異世界エレベーター －リストラされたオレが地球を救うのか？－

第9話 ロビスコ帝国

　翌朝、ベッドの中でゴロゴロしている時に携帯が鳴った。あれ？これはジュンさんからだ。本国に戻ったはずだけど、電話は通じるみたいだな。

「ジュンさん、おはようございます。」

「ユー、また山梨県の山間部で住民が全員行方不明になる事案が発生しました。今すぐレンタカーを借りて、わたくしをピックアップしてもらえますか？」

「え？ジュンさんをピックアップって、今は本国へ向かっているんじゃないですか？」

「そうでしたね、説明は後で会ってから話をしますので、まずはマンションでピックアップをお願いします。あと、今回は何日か現地で泊まり込みの調査になる可能性もありますから、着替えも持って、レンタカーも長めに借りておいてもらえますか？」

ジュンさんの語調から、何か問題があったことは想像がついたので、今は質問せず、指示に従っておくことにする。

「わかりました。すぐに行きます。」

速攻でレンタカー屋で車を借りてジュンさんのマンションへ向かった。

「おはようございます、ジュンさん。」

「おはようございます、ユー。急な呼び出しでごめんなさいね。走りながら説明しますので、高速で山梨方面へ向かってもらえますか？」

車を首都高から中央自動車道へ進めるとジュンが話始めた。

「昨日の午後、本国へ向けて高速巡洋艦で出発したのですが、昨日の深夜にプリマベーラから緊急連絡がありまして、急遽本国行きを中止して、艦をプリマベーラに戻したんです。」

「緊急連絡？ですか？」

「例のエーデルシュタインの資料にも無い物質の件です。解析を続けた結果、遺伝子レベルで偽装されたロビスコ帝国の侵略兵器の物であることが判明しました。」

「遺伝子レベルでの偽装ってことは、エーデルシュタインと同等の科学技術レベルの国、ということですね？」

「そうです。ロビスコ帝国は覇権主義の王政帝国で、手当たり次第に星も空間も占領して拡大を続ける、わたくしたちとはイデオロギーが異なる国家なのです。そして、その矛先は、わたくしたち、エーデルシュタイン連邦にも向けられるので、わたくし達とロビスコ帝国は戦争状態の敵対関係にあります。」

「戦争状態、ですか？」

「はい、ロビスコの進め方は、まず、その星の生き物を解析し、兵器化させて、それを使って星全体を占領したのちに、星の全生物を兵器化して、わたくしたちなど、他国に対する攻撃に使うのです。」

「え？すると、今回は地球の人類が兵器化されて、エーデルシュタインと戦わされる、ということですか？」

「その通りです。ですので、本件はコードイエロー事案からコードレッド事案へ変更となり、本国から第１１独立遊撃師団が派遣されることが決まりました。と言っても、到着までには１ヵ月位かかりますので、その間は、プリマベーラだけでロビスコからの地球侵略を防がなければなりません。だからわたくしも、急遽本国行きを中止してプリマベーラへ戻ったというわけです。」

数日前までビル清掃のバイトをしていたオレが地球侵略を防ぐ？　寝言は寝て言えって感じだよな。ま、それを言ってしまったら、オレがエーデルシュタイン連邦のエージェントになってること自体が冗談でしょって話なんだけどね。

高速を降りて、県道をすすむと、道の駅があった。

「一旦あそこに入りましょう。休憩と今後の対応も検討したいですしね。」

オレは道の駅の駐車場に車を止めて、ジュンと２人で建物に入る。

「あ、あそこにしましょうか。」

ジュンは軽食コーナーを指さした。

オレもジュンもカフェオレをオーダーして、小さな丸テーブルのある席に座った。

「ここから２～３キロの所で、また、住民が全員行方不明になる事案が発生したそうなの。既にコードレッドなので、簡易調査じゃなく、実地確認がしたいので、この近くのホテルに泊まりたかったんですけど、調べた限り、この辺にはホテルがないの。わたくしたちみたいな地域外の人間が歩き回ってても不審がられない方法ってないからしらね？」

ジュンが周囲に聞こえない位のボリュームで話した。

オレはスマホのエアビーを起動して民泊か、貸別荘が無いか探してみた。あ、貸別荘ならあるな。

「ジュンさん、このあたりは観光地じゃないので、ホテルは無いみたいですけど、貸別荘はありますよ？」

「貸別荘？なるほど、そういう手もありますね。」

「観光地でも無い場所なので、遊びに来た、というより、ジュンさんの療養を兼ねて、しばらく滞在しているっていうストーリーなんかどうですか？　ジュンさんは、少し肺が悪いので、空気の良い所で過ごしたくて、オレは介護士やってる親戚で、面

倒見についてきてる、とか？」

「そうね、それ良いストーリーじゃ無いですか、ユー。そうしましょう。その貸別荘、すぐ予約できますか？」

オレはネットで貸別荘を予約した。

「はい、オッケーです。」

「では、直接現場へは行かず、貸別荘に行きましょう。そこをベースに行動した方が、確かに目立ちませんしね。途中で食材なんかの買い物もして行きましょうか。」

カフェオレを飲み干して、車を別荘へ向ける。

途中にスーパーがあるので、寄って行こう。