第2話ー② 魔法を妄りに使ってはいけません
居住区と商業区を繋ぐ門から歩いておおよそ二十分、ようやく目的地に着いた。
はぁ…遠い…。いやまあこの村の食事処で門に一番近いのここだからなぁ…仕方ないっちゃ仕方がない事なんだけれども。お腹空かせて二十分歩くのは辛いっす…。
あとある食事処はもっと歩いた先にある海鮮系専門のレストランと、「グリ・ルー」のドアを背中にした時に左へもう十分ほど歩いた先にある喫茶店…くらいかな?
もしかしたら、私も知らないレストランがこの村の何処かにあるのかもしれないが、今の私は知らないので…はい。
「さ、入りましょ!お腹空いたー!!」
絶対に大声出したらお腹減るんだけど、レストランに入る時は出ちゃう。だって楽しみなんだもん。
私たちが店に入ると、カウンターの奥にある厨房からオルタンシアさんが顔を出し、「お、アンちゃんとジュールくんじゃあないか!!いらっしゃーい!」と大きな声で出迎えてくれた。
オルタンシアさんは大柄の女性だ。肩幅も広くその隆起した筋肉はコック用の衣服を着ていても目に見える程で、袖なんてパッツパツだ。
私たちはオルタンシアさんに案内され店内の奥にあるボックス席に座った。
テーブルの上にあったメニュー表に目を向ける。
「ジュールがメニュー見てていいよ」
向かいに座っていたジュールにメニュー表を渡す。
「かなりメニューの数が多いな…もうおすすめにしようか…」
オルタンシアさんは料理研究が趣味だと公言しており、ここは特に専門店というわけでもないから、ジャンルに縛られず様々な種類の料理が楽しめる。
そりゃ、迷うよねぇ。
「ア、アンから選んでも…」
「私はここに来たら食べるのいつも決まっているからいいの。ゆっくり選んでなよ」
「そ、そうか?わかった…えぇ…?」
あはは、迷ってら。
さっきジュールに言った通り、私はこの店で食べるものは決まっている。
絶対にここではミートパイとチーズグラタンを食べるのだ。
アツアツでジューシー牛ひき肉とサクサクなパイ生地が絶品のミートパイ…トロトロのチーズとほのかな塩味が相性バツグン!隠し味のにしんと飴色オニオンも美味しいんだぁ…。ああ、想像してたらお腹空いてきた。
この二つはかなりボリュームがあるけれど、ペロリと食べれる。私の胃袋はこの二つにだけは大らかなのだ。
「よ、よしこのオニオングラタンスープ…とパンを二つ…にする!」
お、ジュールも決まったみたいだ。ここはオニオングラタンスープも絶品だからいいの選んだねぇ…。
「パンは黒と白どっちにする?」
「両方にしようと思う」
ジュールは堅めの黒と柔らかめな白、どちらの食感のパンも楽しみたいみたいだ。グルメだね。
私たちは注文をして、各々の料理が来るのを待った。
その間に聞いてみたい事聞こうかな。
最近ずっとしてる質問だけど…。
「ねぇジュール、魔物の事ってなんでユモン様に質問したの?ジュールだって本の中の存在だって知っててもおかしくないと思うんだけど」
私の問いかけに、ジュールは目をそらす。
そして、「あれは、記憶を確かめるためで、深い意味はない」と答える。
毎度これだ。絶対に魔物の事を聞いた意味を説明してくれない。
だってこの世界で暮らしていたら、そんな生物が存在していないなんて周知の事実のはずなんだもの。
確かに最近西の方の国にあった大きな山が爆発して麓にあった村々が消滅したなんて、なんか物語で魔物がしそうな出来事があったけど、あれは確か火山の噴火?だったってその国のお偉いさんが発表していたはずで、魔物とかそういう超常の存在の話ではなかった。
「ねぇ、三百年前の戦争と魔物、何か関係があるんじゃないの?」
私はヒソヒソ声で、諦めず質問をした。
ヒソヒソし始めたのは、レストランで戦争の話なんて周囲に迷惑かなって思ったから。なら、初めからするなってね。ごめんなさい。
「…………――――関係ない」
わぁ、絶対に関係あるじゃん。
でもそっかぁ…戦争に関係あるんだぁ…。
聞きづらーい!すっごくハードル上がった!
