第5話 カストリーズとポルトノボ<1>

「時が満ちる……」

 少年は真夜中に目を覚ました。ひっそりと静まりかえった部屋は暗く、ただ窓辺の 白いカーテンだけが、ぼんやりと光を含み、かすかな風に揺すられているのが見える。

 少年はゆっくりと立ち上がると、白いカーテンに手をかけた。

 重たい夜空に浮かんだ三日月は、鋭い鎌のように冷たい光を放ち、少年を見下ろしていた。

 「近づいてくる……」


          ※


 朝、小鳥の声で目を覚ますと、ナンシーは、そばにヘジュがいないことに気がついた

 「どこに行ったの?ヘジュ!」

 秋の終わりに「天使の森」を旅立ってから、二人はいつも一緒だった。突然いなくなるなんて、そんなはずはない。 ナンシーは不安になって、辺りを捜した。

 「ヘジュ!」

 向こうの小川の方で、声が聞こえた。影が二つ、こっちに向かってやってくるのが見える。ナンシーも急いで影に向かっていった。

 「ヘジュ、何をしていたの?」

 つかまえた相棒にナンシーは問いかけた。

 「うん。散歩していたら、この人が魚をとってるって言うから、僕も行ったんだ。朝ごはんにいいだろう?」

 ヘジュは隣に立っている少年を見てからナンシーに言った。少年はヘジュよりも少し年上で、十二歳くらいに見える。

 「あんたたち、よそ者だろう?うちに来ないか?魚もたくさんとれたし、客なんて、カストリーズも喜ぶだろうさ」

 少年は白い歯を見せて、にっと笑った。きらきら光る目も、いかにも健康そうな印象を与える。

 「カストリーズ?」

 ナンシーがきょとんとして聞き返した。

 「ああ。俺の大切な家族だ」

 きらきらの目がますます嬉しそうに輝く。それを、とても温かい、とナンシーは思った。

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