
俺の昼休みのパターンは自分の席で(一人暮らしなので自分で作った)弁当を食べ、残りの時間は机に突っ伏して惰眠を貪る、というモノだったのだが、後半のローテは望み薄になっていた。
三人が(殊に媛乃木が)俺にも何かと話題を振ってくるので食事のペースが遅くなった、というのもあった。
いや、クラスカーストトップの三人の美少女に交じっての昼食に俺の方が退き気味だったのだが、さっさと食事を終わらせて席を立とうとする俺を何故か言葉巧みに彼女たちが引き留めるのだ。
一昨日、俺が自分で弁当を作っていると聞いた媛乃木がおかずの交換を言いだしたのも一因だろうか(因みに彼女も自分で作っているそうだ)。
媛乃木の箸が俺のおかずを一つ取り、その箸で彼女のおかずを一つ俺の弁当箱の上に置いた。
それだけの事だし〝間接キス〟という程の接触があった訳ではなかったが、俺の心拍数はかなり危ないレベルまで上がった。
更に媛乃木の「美味しい」という評価を受け、川俣と舘野まで「あたしも」「あーしも」と交換させられたのだった。
そして、昨日の事だ。
早くも〝定例行事〟と化した(?)おかず交換を終え(媛乃木は「今日のはママ作なの、ごめんね」と言っていた)半分くらい食事が進んだ頃だった。
「媛乃木さんたち、放課後カラオケに行こうよ……」
媛乃木の背後からイケメンボイスが聞こえた。見るとクラスの男子カーストのトップ3(当然、
しかし、媛乃木は振り返りもせずに答えた。
「わたし、行かない」
他の二人も首を横に振ったように見えた。
イケメンはそんな事で諦めたりしない。
しかし、重ねて言葉を掛けようとしたイケメンを遮って媛乃木が俺の弁当箱におかずを幾つか差しだして言った。
「これ、あげる」
ピーマンが二つ、俺のご飯の上に置かれていた。
いや、ちょっと待て。それは確か『ピーマンの肉詰め』の中身をさっき口で掻きだした『残りのピーマン』だろう?
「と、これも……」
更に『筑前煮の中の人参』が俺のご飯の上に置かれた。
あからさまに(ママ作の弁当から)嫌いなモノを俺に寄越した感が満載だった。
唖然とした俺は咥えていた『だし巻き玉子(半欠け)』を弁当箱の上に落としてしまったのだが ――
「あ、それと交換ね♡」
と、言って媛乃木は俺の食べ掛けの『だし巻き玉子(半欠け)』を掻っ攫って口に放り込んだのだった。
〝間接キス〟がどうの、という以前にツッコミ処満載であった。
これがイケメンの栢を怒らせた原因だと思うのだが……俺は悪くない、よな?
翌日の昼休み(つまり今日だ)、いつものように媛乃木が俺の机に弁当箱を広げて昼食が始まった。
俺はいつもと変わらず適当に会話をしていたように思ったが、何処かでイケメンに簡単に股を開いたコイツに少し、イラっ、としていたかも知れない。
「なんか、今日の只野くん、冷たい…」
媛乃木が食事をしながら、ぼそっ、と言った。
「いつも通りだろ?」
俺がそう答えると、隣の席の川俣が頷きながら言った。
「うん、うん、いつも通りの冷たさね(笑)」
「
「それより、今日は〝唾液でコーティングされた〟ピーマンを只野に捧げないのか?」
「なにそれ~?」
何気なく言った川俣の言葉を聞き流した媛乃木が、はた、と箸をとめた。
「えっ!? …わ、わたし……た、只野くんの…た、た、たた、たま…」
「あの卵焼き、もろ、〝間接キッス〟だったよなっ(笑)」
その言葉を聞いて媛乃木の頬が、ぼんっ、と瞬時に朱に染まった。
そのまま、すっく、と立ちあがった媛乃木は両手で頬を押さえたまま、何故か教室を飛びだしていったのだった。
「あ~あ、只野が泣~かした~」
変な節を付けて川俣が俺を上目遣いで見た。
「い、いや、いや、いや……今の…お、俺が悪い、のか?」
色々と一杯いっぱいだった俺に、川俣も舘野も、うん、うん、と頷いていた。
「
「だよね~」
「そ、そんなコト…な、ないだろ?」
俺の返事に二人が、しら~、っとした視線を返した。
しかし、俺としてはもっと気になる事があった。
「昨日、カラオケ行ったのか?」
「えっ?……
川俣がいきなり何だという顔をして確認し、舘野が答えた。
「行く訳ないにょ(笑)」
「あいつら、カラオケボックスをヤリ部屋にしてるからね」
重ねて吐き捨てるように川俣が言った。
そして、
「な~る……只野が冷たかったのは、それか!」
「えっ?……どれにょ?」
