第21話 面白いパーティー

 



 太陽が燦々と照らす浜辺に来た。



 王都の東門から出て、魔物が殆どいない草原をしばらく進んだ先にある長い海辺。



 すぐ目の前に海があるが、水に入って少しした所で不可視の壁に当たるので、海で泳ぐ事は出来ない。



 ただし、海辺は今までの草原とは全く異なる素材が手に入った。


 具体的には、貝殻や昆布等の海藻である。

 他にも、食材の貝がいくつか手に入った。



 タクは双剣使いと呼ばれているらしい、事実、タクは二本の鉄剣を背負っている。


 戦闘は普通の敵には一本で対抗し、複数の敵に囲まれた時等の手数が必要な時は二本で戦うらしい。タクの技量なら可能だろう。



 浜に出る魔物はアーマークラブとビックシザーの二種である。


 アーマークラブは大きなヤドカリでビックシザーは大きなカニだ、両者ともに固い甲殻を持ち、並みの攻撃では大してダメージにならない。



 アーマークラブは物理的な攻撃力は低いが、防御力は非常に高く、酸属性の魔力が込められた液体、酸弾を飛ばしてくる。

 その上、隙を見せれば飛び跳ねて一気に逃げる。


 ビックシザーはアーマークラブに比べて防御力は低いが、大きなハサミに斬属性の魔力を纏わせる事が可能で、挟まれれば洒落しゃれにならない。

 他にも、口から出す泡には僅かに酸属性が含まれている。

 それに加えて横移動のスピードが速いので、逃げ足も早い。逆に襲いかかってくるスピードも速い。



 浜辺は全体的に狩りに向かないので、プレイヤーの数も少ない。一万人のプレイヤーの殆どが狩りをしやすい南の草原にいる訳だ。



 基本的に僕達の狙いはビックシザー。アーマークラブは襲って来ないので放置しておく。


 タクとセンリは動くカニの関節を狙い、手足を切り落として仕留めている。


 貴公子さん事セイトと、キリッとさん事マガネは、盾持ちのマガネがカニを抑えつけセイトが関節から切り落として仕留めている。


 他にも、魔法使いさん事マヤの火魔法とユウミの水魔法で攻撃したが、水魔法では甲殻に軽い傷をつけるだけ、火魔法では甲殻が少し脆くなる、とあまり良い戦果はなかった。


 傷を負うのはマガネさんが主で、次がセイト、タクとセンリは回避が基本なので中々傷を負わない。



 これには諦め悪くも態度が素っ気なく、草原に入る前に、あんまり怪我されるとぉ〜、回復しませんからねぇ〜。と言っていた僧侶さん事クリアは顔色が悪く。見ていて面白かった。



 ちなみにマヤは。ユキ達はやると最初から思っていた。と誤魔化し始め。ジーっと顔を見ていると俯いて、……ごめんなさい。と言ったので、可愛いかった。素直なのもそうじゃないのも良いね。



 それを呆れた表情で見ていたマガネは、タクとセンリと僕の動き方をつぶさに観察して少しずつ動きが良くなってきている。

 セイトもそれに習って多少立ち回りが良くなって来ている。


 全体的に面白いパーティーだった。タクがセイトを苦手としていた理由は、おそらくタクの性格的にクリアと反りが合わないからだろう。


 僕としてはクリアの進んで墓穴を掘る姿勢が気に入ったのだけれど、タクとセンリは少し苦手そうで、基本的に優しいユウミは特に気にしていない様だ。



 そうこう狩りを進めていると、僕はある事に気付いた。



 浜は北に岩場があるがそこは不可視の壁があって入れない、しかし、岩場近くの浜には幾らか大きな岩が転がっている。


 その中の1つに他の岩より一際大きな、僕の身長より頭1つ分小さい岩がある。


 僕が気付いた事とは即ち、あの岩、今ちょっと動いた? という事だ。


 動いたと言っても少し揺れたくらい、普通の人なら気にもしない程度の事。

 僕が気付いた理由は、その岩の上にいたカモメを凝視していたからに過ぎない。



ワイルドガル LV2



 鳥肉、とは思っていない。


 とは言え、その僕の鳥肉が、岩が微かに揺れた所為で飛び去ってしまったのだ。これには流石の僕も違和感を感じ鑑定してみた。



ロックアーマークラブ LV12



 その結果分かった事は、その大岩が魔物であるという事。



「ねぇ、タク、あれ」

「ん? 岩がどうした?……!?」



 タクを突っついて岩を指差す、勿論鑑定を持っているタクなら気付くだろう。



「ねぇ、センリ、あれ」

「うん? ただの岩の様に見えるけど……!?」

「ねぇ、ユウミ、あれ」

「うん、もう見たかな……」



 ユウミはもう見たらしい、残念。



「ユキさん、タク君、どうしたんだい?」

「あの岩に何か?」



 岩に剣を向け此方へ問うてくるセイトとマガネの二人。中々察しが良いと思う。



「ああ、あれ魔物らしいぜ」



 二人に答えたのはタク、勿論タクも剣を構えている。僕は軽いハンドサインでユウミに攻撃を命じる。



「あの岩が……魔物?」

「随分と大きいが……それは本当なのか?」



 気を引き締めた様子で、両手で剣を握るセイトと盾を構えて一番前に出たマガネ。


 ユウミが詠唱を始めるのと同調して岩に杖を向けて詠唱を始めたマヤ。三人とも優秀だ。


 それに対してクリアはどうだろう、いぶかしげな表情を浮かべ一応とばかりに錫杖を構えている。



 間も無く詠唱の終わったユウミの下級魔法『ウォーター』とマヤの『ファイア』が岩に着弾した。


 この攻撃、水と炎が飛んで行ってぶつかっただけに見えるが、しっかりと属性魔力が相手にダメージを与えているのだ。

 これがただの物理なら100回当てても倒せないだろう。



 攻撃が着弾し、全員が気を引き締めていると言うのに、クリアは何も起きないじゃないか。とでも言うかの様に声を出そうとし。


 砂を飛ばして立ち上がったそれを見てギョッとした表情を浮かべた。素敵なリアクションである。



 そして勿論——



 ——この場所にしては明らかな異物である大きな魔物、ロックアーマークラブとの戦いが始まった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る