第3話 スルースルの花園<8>終章

 「えい」

  トトト、トン

  どっ

 笑い声が起こる。

 「なあんだ、ヘジュは下手だな」

 ヘジュと一緒に地面に石を投げて遊んでいた少年の一人が言う。

 「なんだよっ!」

 ヘジュが膨れっつらで応える。

 「次はアミアンよ!」

 小さいアミアンが元気いっぱいで出てくる。

 「おう。がんばれ!アミアン!」

 ヘジュはちょっと離れて、微笑みながらその様子を見ている。

 「ねぇ、」

 誰かがヘジュに話しかけた。

 「セアラ……」

 「あの花が消えた時、一瞬だけ、ヘジュのお兄ちゃんが悪魔の姿に見えたの」

  どきっ

 「ううん、黒い翼としっぽが見えただけ。でもね、全然怖くなかったよ。ヘジュのお兄ちゃんは優しいもんね。でも、こんなのって、変だよね」

 「アミアンはね、」

 いつの間にか、アミアンがヘジュたちの隣にきていた。

 「アミアンはね、ヘジュくんが悪魔でも何でも好きだよ!おねいちゃんの次くらいに好きだよ!」

 アミアンは、お日様みたいなにこにこ顔で言った。

 「セアラっ、次はお前の番だろ。来いよ!」

 ジッダがセアラを呼んだ。

 「はーい!いきまーす!」

 セアラが元気に答える。

 「おねいちゃん、がんばって!」

 アミアンもセアラにくっついて行った。

 「おい、」ジッダがヘジュに肩を組んで、くくくと笑いながら言った。「セアラにももてちゃったみたいじゃん」

 「ジッダ!」

 「ヘジュ!」

 ヘジュがジッダに反論しようとして口を開いた時、反対側から誰かに呼ばれてヘジュはそのまま振り返った。

  ばふっ

 次の瞬間、何かに視界をさえぎられた。なんだか息苦しい。

 「ぶはっ」ヘジュは視界と口を開くと、言った。

 「なんだよ、ナンシー!」

 「えー、だって早いほうがいいと思って。ね、それあげる。じゃあね!」

 ナンシーはもう背中を向けている。

 「って、どこに行くんだよ?」

 「宿に決まってるでしょ。今日はカディスさんが、おいしいパイの焼き方教えてくれるって!後でご馳走してあげるね!」

 そういうと、ナンシーは、すたすたと行ってしまった。

 「なんなんだ?」

 ナンシーが行ってしまうと、ヘジュは、さっき顔に押し付けられたものを見た。

 「あ」

 「へぇ」

 ジッダも横からのぞきこんで声を出した。

 それは、冬用の毛糸の上着だった。

 ふふん、と言ってから、

 「いいな、お前の姉ちゃん!」とジッダ。

 「姉ちゃんじゃないよ、」ヘジュは上着を肩にかけてみながら言った。

 「最高の相棒なんだ」 

 今は人の姿をした、優しい悪魔の子は、嬉しそうに笑った。

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