第3話 ヴァンパイアハンター


グレイが向かった場所は、アッシュの屋敷とは違う荘厳な屋敷だ。到着すれば、グレイがやっとのことで私を解放してくれる。


ここは……どこであろうか……?しかしどこか見覚えのある気がするのだ。


……それはそうと。


「何故、助けて、くれるの……?」

まだ腰は引けているが、少しずつ、声は私の喉を伝い、こぼれ出る。


「……依頼だ」

依頼……?誰の……だろうか。しかし続いてグレイが私に差し出した手紙に書かれた文字を見て、ピタリと固まった。この、文字は……っ。


恐る恐る中身を開けば、その中は見覚えのある文字で綴られている。


どうか娘をヴァンパイアたちから助け出してほしい、と。


その、差出人は……。


「お父さま……」

手紙にはしっかりとお父さまの署名がしたためてある。そしてその手紙をグレイが持っていると言うことは。


「お父さまは……どうなったの……」

「……人間の国で……宰相が王により謀反の疑いをかけられた。そして現在は消息不明だ」

お父さまは、宰相だった。アイリーナの言うことなら何でも聞く、あの無能な国王に代わり、エメラルド王国を実質存続させていた、優秀な宰相。


「……何で……」

「宰相の立場を利用し、国王を脅して、本来は王女が嫁ぐはずだった縁談に自分の娘を行かせたと」

「国王の権力を使って脅したのは……っ、アイリーナの我が儘で私を嫁がせたのは、国王たちじゃない……っ!」

それなのに、お父さまにまで冤罪をかけた……?


お父さまがいなくなったら、エメラルド王国は終わるわよ!?


しかし同時にお父さまがいなくなれば、今まで我慢させられてきた国王と王妃……それからアイリーナも、好き勝手に金と権力を総動員して振る舞えるのだ。だからこそ、アイリーナの我が儘にかこつけてお父さまを謀反の罪で捕らえようとしたと言うの……?


「お父さまの、行方は」

「俺は知らない。ハンター協会からその手紙を受け取っただけだ。ハンター協会なら何か知っているかも知れないが、俺は単に依頼を遂行するだけだ」

つまりは知っていたとしてもそれはハンター協会だけ。

ハンター協会に属していながらも、グレイが知ることのできないような、上層部と言うことだ。


「そして王女がヴァンパイア公爵の妻となった。エメラルド王国は人間の国々の中でも確固たる地位を築いている」

「じゃぁ……私の結婚は……」

アイリーナがアッシュの妻となることで、築けた地位。なら私の結婚は何だったの……?


「娘を嫁がせて人質に出している間に、始末させるためだろうな」

つまり私は、祖国からも、お父さまが逆らえないようにと人質にされていた。


「許せない……っ!エメラルド王国も、王家も、アイリーナもアッシュも……!許せない……っ!」

散々利用した挙げ句、冤罪を吹っ掛けた。お父さまは今は行方不明。お父さまがハンター協会やグレイに依頼を託していなければ、私もアイリーナの醜悪な罠に嵌まっていたのだ。


「復讐したい……」

けど……どうやって。相手のトップは上位種の、公爵だ。


「どうすれば……いいの」

私はもう、手詰まりだ。


目の前の男に、ただでせがむだなんて、そんな図太い精神など持ち合わせてもいない。


「……お前の父親からは多めに報酬をもらっている」

「……え?」


「助け出した後の、世話代め込めてな」

お父さまは、そこまで考えていた。助け出してもらっても、その後は……誰かの手を借りねばどう生きていく。とは言え、ヴァンパイア公爵に抗うなら、唯一の希望はハンター協会だけだ。

お父さまはそれを見越して、グレイに私を預けるつもりだった……?


「その金で、お膳立てをしてやってもいい」

復讐のって……ことよね。

そしてそれを呑むのならば、グレイは私の世話を放棄する。しかし……このままグレイを頼ったとしても、アッシュたちの凶刃がハンター協会に向くだけだ。たとえエメラルド王国が崩壊まで待ったなしであったとしても、アッシュは違う。

世界の上位種のトップに程近い高貴な吸血鬼としての絶大なる力を持つ。


「でも……どうやって……?相手はヴァンパイア公爵よ?」

「かまわない。あれにはかなわない」

それって……どういうことかしら。


「立てるか」

「……な……何とか」

時間が経ったからか、グレイと話したからか。父の消息は掴めないものの、何とか脚を伸ばし、立ち上がる。



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