異世界研究部と一緒なら異世界だって怖くないよね!?

@smk_

第1話「俺、勇者の生まれ変わりっす。あと切れ痔っす」

春、それは出逢いの季節。俺はこれからこの高校生活でどんな出逢いをするのだろうか。期待に胸を膨らませていた俺だったが高校生活が始まって2週間、まだこのクラスの人間とまともな会話をしていない。


実を言うと高校デビューに失敗したのだ。特に何の取り柄も特徴もない俺が最初の自己紹介で一発ギャグを噛ましクラスの人気者になろうという算段だったのだが見事に滑り散らかし人気者ではなく腫れ物になってしまった。やー参った参った。


「お前どんな部活入る~」


「あんまりガッツリしたのは嫌じゃね、やっぱ高校生は遊んでなんぼでしょ!」


そんな声のでかい奴らの話を聴きながら帰る準備をしていた。


遊びかぁ……。友達、彼女、現在崖っぷちの俺にも青春が訪れるのだろうか。そんなことを考えながら制服を着たクラスの派手めの女の子達を眺めていた。


「……あの……あの!」


後ろから急に服の裾を小さな手で掴まれ話しかけられた。それも女子に。前髪が長い子で目がよく見えない。


「もしかして俺に何かご用でござんすか?」


人と話すのが久し振りすぎて変な口調になってしまった。こんな子このクラスに居たかな。自分の自己紹介いや事故紹介で頭が真っ白になりクラスメイトの顔と名前が未だに分からずにいた。


「……この後、時間……ありますか?」


「あ、あります!あり余ってます!どれくらい余ってるかと言うと、親戚に貰った羊羮くらい余ってます」


俺は久し振りの女子との会話に胸を踊らせ必死に答えた。


「……めうが羊羮好きなのでうちでは余りません。苦めのお茶と一緒に食べると美味しいですよ。……付いてきて下さい」


これは俺に春がやって来たと言うことなのか。あの自己紹介の一発ギャグの面白さを分かってくれる人も居たのかと喜びながら彼女の少し丸めた背中の後ろに連れ従った。めうちゃんか~、小ぢんまりしていて可愛いな。黒髪にツインテール、そしてカーディガンに萌え袖。恥ずかしがり屋そうなのに勇気を出して俺に話し掛けてくれたことがなにより嬉しかった。舞い上がっていた。だから何の疑いもせず彼女に付いていってしまった。それが全ての災難の始まりだったのだ。


文化部の部室がある廊下で彼女は扉を開けた。


「……入って下さい」


「お……おう。もしかしてハニートラップだったりしてw」


教室の中には誰もいなかった。俺は冗談でそんなことを口にした。でも本当に告白だったら彼女に失礼だったかもしれない。自分の軽すぎる口を公開した。振り返ると彼女が肩を震わせていた。


