自堕落貴族奮闘記④




王は今にも何かをしでかしそうな程の剣幕だったが、とりあえずは大人しく引き下がることにしたようだ。 王は今何が起きているかすら把握していないだろう。

オズとしても国王が出てくるのは想定していたため特に問題もない。


―――おそらく選挙は俺の勝ちになる。

―――だけど念のためもう少しだけ国民からの支持を得る必要があるのかもしれない。

―――俺たちの信頼度が落ちているのは確かだ。


票がそっくりそのまま移動すればオズの勝ちだが、不祥事は不祥事。 現状有利ではあるが鞍替えする人間も少なからず出てくるはずだ。 オズは対策のためにこの場から離れようとする。

すると納得のいっていない表情で立っているブレイドを発見した。


「・・・お前と俺の目的は同じなのか?」


“同じ”というのは平等な国を目指すということ。 ルーファスとオズの不仲は以前より周知されていて、当然ブレイドも理解している。

そしてオズが庶民であるロイと仲のいいことも隠しているわけではないため知れ渡っていた。 しかし恐る恐る尋ねてくるブレイドに対しあっけらかんと答えた。


「同じ? 同じなわけがないだろ。 アンタの言う平等というのは平等という名の不平等だ」

「な、何を・・・ッ!」


ブレイドはオズの言葉に憤慨し何か言おうとしていたがそれを無視し街へと出た。 そして庶民が暮らす地域へと赴いた。

結果が分かり切った選挙なんて興味もなく、オズとルーファスの立場が逆転したとも知らない彼らは貧しい生活を今でも送っている。

誰しもが選挙に現を抜かしているわけではなく、その日を暮らすことに全力な人たちが庶民には多くいる。 そこで一つの店を訪れた。


「なぁ、ここで作れる全ての料理をこの地域の人に分け与えてくれないか?」

「オズ様!? 全てですか!?」

「あぁ。 ちゃんと金は払う」

「しょ、承知しました! あ、ありがとうございます・・・!」


そう言うとしばらくした後に請求書を渡される。 オズが個人的に動かすには少し高過ぎる金額だ。


―――あー、どうしようか・・・。


迷った挙句請求先に現在王子であるルーファスの名を書いた。 これで後にルーファスへ請求がいく。 もちろん普段なら通るわけがないが今ならルーファスは黙って金を払うだろう。


―――まぁルーファスも俺もどっちでも一緒だろう。


「お待たせしました。 こちらが・・・」

「いえ、私たちは頼んでいないんですけど」

「あちらの方からです」


料理が完成し庶民に配られる。 困惑した庶民がオズを見る。 オズは笑顔で手を振ってみせた。


「俺はルーファスに代わって選挙でトップを狙う者だ。 よかったら俺を支持してくれ!」


そう言うと庶民は更に困惑した表情を見せた。 選挙期間中の金銭や物品の授受は禁止されている。 だからかと思ったが、どうもそうではないようだ。


「貴方はオズ家の方ですよね? 我々庶民を追い出そうとしているのにどうして・・・」

「確かにルーファスはそういう考えだった。 だけど俺は真逆で庶民の立場をよくしたいと思っている。 それだけさ」


それを聞き庶民たちは不安そうにも料理に手を付け始めた。


―――請求がルーファスへいくなら本質的には俺が配ったっていうことにはならないか・・・?

―――ただここで見ている人たちは俺からいいことをしてもらったと思ってくれるはずだ。


民衆の票の回収はこれくらいでいいかと、この場から離れようとしたところ見知った者が横切った。


「ロイ!」

「オズ・・・ッ!」


ロイはオズを発見すると走って近付いてきた。


「何だよ、演説には来なかったのか?」

「流石に怖くて行けないって・・・」


ロイはオズと一緒に裏工作に参加しているため当然ブレイド家の持ってきた情報が偽りだと知っている。 そのためか少し浮かない顔をしていた。


「ロイも混ざってこいよ、あの輪に」


そう言ってたくさんの料理を振る舞われている庶民を見る。


「え、あれ全てオズがやったの?」

「まぁな。 これでもう安泰だよ。 俺がトップになっても最悪ブレイドがトップになっても庶民が追い出されることはない」

「うん・・・。 そうだね」

「どうした?」

「いや、もし本当のことがバレたらどうしよう、って・・・」

「大丈夫だって、気にし過ぎだ。 もしバレて俺が捕まったりしたとしても大した罪にはならないだろうし、庶民はこの国に残れるんだ。 それより今まで何をしていたんだ?」


ロイには傍にいてほしかったのに朝から会えなかった。 庶民のために、そう言ってはいるがオズの真意はロイのためだ。


「ちょっと用事があってね。 それにさっきも言ったけど後ろめたい気持ちがあったからあまり表には出たくなかったんだ」

「本当に気にしなくてもいいのに」


話していると綺麗な衣装を纏った一人の女性が現れた。 話したことはないが彼女は貴族の中では位が高く有名な人物だった。


「あの、すみません・・・。 お近付きになってもよろしいですか?」


―――来た来た来た!

―――この時を今か今かと待ち望んでいたぞ!!


少し顔を赤らめていることからおそらく婚約を求めにやってきたのだろう。 オズの好みとは少し外れるがお嬢様といった容貌で美人だ。

タイプではないが連れて歩けば華がありそうなため愛人の一人にしてもいいだろうと思った。



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