眩暈

Serius9

前章

 奇妙な感覚に落ちるほど夏の暑さは強烈だった、それは目の前の現実が歪んでいくうねりとなり思考が抜けていく、言葉が脳裏に巡ることによって現在の自分すら見失いつつあった。

 この街は都市と言えばそうといえるが決して新しい風の流れるような場所じゃなくその平穏に包まれ、不可解などとは無縁のような態度であった。しかしそんな街にも稀に奇妙なことは起きるというのだから世の中不思議なのだろう。

 始まりは一本の通報からだった。

 「おい!!新人ちょっとこい」

先輩からこの呼ばれ方をする時は大抵が面倒事を押し付けるときだと知っている彼は今度はどんな雑用をさせられるとお考えて気落ちした態度で返事でする。

 「...遅いぞ」

いつもは煩わしい振る舞いの上司の態度がいつになく険しいことから彼も態度を直した。

 「申し訳ありません。何用ですか?」

 「先程、ショッピングモール内の映画館にて立てこもり事件が発生したと通報があった」

雑用と疑った彼も流石に立てこもりなどの経験のない事件に事態の重要さを理解した

「それで犯人の要求は」

今まで経験したことのない規模の事件に新人は動揺を隠せていない

「それが犯人の要求は観客と引き換えに警官一人を彼に渡すことらしく金銭などの要求を一切しないそうだ」

彼は拍子抜けしたが、それは上司の一言により一変することとなる

 「そこで現場で君に向かってもらう」

あの時から記憶が曖昧だっただろうな、この奇妙な感覚のせいだろうと思考を正常に戻そう目を開くと、

そこから先、気づけば映画館にいた。

 「ここ...映画館だよな」

そっと身体を揺さぶりつつシートから立ち上がろうとすると後ろから掠れた声が響く

 「おい若いの、そりゃマナー違反だろ」

後ろを振り返るとそこには異様な雰囲気を纏った男が静かに座っていた。その男は夏に似合わないボロボロの紺色のコートにボサボサの髪と茶色のハット、手にはショットガンを持っていた。

 「あんたが立てこもり犯なのか」

彼は自分の状況を理解出来ず呆けたようすで彼は男に問うが、しかし彼はニッカっと不敵に笑うだけだった。

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