「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ!」


「……失敗したのかと思っちゃいました……」


その時、天井と壁の間に張り付いていた何かが降ってきた。


「せやな!ハニートラップやでー!」


目の前が真っ暗になった。何かを被せられ手を後ろで縛られた。


「なにしやがる!うぐっ」


口にタオルのようなものを押し込められ呼吸するのがやっとになってしまった。くそ、なんだこれなんだこれ。俺は騙されたのか。苦しい、悔しい。


「参謀のワタシの作戦が失敗するわけ無いスチャ」


「ぷは~!学校で飲む酒サイコ~。あんたらは駄目よ~未成年は飲んじゃいけませ~ん」


「メガネの作戦やない!うちが考えたんやからな。手柄横取りしようとすなよ!」


「……ブチョーに言われた通りにクラスで一番必要無さそうな人間を選びましたけどこれからどうするんですか……?」


周りで女の人の声が飛び交う。今、凄くひどいことを言われた気がする。俺は一体どうなるんだろう。自分の心臓の音が大きく聞こえた。


「でかしたでウラアカ!よーし、生け贄共の準備できたで。あとはこの魔方陣の中心に置いてっと。さあ異世界の扉を開くで!」


「ククク、遂にこの時が来ましたか。異世界研究部の利害一致の日スチャ!」


「……それを言うなら悲願達成だと思います……あと語尾気持ち悪いです……」


「眠たくなってきたわ~……ぐう……ぐう……」


「ワンッ!」


犬まで居るらしい。あと俺生け贄って言われた?思ったよりヤバい集団みたいだ。


「この後どうすんの?」


「ククク、全く解らないスチャ」


「……めうもわかんない……」


「ぐごー……ぐごー……」


「ワオンッ!」


「うわ、なんや適当に書いた魔方陣が光出したで!」


不穏な関西弁の台詞のあと真っ暗な視界のまま、少しの浮遊感があった。そして地面に叩きつけられ呻き声が漏れた。


「よく来てくれた、勇者の力を持ちし異世界の者達よ!」


異世界?何を言ってるんだこのおっさんボイスは。


「やっべー!本当に来ちまったよ異世界!」


「ククク、計算通りスチャ」


「……どうしよう、めう本当に異世界に来ちゃった……」


「ぐごご……ぐごご~…」


「ワンッ!」


「おや、そちらの方は大丈夫ですか?」


「ああ、忘れてた。異世界来れたから生け贄は用済みだし外してやっか!」


そういうと俺の目隠しと手の拘束が外された。


「おいぃ!異世界?ふざけるなよ!皆で俺を騙そうったってそうはいかないぞ!」


明るさに目が慣れなくて周りがよく見えない。


「ふむ、そちらの御仁は大分混乱しているようだな」


いかにもここはアニメで見るような王宮でいかにもな国王が目の前に居た。周りに並ぶ兵士達もいかにもな感じだ。


「あー、えっとどういう状況?」


「うちら異世界研究部が遂に異世界に辿り着いたんや!苦節18年長かったで~!」


「ククク、愚かな生け贄。天才のワタシが教えてやろう。ワタシも良く解らないということおスチャ」


「全然分からないですよ!つーかあんた達誰なんですか?」


同じ制服を着ているがこの人たちを知らない。


「うちら3人は異世界研究部の部員や。うちは皆にブチョーって呼ばれてる。で、このメガネかけてんのがバカメガネで陰キャっぽいのがウラアカや。よろしくなイケニエ!」


関西弁。元気が取り柄で貧乳で4月なのにタンクトップに短パン。メスガキ大将って感じだ。髪は少し明るくて茶髪に近く、後ろで括っている。


「ククク、ワタシはメガネ。それ以上でもそれ以下でもないスチャ」


メガネをかけ白衣を着ている。ストレートの長い黒髪。ノートパソコンで何かをカタカタ打ち込んでいる。が意味は無さそう。


「……めうはその……イケニエと同じクラスで……異世界研究部、イセケンではウラアカって呼ばれてます」


同じクラスだったのか。相変わらず前髪で目が見えない。少し影がありそうだがこの3人の中だと一番まともそうだ。


「そこのジャージの酒瓶抱いて寝てんのがセンセーや。うちの部の顧問や」


「ぐう……」


いかにも駄目そうな髪がボサボサの黒髪ポニーテールの女教師が寝ている。


「その犬は生け贄に良さそうやなと思って拾ってきた野良犬、イッヌや」


「ワンッ!」


秋田犬っぽい茶色の犬が返事をした。ブチョーとメガネより賢そう。


「ワシはこのドウショ王国の国王ドウショ16世だ。コクオーと呼んでくれ」


あんたも自己紹介してくれんだ。


「アタクシはその娘のオージョですわ」


国王の横に居た金髪のお姫様っぽい人だ。少し性格はキツそうだが可愛い。


「自分はこの国の兵士Aでございます」「自分は兵士Bで…」「自分は兵士C」……


兵士Zまで自己紹介が続いた。まあ大体理解した。するとオウジョが国王の横から俺たちの前に来た。


「これからこのオージョが貴方達の職業を見ますの感謝なさい」


「キター!やっぱ異世界って言えばこれやんな!こういうのを待ってたんよ」


「ククク、月の満ち欠けかスチャ」


「……メガネ先輩が言いたいの、時は満ちたかだと思います……」


それもそれであってるのか分からないけどね!だが俺は別に異世界研究部でもないし早く自分の世界に帰りたかった。


「あの……俺は元の世界に戻りたいんですけど駄目っすかね」


見たところまだ後ろにゲートみたいなのあるしその中に教室が見えるのだ。


「なんやイケニエ、どうせしょうもない職業なのが怖いんか?」


「……イケニエは勇者の生まれ変わりらしいですしwww……活躍出来ますよwww……」


おい、ウラアカ。俺の事故紹介覚えてるんじゃねーか。しかも滅茶苦茶バカにしてくるじゃん。異世界研究部の中だと一番まともだと思ってたのに。オージョが顔の前に丸を作ってブチョーを見つめる。


