自堕落貴族奮闘記⑤




ブレイド視点



ルーファスの不祥事が告発され民衆には動揺が走った。 その代わりのようにオズが立候補し、事態はますます収拾困難となる。


「こんな騒動になってルーファスは一体何をして・・・」


混乱していたブレイドは我に返るとルーファスのいる方を見た。 だがいつの間にか隣からいなくなっていた。


「あれ、どこへ行ったんだ?」


辺りをキョロキョロと見渡していると近くから声がかかった。


「坊ちゃん、どうかなさいましたか?」


チラシを配っていた家来だった。 配り終えたのか家来の手にはチラシ一枚も残っていない。 辺りに散乱する紙を見るにばら撒くように渡したのだろう。


「どうなさった、じゃねぇよ。 本当にこの情報に偽りはないんだろうな?」

「もちろんです」

「俺とルーファスはライバルだ。 一部ではまるでルーファスの評価を下げるために俺たちがわざと嘘を用意したっていう風に見られているんだぞ!!」

「そうですが事実なのです。 当然私どももこれを発見して早々に調査いたしました。 その結果間違いなくお二人方の成績は入れ替わっていたようなのです」

「だとしても普段の姿からすれば・・・」


自分の意志がハッキリとしていてそれを言葉にして伝えているルーファスを思い返す。 受け答えもきちんとなっているため頭が悪そうには見えない。 寧ろ自分よりも断然頭がいいように思える。

その点オズはブレイドから見ても落ちこぼれで、普段からはとても好成績であるようには思えない。

とはいえそのようなことを言ってもブレイドに事の真偽を確かめる術はないし、普段の行いが悪くても勉強ができる人間なんていくらでもいると知っている。 ここで考えていても分からないと首を振った。


「・・・一度屋敷へ戻ろう」


家来と共に屋敷へと戻った。


「そもそも一体どこでその情報を入手したんだ? どう考えてもリークされた内容。 俺たちの家の者の仕業とはとても思えない」

「旦那様のお部屋のようです。 旦那様のお部屋は開いており何者かが侵入したのだと考えられます」

「侵入だって?」

「それが置かれていた以外には何も異常はありませんでした」

「ウチには堅固な警備システムがあるはずだ。 どうして侵入を許すようなことになる?」

「それが昨日の晩から一部防犯装置が作動しなくなっており・・・」

「はぁ!?」

「事前に仕組まれたものだと思われます」


父の部屋に置かれていた書類の実物も見せてもらった。 今は厳重に袋の中に入っている。


「・・・本当によく分からないな。 誰がどんな意図でこんなことをしたのか」

「ルーファス様の評判を落とすためでは?」

「ルーファスのやり方に不満を持つ者と言えば? それは庶民だと言いたいのか?」

「庶民だとしてもここまでできる者は・・・。 かなりの権力者でないと不可能な気がします」


そこで思い浮かぶ人物が一人いた。


「ルーファスと代わったオズ・・・。 というわけでもなさそうだな。 俺と似たような考えならオズがわざわざ立候補を代わる必要がない」

「もう少し念入りに調査いたします」

「あぁ、頼む。 あ、そう言えばスレイス家にはお金を渡しておいたか?」

「まだでございます」

「何だと? 選挙は今日なんだぞ。 遅いかもしれないが早く送っておけ」

「かしこまりました」


スレイス家は貴族であり基本的にはルーファスに味方する可能性が高かった。 ただ賄賂さえ渡せばすぐ立場を変える。 大きな商会とも繋がっていて票を集めるのには最適だ。

オズとの票争いならそれでかなり拮抗した勝負になるだろう。 ただそれよりも今は何故このような状況になったのかを考えていた。

家来は去って残されたブレイドは父の部屋に出たり入ったりを繰り返していた。 そこであることに気が付いた。


「・・・! あるじゃないか、異常なものがここに」


賊が侵入したにしてはあまりに荒れていなさ過ぎると思った。 だがどうもよく見ると絨毯には泥のようなものが付着している。


「何だろうな、この泥は・・・?」


屋敷内は土足で歩くため土が付いていてもおかしくはないが、中へ入る時に泥を落とさない者などいない。 触ってみると湿り気を感じた。


―――ここまで用意周到に計画しているというのに最後の最後で抜けているなんて・・・。


ブレイドにとってルーファスが脱落してくれるのは願ってもいない幸運だ。 だがそれが何故もたらされたのかが分からない。

庶民の地位を向上させるために誰かが介入したのかもしれないがどこか気持ちが悪い。


―――未だにルーファスとオズの成績が真逆だったなんてとても信じられない。

―――ルーファスの方が明らかにしっかりしていて優秀に見える。


泥を辿りながら部屋を出た。


―――泥を見れば侵入口からの経路が丸分かりだ。


賊は裏口から入りまるで屋敷内を知り尽くしているかのように監視装置をかい潜り最短ルートで目的地を目指していた。


―――・・・それでも内通者ではないことが俺には分かるな。


もし本当にブレイド家を知り尽くしているのならもっと簡単な侵入路があった。 父の部屋からは非常用の脱出口が用意されていて詳しい者であれば皆それを知っている。


―――つまり内部の人間ではなくウチの家の構造を知ることのできるような調査力のある人間。

―――やはりとても庶民の仕業とは思えない。

―――一番しっくりくるのはオズがやったということだが決定的な証拠はない。

―――・・・少しかまをかけてみるか。



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