Day.5どこか、こいつのいない場所に
隣の席でコウこと一ノ瀬孝二が起きてるんだか寝てるんだかわからない顔で授業を受けていた。
「トッキー、ノート取ってる?」
ふとコウが顔をこちらに向ける。
「一応」
「やった。もう限界。おやすみ」
コウはふにゃりと笑ったかと思うと突っ伏して、あっという間に寝息を立て始めた。
そういう無防備な顔しないでほしい。好きだから。
そういえば、初めてコウを好きだと思ったのも、さっきみたいなふにゃッとした笑顔を見たときだった。
オレとコウは幼馴染で幼稚園どころか母親曰く産院まで一緒だそうだ。
とはいえ、生まれた病院のことまで覚えているわけはなく、コウのことで最初に思い出すのは近所の公園で枝の取り合いをしたことだ。
ほんとなんてことのない、けど幼児が拾って持つには手頃な枝をコウと取り合った。
最終的にどうなったかなんて覚えてないし、どんな枝だったかも思い出す度に変わるので、多分いつものことだったのだろう。
幼稚園は一緒だったけど小学校は違った。
子供の多い地域だったから学区が複雑で道一本挟んで違う学区というのもよくあることだったし、小学校の数が多かったから越境入学も多くて同じマンションでも違う小学校なんてこともままある地域だった。
けど家は近いから公園で遊ぶのとかスイミングスクールなんかは一緒だったし、夏休みに二人で宿題をやった覚えもある。
中学校は一緒で、二人でくっちゃべりながら毎日通っていた。
コウのことを意識したのはたぶん中学校に入ってすぐのことだ。
学校について靴を履き替えようとしたらコウの靴入れに手紙が入っていたのだ。
ラブレターか!? って周りの友達と盛り上がったときにコウがふにゃっと笑ったのだ。
「うわー、マジかー」
そんなことを言って笑うコウに信じられないくらい心臓が痛くなったのだ。
(なんだこれ、病気? オレ死ぬの?)
けどその手紙がコウが落としたものを誰かが拾ってくれただけだと判明して、痛みはすぐに消えた。
(なんだったんだ?)
その時はわからなかったけど、それがコウの笑顔に落とされた瞬間だった。
なんだか動物園とか水族館とかの触れられない美しいものを見たような気がしたのだ。
それは今でもそうで、コウのふにゃっとした笑顔を見るたびに、アクアリウムとハーバリウムとか、そういうものを思い出す。
手を突っ込んだら、きっとダメになっちゃうのだ。
そんで、なんやかんや高校大学と一緒に通い続けてついにコウは彼女を作った。
それならそれでいっそ諦めがつくかなって思ったのに、その彼女の初からいらんことを聞かされてしまいオレは未だにコウへの未練が立ちきれずにいる。
(なあ、コウ。お前の彼女、お前とはやれないってさ。なんなら誰ともやれないって。そんな女と付き合うのなんか辞めて、オレと付き合ってくれよ)
そう言えれば苦労はしないんですけどね!!!!
そろそろ授業も終わりそうで、教室内がざわついてきた。
先生も察して話をまとめにかかっている。
コウももそもそしているから、ぼちぼち起きるだろう。
ふと、遠くに行きたいと思った。
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