第2話 学校転移

 その日日本中を騒がせるニュースが流れた。


 ――県――市、●●高校……一クラス40名、一学年8クラス、全校生徒960名プラス教師陣45名が一斉に学校から姿を消した。


 病気や怪我で休んでいる者もなく、全校生徒が出席している日にであるため本当に学校に携わる者が全員忽然と姿を消した。


 家族や学校外の友人知人は、彼ら彼女らの喪失に疑問を抱き警察や自衛隊を含め捜索をするが、手掛かりすらみつからず。


 本当に、ある日突然学校そのものが神隠しにあったかのように人がいなくなった。


 何日も何か月も捜索は続けられたが何の進展も見られず、1年もする頃にはたまに捜索は続けられておりますのニュースが出るくらいで、人々の記憶からは抹消されていく。


 世界は、日々事件が起こっているため古いニュースは人々の頭の中から消えていく。どんな凄惨な事件でも時が経てば忘れられていく。


 それが、生徒や教師を合わせた千人を超える人が突然いなくなってしまうという事件だったとしても。


 家族や親族等血縁が近しい者以外の記憶からは押し出されたところてんのように失われていく。いや、家族でさえ忘れようとする者さえ存在する。


 これなら、目の前で車に轢かれて失った方がマシだと叫ぶ家族もいた。


 それでも何も進展する事はない。姿を消した人間が再び家族の前に現れる事はなかったのだから。










「うわっなんだここは。」


「いやっ、何?」


「どうしたっていうんだ?授業中だったはずなのにっ。」


 教室や体育館、運動場にいたはずの生徒達は突然の景色の変化に驚きを隠せず、ただ思い思いの言葉を発して叫んでいる。


 コンクリートの壁も、黒板も、時計も何もない。


 どこかの神殿か?と見間違うような場所に一同は集合していた。


 生徒達の周囲には自分の荷物でもある鞄等が転がっていた。


 


「みなさんお静かにお願いします。」


 拡声器を使っているわけでもないのに、騒がしいこの場において良く声が通っていた。


 それはとても綺麗な女性の声。


 静かにと声は響いたものの、その言葉に従う者と言葉を返す者も存在した。


「ここはどこだ?」


「一体なんなんだよ。」


「これはラノベでお馴染みの異世界転移ってやつか?」


「いやぁっなんなのっもう。」


 声を発したと思われる女性が姿を現す。


 生徒達の前方、玉座の横にその女性は姿を現した。


 そしてその玉座には髭を生やした50歳前後の男性。


 周辺には護衛と思われる騎士や、何かしらの高官職と思われる人物も脇に鎮座していた。



「みなさんお静かにお願いします。」


 ラノベ等を読んでいる者達の大半は心得ているのだろう。


 こういう時は召喚した側の代表がなにやら重大な事を話すと言う事を。


 そしてそれとは別に、現状を教えてくれる存在が誰なのかを理解して静かにする者も多く存在した。


 暫くの時を経て、ようやく鎮まりを見せた後、漸く女性は次の言葉を継いだ。



「皆様を我らの都合で、突然皆様の世界から連れ出してしまった事をまずはお詫びします。」


 お詫びしますと言って、申し訳ございませんと言う者は殆どいないだろう。


 ニュースを見ていれば、それは大体の人がそれを感じているはずである。


 現にこの女性もお詫びしますと言いながら、ごめんなさいや申し訳ございませんという言葉は口にしていない。


 

「まずはここは皆さまが生活をしていた世界ではありません。この世界はアエテルタニス。」


「そしてここはファラリス王国、王都ジャランの王城。私の名前は カトリーヌ・ド・ライネ・ファラリス。」


「この国の王女です。そして玉座に座るは我が父にしてこの国の王であるアイスキュロス・ド・シジョウ・ファラリス王。」


「順を追って説明しますのでその間お静かにお願いします。場合によっては見せしめに殺めなければならなくなります。」


 死を意識させられる事によって、恐怖によって一時的に黙らせる事は可能。


 一方で恐怖から発狂する者が出る事もまたある。


 どう転ぶかは実際の所起こって見なければわからない。


 千人を超える人間が集まっているのだ、良い方にも悪い方にも振り切るのは火を見るよりも明らかなのだが。


 そこで王女が話した内容は……


●この世界は魔王を始めとした魔族の脅威に晒されている。


●魔族とは別で魔物が存在し人々の生活に恐怖を与えている。


●その魔物は時として素材や肉という形で人の生活の糧になっている事もある。


●国同士の軋轢はあるものの、人類共通の敵である魔族が存在するため、表面上は争いはない。


●軍や兵、冒険者という者が存在するが、魔族との争いはジリ貧である。


●いち個体としては魔族の方が圧倒的強さを誇っている。


●転移者等はこの世界の人間よりも強い個体が圧倒的に多い。


●この世界にはステータスが存在し、腕力や魔力等が数値化されており、レベルが上がると上昇する。その上昇数もこの世界の人間より、転移者の方が多い。


●この世界には天職というものが存在する。職業やレアな固有スキルのようなもの。これは全ての人種が持っている。


●転移者には、修行期間を設けた後に魔族との戦いに参加して欲しい。


●最終的には魔王を倒し、世界を救って欲しい。


●元の世界への帰還方法は現状ではないが、魔王を倒し人類の恐怖が消え去る事で可能となる……かもしれない。


 どうにも胡散臭い説明とお願いではあるが、世界を超えるなんて事が出来ない以上、従うしかないと思う生徒や教師達であった。




「それでは皆様。細かい打ち合わせは代表者数名の方と行いたいと思います。数名選出してください。」


 校長(男)と3年の学年主任(男)、保険医(女)、生徒会長(男)、生徒会副会長(女)の五人が代表となり別室で話し合いが行われる。


 他の生徒や教師は隣の棟にある施設に案内される。


 それはまるで大きなホテルのようだった。


 一人一部屋、12畳程度の部屋を割り当てられた。

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