第四十三話『レベル、スキル、日記』

「ねぇねぇルシアちゃん、今何レベ?」


「何いきなり?レベルね…覚えてないや」


 この謎花畑に来てから鑑定含めたスキルがほぼ全部使えなくなったんだよね。『命の光』は使えるけど。もうよく分かんないや、この空間。


 あと、置いてあるテーブルとティーポットが何か変。テーブルに座ってお茶を一口飲むと思い浮かべたお菓子が勝手に出てくる。サイコー!

 初めてこの謎効果使った時に大量にチーズケーキを召喚してしまってかなり怒られた。今ではテーブルの横にケーキが積んである。


「そうかそうか…ここいらで少し、ルシアちゃんに教えておきたいことがあってね」


「教えておきたいこと?色々とめちゃくちゃ知りたいんだけど何のこと?」


 テーブルに置いてあるチーズケーキの包装をめくって一口含む。これこれ!長話には甘味が無いとね!

 もちろん謎効果で出したヤツ。


「ルシアちゃんってさぁ…『日記』って知ってる?」


「日記って…あの、毎日の出来事を記録する本のこと?」


「うーん…そうなんだけど、そうじゃない。私が言いたいのは別の『日記』のことさ」


 別の日記?日記は日記でしょうよ。他にどんなのがあるって言うんだ?




「私が言いたい日記も広義的には同じことだよ。一日一日、あったことを事細かに記録する…ただひとつ違うのは、その『日記』がこの世で起こったこと全てを記録し続けているということだ」


「え、全部?」


「そう、全部さ。とある王様の朝食から、農民の夜ご飯まで。龍の誕生から、鼠の死まで…」


 全部記録されてるんだ…監視されてるのと同じじゃん!誰だよそんなことやってんの…絶対めんどくさい。


「あはは!そうだよね、絶対めんどくさいと思うよ。まあ、『日記』の書き手がヤバいやつだってのは分かってもらえたとおもうけど、この世界の大体のルールも『日記』が決定してるんだ」


「待って、今ナチュラルに思考読んだよね?」


「そこで最初の話に戻るよ?『日記』の最初のページには、この世界の法則の全てが書き記されている。例えば…

 一つ、【時に触れることなかれ】。

 一つ、【言葉を分つことなかれ】。

 一つ、【誓いを破ることなかれ】…

 とかね!その中の一つがレベルとスキルだよ。ほら、常識的に考えて生きる上で特殊なチカラとか生き物を殺すことで強くなる仕組みとか必要だと思う?少なくとも私はそうは思わない」


 …確かに。初めて『鑑定』を知った時は「便利だなー」程度にしか考えてなかったけど、個人の情報が文字になって見えるのってすごい気持ち悪いな。

 『名前』、『種族』、『出来ること』、『身分』の可視化。そういう法則で後付けされたお遊び…一体『日記』って何なんだ?




「あれ?でもここってスキル使えないよね。世界全体にその法則が適用されるならなんで殆ど全部のスキルが使えなくなってんの?」




 …花畑のざわめきがぴたりと止む。

 あ、これ触れちゃダメなやつだった?


「それは全然関係ないね」


「ないのかよ!思わせぶりだなぁ!」


「いやいや、ルシアちゃん今封印されてんじゃん!スキルとか使えないならそれのせいでしょ。知らんけど」


 あ、オリヴィエも知らないんだ…まあいいや。『命の光』があればいいしー。


 あ、そうそう。『命の光』と言えばだけど、ここに来てからは主に命の光の特訓に励んできた。

 わたしの『命の光』に出来ることは主に生き物の特性の吸収と変身。普通の動物とかだけなら悪くない程度だけど、多彩な生態を持った零獣の特性を出力すれば色々なことが出来る。

 ただ…よくよく考えてみれば強い特性を手に入れる為にはまず自分が強くならないといけないし、さらに強い特性の為には手数を活かして頑張らないといけないワケだ…


 強いけど、欠陥もある!これ一本でやってけはするけどやっぱりメインは手数だね。手札を隠しておけるのもメリットかな。


 特訓の話に戻るけど、その内容は「オリヴィエから一本取ること」。今の所無理難題感がすごい。

 だって攻撃当たらねーんだもん。わたしが使ってた『透過』とかいうレベルじゃない。アレは発動できる時間と透過できる部位がかなり限定的なんだよね。


 いやー…無理っぽいかな!なんで当たらないのか分からないとまず無理。


 うーん、なんでだろー…なんでだろー…?透過、透過ねぇ…あ!


 透過といえば前にレイヴンを鑑定した時に『万物透過』とかいうヤツがあったな。字面からして透過の完全上位互換っぽい。

 オリヴィエがそれを使ってるってのは……流石に無いか?あれ、権能の中に入ってたし特別なスキルかもしれない。


 はぁ、疲れた…頭使うのそんなに得意じゃないんだよ…チーズケーキ食べよ。




「さて、休憩もここらで終わりにするか。ルシアちゃん、再開しよう」


 椅子を軽く後ろに引き、オリヴィエが立ち上がる。

 チーズケーキの後味、控えめな酸味を消し去るようにフルーツティーを口に含み、オリヴィエに続いて立ち上がる。くしゃりと足元の花々が潰れる音。


「ここは相変わらず天気が良いね」


「でしょでしょ〜。曇り空は嫌いだからね」


 太陽は無いけど明るく照らされている不思議。また今度教えてもらおうかな?

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No title 〜元奴隷少女の殺戮日記〜 浅葱 @Natyou_Meizinn

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