第6話
ルイーゼが寝入って程なくして村の警鐘が静かな民家に鳴り響いた。村長宅に訪れたドタバタと慌ただしい足音と全てを聞き取れなかったけれど緊迫感のある声が扉越しにでも伝わってくる。
「どうしたの?」
流石にこの騒動でルイーゼは眠たい目をこすりながら目を覚ました。
『多分、敵襲だと思う』
十中八九昼に僕らの後からきた
「昼間の不死者がきたのかな……」
『そうだと思う』
ルイーゼの瞳は涙で潤み、僕の手も小さく震えている。なにか言わなければいけないのに僕もルイーゼも言葉が出なかった。
不意に扉が開かれ僕らを村に招いてくれた中年の門番が姿を現すと僕らに頭を下げ嘆願してきた。
「嬢ちゃん、鎧の兄ちゃん。頼む一緒に戦ってくれ」
僕もルイーゼも薄っすらと分かっていた。襲撃してきたのは不死者。聖職者であるルイーゼは勿論、その従者と思われている僕も戦えると思われている。
でも、僕もルイーゼも戦場が怖くて逃げ出してきた身。ルイーゼは訓練をしてきたかもしれないけど僕は武器など一度も握ったこともない。
戦えない
言おうとして、心が咎め言葉にはならなかった。見ず知らずの僕らにも親切にしてくれた人達を見捨てるなんて出来ない。
怖い
どうしようもなく怖い。でも、見捨てることもできない。震える指先を握って抑え込む。
「分かりました。行きます」
先に覚悟を決めたのはルイーゼだった。門番の顔に安堵が浮かぶ。
「ありがとう嬢ちゃん。俺等は門で待機してるから準備が整ったらきてくれ」
そう言うと足早に門番は去っていった。
二人きりになり再度僕はルイーゼに尋ねた。
『大丈夫なの?』
僕の問いの答えは彼女の頬を伝う大粒の涙。
「全然大丈夫じゃない。怖い。すっごく怖い。でも、見ないふりなんか出来ない」
それには僕も同意だ。
「だから、鎧くん、わたしを隠して。わたしの泣き顔ごと」
これは僕に彼女の前に立って戦って欲しいということ。一緒に戦うということは僕の後ろにルイーゼがいるということ。逃げることは許されない。
即答できなかった。僕はルイーゼにとって何なんだろう?
『ねぇ、ルイーゼ。僕は君にとって……「友達よ!」
僕の聞きたかった答えはあっさりと返ってきた。君が僕を友達だと思ってくれているなら僕も戦える。
『ありがとう。僕は君の泣き顔を隠すよ。だから、僕が逃げ出さないように後ろでしっかり見張ってて』
「見張らなくたって鎧くんは逃げたりしない。背中はわたしがしっかり守ってるから安心して」
ルイーゼに信頼されている。彼女の信頼に応えたいとも思っている僕がいる。ルイーゼと一緒なら戦える。たいして荷物のない僕らに必要だったのは心の準備だけ。覚悟は決まった。
『行こうルイーゼ』
「うん」
僕の差し出した手をルイーゼが握り僕らは迎撃へと向かうのだった。
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