川俣が頷き、舘野が小首を傾げた。
その耳元に川俣が何やら囁くと、理解が及んだらしい舘野が俺を〝生暖かい〟目で見た。
「なっ!? ……何んだよっ?」
しかし、俺としては、それよりも確認したい事があった。
「昨日って、君たち直ぐ帰ったのか?」
「『君たち』って、
川俣がイミシンに訊いてきた。
「だ、だから…さ、三人、いつも一緒だろ?」
「まあ、昨日は三人一緒に○ニーズに行ったかな?」
「そうにょ、最近は昼に只野っちが一緒だから〝恋ばな〟できないしにょ(笑)」
「べ、別に…すれば…い、良い、じゃないか…」
「あらん、只野っちは、
「………………」
上目遣いでそう訊いてくる舘野に、俺は返事に窮したのだった。
「そ、それより…ひ、媛乃木さんを探しに…い、行かなくて…大丈夫?」
「それ、只野の役目だろ?」
川俣が当然そうに言い、舘野が頷いた。
「い、いや、いや…イミフなんだが?」
俺の突っ込みに二人が両腕をあげて、やれ、やれ、のポーズで答えた。
「仕方ない、居そうな場所を3つに絞ったぞ……1つ、屋上の給水塔の陰…」
「あーしが行くにょ」
舘野が答え、川俣が続けた。
「2つ、図書室…は、あたしが行こう……で、3つ目は、三階の奥の女子トイレだが、只野の担当だな」
「よ~し、行くにょ」
舘野の言葉で立ちあがった二人に突っ込むのも莫迦々々しいくらいだった。
「一番近いトコ譲ってやったのに、何で怒るかなあ?」
「全くにょ」
「君たち、俺を停学にしたい訳?」
「停学が怖くて、女子トイレに入れるかーっ!」
「あーし、毎日入ってるにょ?」
「いや、イミフなんだけどっ?」
色々突っ込みたかったが、屋上への階段(舘野と代わって貰った)で俺は二人と別れたのだった。
屋上は出入り禁止ではないが、冬場は寒いので滅多に人が居ない……らしい(俺も来た事がなかったので舘野情報だ)。
給水塔のそばはおろか、屋上に人の姿はなかった。
〝ハズレ〟だったか、と思ったが、ほっ、としたのも確かだった。
媛乃木を見つけて、何を言ったら良いのか判らなかったからだ。
ただ、先ほど川俣たちに確認した話を反芻するに、今朝の栢の言葉はブラフだった可能性が高かった。
まあ、何故そんな嘘をついたのかは判らないが、俺が媛乃木たちと仲が良さそうに思えたのだろう。
しかし、昼休みの『弁当タイム』以外で彼女たちと俺とは接点など皆無だ。一緒に遊びに行った事もないし、共通の話題もない。
大体、隣の席の川俣とも、斜め前の舘野とも、『弁当タイム』以外で言葉を交わした記憶すらなかった。当然、『朝の挨拶』をした事もなかった。
( いや、マジで接点なさすぎだろ?……それが、いま、媛乃木を探す為に『共同作業』をしているの、不思議すぎる(笑) )
俺は頭の中に浮かんだ、モヤモヤ、を振り払うように顔を振って、念の為に給水塔の陰を覗いてみた。
( 居た~~~っ!? )
俺は声をだしそうになって慌てて口を覆った。
媛乃木は給水塔の陰に体育坐りで膝に顔を埋めていた。
問題は、学園のスカートの短さにある。
無防備に体育坐りしようものなら…………
( み、見えてますよ媛乃木さんっ!? ……ぴ、ぴ、ピンクの…お、おパンツがあ~~~~~~~っ!? )
俺は見続けたいのを必死に堪えて、抜き足差し足で三歩離れてから、おもむろに声をあげた。
「媛乃木さ~~ん、居ませんか~~?」
給水塔の陰で人の立ちあがる気配がした。
俺は再び三歩を詰めて、給水塔の陰を覗き込んでお道化た声で(カクレンボの鬼さながらに)言った。
「みいつけたーっ!」
媛乃木は少し恥ずかしそうな笑顔を見せて答えた。
「みぃつかった~(笑)」
その時、何故か、俺は媛乃木の手を取り抱き寄せていた。( いや、モブの分を弁えぬ行動だった……よな?)
「心配したよぅ(笑)」
「ごめん……」
媛乃木も何故か逃げようとしなかった。
( ヤバい、良い匂いする…柔らかい…お、おっぱい、大きい♡ )
しかし、俺のバラ色の時間は直ぐに終わりを告げた。
「おお、やっぱ赤い糸か?」
「だよにょ、だよにょ~」
( ちょ、二人とも、ここに来るの、早すぎるのではっ!? )
俺は慌てて媛乃木を抱いていた腕を
川俣と舘野がイジル気満々の笑顔を浮かべていたのだった。
【つづく】
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