「貴女の職業は……シスター(修道女)ですわ」


「なんやそれ強いんか?」


「回復魔法に優れてますわ」


「どう考えてもちゃうやん、うちのタイプと合ってないやん」


「……ブチョーが修道女www……」


ウラアカがクスクス笑って馬鹿にしている。確かにシスターっていう感じでは無いな。


「笑っている貴女は……武道家ですわ」


「……無理です無理です向いてないです絶対後衛が良いですブチョー変わってくださいよ、ブチョーぴったりな職業来ましたよ……!」


凄い勢いで捲し立てる。俺を馬鹿にした罰だ。良い気味だ。


「オージョ~チェンジとか出来へんの?」


「無理ですわ。職業は生まれもって決まっていますの」


この世界にジョブチェンジはないらしい。


「えー、メガネの貴女は……博士ですわ」


「ククク、これが世界の選択スチャ」


見た目だけはとても合っているが……。


「このバカメガネに博士なんて出来るわけ無いやろ」


俺は気づいていた。そう、この人凄くバカなのである。カタカタカタカタやってるのも本当に意味のない羅列を叩いてるだけ。そもそもパソコンの電源付いてないし。語尾のスチャでメガネを掛け直すのも意味が分からない。


「そこで寝ている貴女は……体育教師ですわ」


「なんだよ体育教師ってそれ現職じゃないかーい」


俺は思わずつっこんでしまったが笑いが生まれず微妙な空気になってしまった。


「お、おう……なんやイケニエ自分そういうタイプなんか」


「あ、はい……でしゃばってすみません」


恥ずかしくなってしまったが次は自分の番だ。最大限の決め顔で待つ。ここまで勇者がいないということはつまりそういうことだろう。王宮の期待の目線が熱い。勇者の生まれ変わりという自己紹介は間違っていなかったのだ。世界が違っただけなのだ。オージョが俺の前に立ちじぃっと丸越しに見つめる。


「貴方は……お笑い芸人(滑り芸系)ですわ」


は?ナニソレ。シンジラレナーイ。


「えーっと、チェンジで」


「うはは!滑り芸人ってうはは!駄目や、笑いが止まらん。イケニエ自分おもろいやんw」


俺が呆け、ブチョーが笑い転げているとコクオーが椅子から転げ落ちた。


「どういうことじゃ……ワシらは勇者の召喚に失敗したということか。召喚には100年も魔力を集めたというのに……このままでは復活する魔王との戦いはどうすれば良いのじゃ……」


そうだ、俺たちの中に職業勇者の者は居なかった。


「まあおっさん気にすんなや!」


「……もしかしたらめう達が書いた魔方陣のせいかも……」


「そうか、ワシらの魔方陣とコンフリクトをおこし、間違って召喚されたみたいじゃな……。お主ら帰りたいと言っておったな、もとの世界へ帰って良いぞ……」


「うちら異世界研究部やで、ここまで来て帰るわけ無いやろ!」


「ククク、当然の結末スチャ」


「……先輩、それを言うなら結論だと思います。めうも異世界に居たいです……」


イセケンの面々は異世界に残りたいという。


「俺は……元の世界に帰りたい」


俺はゲートに向かって歩きだした。


「そうか、しかしゲートは誰かが通ると魔力を消費し閉じてしまう。他の者達は帰れなくなってしまうがそれでも良いか?」


俺は少し躊躇った。後ろを振り向き異世界に残されるこいつらのことを考えたからだ。でもこいつらはそもそも異世界に行きたかった奴らだし俺は無理やり生け贄として連れてこらてただけだし別にいっか!


「ワンッ!」


「まあ可愛らしいイッヌですわ!オージョこのノライヌ欲しいですわ!速いですわ!それ行けー!」


「ワオーン!」


オージョがイッヌに乗って地球と繋がるゲートへ吸い込まれていった。そして俺の目の前でゲートは閉じた。あの、こういう場合ってどうすれば良いですかね。イセケンのメンバーが寄ってきて肩を叩かれた。


「イケニエ、細かいこと気にすんなや!一緒に異世界を冒険しようぜ!」


「ククク、当然なことスチャ」


「……先輩、それを言うなら些末なことだしブチョーと内容被ってます……」


「ぐごー……ぐごー……」


「ワシの娘がぁあああ!オージョぉおおお!」


あの、生け贄として異世界に無理やり連れて来られて帰れなくなったんですけどここから入れる保険ってありますか?


「……これから宜しくお願いしますねイケニエ……いや、勇者の生まれ変わりの切れ痔さんwww」


覗き込んできたウラアカの前髪の下から見えた目はムカつく顔をしていた。やっぱこいつが一番性格悪いわ。



「ここがあの者達の世界ですのね!イッヌ。魔法は使えるのかしら……あら?」


オージョが職業チェックで確かめるとイッヌの顔に勇者と書いてあった。


「ワオーーーン!!」



To be continued…


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