何それ!どういう事!?一体戦争と魔物の関係は何!?
敵対していた国が動物を改造した生物兵器、”魔物”を作ってたとか…?
それでジュールの前世の友人とかが死んじゃったとか…?
今の時代に魔物が架空のものだと伝わっているなら、その戦争で全滅したって証だからあの時聞いたの?
うう…これは全部私の妄想なわけで、事実ではない…くぅ…。
はぁ…流石にこれを面と向かって聞く勇気は私にはない。
話しかえるか…流石に空気が悪くなった。私がそうしたんだけれども。
ええっと…何かいい話題…いい話題…。
あ、そうだ。
「ねぇ、さっき門の近くで何の魔法を使おうとしてたの?」
結局私が発動を阻害した魔法。あれはいったい何だったんだろうか。
一流の魔法使いは魔法陣を見ただけでどんな魔法を使おうとしているのかわかるらしいけど、ずっと言ってるが私はこれまで魔法に興味がなかったので当然魔法陣で魔法がわかるわけがない。
「あれはただの探査魔法だ。この村の周囲にどんな生き物が住んでいるのか気になったからな。あの場所は村の真ん中に近かったから、あそこで使おうとして来ていたんだ。特に攻撃性がない魔法だから、何も考えずに使ってしまったんだ」
探査魔法…へぇ、そういう魔法もあるんだ。何か言葉の後に魔法ってつければ何でもありなんじゃないかと思えてくるな。料理が出てくる料理魔法…とか?
「じゃあ、ご飯食べたら村の外でやってみようよ。別に村の真ん中でやらなきゃいけないって訳じゃないでしょ?」
私がそう言うと、ジュールは驚いたような顔をした。
まさか私魔法嫌いだとでも思ったかな?
「村の外って出ていいのか?」
そっちかい!!
「大丈夫だよ、各門にいる門番さんの誰かに許可貰って外出るの。そうすれば村の全ての門番さんに誰が今外に出ているのかが共有されるわけ。私は成人してるし、外に出るだけなら全然問題ないって」
笑いながら私は教えてあげた。
「じゃあ、同行してほしい。魔法を使うのにも慣れておきたいからな」
「いいよ~」
私がそう返事をした辺りで料理が運ばれてきた。
ミートパイ、チーズグラタン、オニオングラタンスープに黒パン白パン。
オルタンシアさんが自信満々な表情で持ってきたそれらの料理はお腹が空いていた私にはもうキラキラと輝く宝石の様に見える。はぁ早く食べよ。
匂いからして自らは美味しいと主張する料理たちに舌包みを打った後、私たちは約束通りに村の外へ行くために、門へ向かった。
向かっている門はジュールの父親が門番を担当している所だ。
黙って息子が村の外に行くだなんて心配だろうし、ジュールも父親が担当している門から出た方が安心感があるだろう。危険があっても父親が真っ先に来てくれるだろうしね。
グリ・ルーから西に歩いて二十分、目的の門に辿り着いた。
村の西側にあるから西門。そのまんまの名前。
そこは王都に続く道があるから一番大きな門でもある。故にそこに配属される門番さんはとても名誉で、村長さんから信頼されている人という事なのだ。
私たちは西門に着くと、すぐにジュールのお父さんに少しの時間だけ村の外に出たいという事を伝える。
「村の外?そうか…今は特に凶暴な動物が出ているという報告もないし…まあアンちゃんがいるから大丈夫か。あまり離れた所にはいかないように、何かあったらすぐに大声で呼ぶんだよ?」
おじさんの注意をしっかりと聞き入れ、私たちは門を潜り抜けて外へ踏み出した。
その時のジュールの顔は心なしかワクワクしているようだった。
これはちゃんと心が休めてきている証拠かな?
少しづつ、少しづつ癒えてくれれば、私としては満足なんだ。今は一瞬でもいつか前みたいに自然に笑顔が見れるようになったらいいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます