第19話 7月22日月曜日【ディアファン】

ごめん、ちょっと間が空いちゃった。

 少し忙しくしていたんだ。

 あちこち呼ばれて行かなくちゃいけなくて、久しぶりに飛行機に乗ったり電車に乗ったりしたけれど、行くたびに東京は景色が変わっているね。


 千葉へはいつ頃行くの?

 ボクはどうやらとても忙しい夏になりそうなんだよね、不本意ながら。

 というのも、例の件がどうも断りにくい状況になっているんだ。


 というのも、今の日本で透明人間と登録して認定されているのは47人なんだけれど、これは本当にごく一部の人たちなのです。

 ほとんどの透明人間は(ボクも含めて)登録していないんだ。

 なぜしないのかって思うでしょ? 逆になぜしなくてはいけないの?


 でも保護区への移住はかなり強制的だったんだよね。

 登録していない者たちも全てが移り住まなくてはいけなかったんだ。


 現在使われていない「廃墟」や、持ち主が分からなくなっている「家屋及び土地」は国に接収されるという法律ができたの知ってる? 

 どうやら遠まわしではあるけれど、ボクたちの棲み処を無くしていく意向らしい。


 まあ、集団生活は慣れたものだし、そのビレッジの中の五世帯が登録していれば、そのヴィレッジは認定するということで、代表家族が登録しているんだよね。

 ボクのところもそうだし、千葉も北海道もそう。

 近々に九州にもできるらしいよ。


 九州にできれば全国で四か所、登録されているのは47人だから、平均で言うと12人。

 条件はご家族だから、子供のいる世帯がひとつと、夫婦だけっていうのが四世帯っていう感じかな。

 うちのヴィレッジもそうだよ。


 だから子供の数は極端に少ないということになるよね、帳簿上だけど。

 登録されている子供は全国で7人で、北海道と千葉と島根が各2人で、九州だけ1人。

 九州の子はまだ生まれたばかりで、就学児童ではないから今回は対象外になっているんだ。


 でも本当はこの10倍以上の透明な子は存在していて、いろいろな事情で登録することになった子達だけが学校に行くことになるってこと。


 実は政府側もこの状況は把握しているんだ。

 でも公表しないということに同意している。

 それはあまりにも人数が多いと、不透明人間側に動揺が起きるからということらしい。


 まあ特に不都合はないよね。

 ボクたちは食料を必要としているわけでは無いし、仕事をしなくてはいけないということもない。

 言い換えれば納税義務も無いってことだし、選挙権も無いってこと。


 ボクたちに必要なのは、きれいな空気と澄んだ水だけだから、特別に保護してもらわないと生きられないわけじゃない。

 はっきり言って、不透明人間の社会に適合する必要は全くないんだ。


 でもこれは「生きて子孫を残す」という生き物本来の「生きる理由」だけを考えた場合だよね。

 ボクたちにも知識欲はあるし、探求心も冒険心もある。

 得た知識や経験は後世に残したいっていう欲もあるんだ。

 それを満たすためには歩き回るし、勉強もするでしょ? そうなると不透明人間の社会へ出掛けて行く必要がでてくるんだよね。


 その欲のままに出歩くということを長年続けているうちに、いつの間にか体が汚染されてしまったんだろう。

 子供ができにくいという状況に陥っているんだよね……まったく本末転倒も甚だしいよ。


 また脱線してしまいました(笑)


 で、なぜボクが忙しくなったかというお話だけど、登録された子供たちを守るために「大人も小学校に駐在する」必要があると判断されたからなんだ。


 日本国に登録されている透明人間の数は47人だって言ったよね。

 で、子供がいる家族はひとつだけだって。

 あとは夫婦だけの家族なんだけれど、実はそのほとんどがかなりの高齢者が選ばれている。


 新たな登録者がいなければ、徐々に減っていくわけだけれど、実はこれはわざとやったことなんだ。

 だれを登録するかはそれぞれのヴィレッジに任せられていたのだけれど、どこも同じ答えを出してきたということは、ほぼ総意ってことだよね。


 でも、平均寿命を越しているような状態の人に「子供を守れ」とは言えないでしょ?

 だから誰かが代理で出るしかないんだ。

 そして選ばれちゃったのがボクってことなんだよね……ホント迷惑。


 うちのビレッジからは、ボクともう一人出ることになっているんだ。

 ボクと同じ年で、名前は「ランプシィー」って言うんだよ。

 これは「光り輝く子」という意味で、ボクたちの中ではかなりポピュラーな名前だ。

 

 このランプシィーが「ディアファンがやるならやる」なんて言っちゃったもんだから、断りにくい状況になっているんだよね。

 でも「先生」ではなく「巡回員」ってことになりそうだから、少しは良いかなって思っているんだ。


 教師になるように言ってきたのはあちらなのに、どうやらPTA連合っていうの? そういう団体から物凄い反対が起こったらしい。

 だから「校内で歩き回るのが仕事の巡回員」に落ち着いたんだってさ。


 どうやら北海道も同時にスタートするらしくて、千葉と北海道と島根が足並みをそろえるという話になっているみたい。

 スタートは9月というのは決まっているらしくて、この8月はほとんど島根にはいないかもしれないんだよね。


 だから今回の日記で暫くの間はお休みってことになっちゃいます。

 とても残念だけれど、子供を守るためだと言われたら仕方がないんだ。


 この日記は当分はるかちゃんが保管しておいてくれる? 

 もしボクが戻ってきて、また交換日記が続けられるようになったら、あの百葉箱の扉にハンカチを結んでおきます。


 再開しても良いって思ってくれるなら、そのハンカチを目印にして下さい。


 はるかちゃんも夏を楽しんでね。

 また話せる日を心から楽しみに待っています。


 ああそうだ! 質問に答えなくちゃね。


 ボクたち透明人間も血は出ます。

 失血死も普通にしますし、打ち身や捻挫もするんです。

 ただ、ボクらの血は見えないから、きっと誰にも気付かれない。

 血が透明ってことは鬱血しても見えないってことだから、青痣とかは無いんじゃないかな。

 自分でも見えないから分からないんだけれど。

 専門の医療機関は無いけれど、大人たちは大体の医療知識を持っているから、今まで問題が起きたことは無いよ。

 


 ではまたね。

 健康には気を付けて下さい。

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