第5話 エージェント
「これからのスケジュールを考えてみました。 わたくしは諸手続きもありますので、一度本国に戻ります。ここは異次元の中でも辺境にあるので、本国までは1か月程度かかります。たぶん本国に1か月程滞在してから帰りますので、合計で3か月ほど留守にします。 わたくしの留守中は貴方が、あ、貴方ではなく、これからはユーと呼びましょう、わたくし達は婚約者同志ですから。よろしいですか、ユー?」
「は、はい、も、もちろん。。 ところでオレは何と呼べば良いですか?」
「そうですね、わたくし、幼少からのあだ名は”ジュン”でしたので、ジュンでどうですか?」
「なるほど、では、ジュンで。 ハイ、ジュン。」
「ハイ、ユー。 これが夫婦の会話ですのね。新鮮ですわ。」
いや、意味不明なインチキ英会話みたいなだけだって・・
「あ、話が脱線しましたね。で、ユーがわたくしの代行としてエージェント活動をお願いします。 正式に結婚手続きが終わればユーも正式にエージェントになれますが、婚約期間中は、便宜上、わたくしの補助者という扱いでエージェント活動をして頂きます。明後日にはユーの補助者への登録が終わるそうですので、明後日から1週間、わたくしと一緒に実際に地球に出てエージェント活動に関してご説明します。それが終わったら、わたくしは本国へ向かいますので、その後3か月、ユーが一人でわたくしの代理としてエージェント活動をお願いします。」
「なるほど、明後日からエージェント修行開始ってことですね。ちなみに、エージェント活動って何が目的なのですか? これだけ文明レベルが違う地球がエーデルシュタインの脅威になるとは思えませんが。」
「ユーの言う通り、連邦は地球を脅威とは認定していません。ここプリマベーラを見ればわかる通り、領地が必要であれば、都市を生成できますから、既存の土地、例えば地球を侵略する必要もありませんし、逆に自然の星は整備維持に手間がかかるので、手放したい位です。では、なぜ監視するのかというと、正常な進化を見届けたいと言うか、説明が難しいですね。あ、地球にあるものに例えると、動物園、いや、サファリパーク、あぁ、自然保護区みたいな感じで、エージェントは自然保護管、という感じでしょうか。観察、保護、保護区に重要な影響を与えるケースではその驚異の排除もします。」
「なるほど、すごく分かりやすいです。ただ、現実としてオレ達が保護されてる絶滅危惧種だっていう悲しい事実がわかって辛いですが。。」
「あ、説明が生々しくてすみません。。」
「いえ、実際、これが現実なんでしょうから。。」
2日後、ついにエージェント”補助者”として地球で活動する日が来た。
まずは連邦軍本部へ行き、連邦軍人になる手続き、そして装備が装着された。とは言っても、体に光を浴びただけだが、体内に異次元空間が出来て、そこから必要に応じて随時装備が提供される仕組みらしい。続けて、エージェントになる手続き、エージェント用追加装備として、次元転送装置、異次元から本部への通信装置の装着が行われた。 こちらは、腕に光を浴びることで、腕に装備されたそうだ。
初老の女性姿に変わったジュンと共に、緑の光の道を通ってエレベーターに乗り込んだ。
「ユー、やってみて。」
「ハイ、こうですね。」
オレが胸の前で手をクロスすると徐々にエレベーターの壁が現れ、金色に輝く操作盤が現れた。
これがさっき装備したエージェント用装備なのか。なんだかSFっぽくてかっこいいじゃないか。
「そうそう、上手いじゃない、ユー。」
いや、ただ腕を胸の前でクロスさせただけですから・・
ガクンと大きく揺れると、前回同様、上下でも左右でもない不思議な方向へ動き、そのままスッと停止した。
「もう、地球の、このエレベーターの場所に着きました。今は、エレベーターの中が無人になるタイミングを待っているところです。」
「なるほど・・」
操作盤が金色が消えると、チン、という音とともにエレベーターのドアが開いた。
一階だ。帰ってきた、ついに元の世界に帰ってきた。今こそ、あのセリフを。。「I'm back!!」
大人の都合で、このセリフは使われないかもしれないけど、とりあえず言ってしまった。
ジュンはビルを出ると、駅とは反対方向に歩き始めた。
「そういえば、どこへ向かうのですか?」
「あぁ、地球、日本の拠点に向かいます。地球上、複数個所に拠点があって、それぞれ転送装置の出口がありますが、その紹介は次回わたしくが本国から戻ってからにしましょう。あ、ここです。」
造りは頑丈そうだが、相当年季が入ってるマンションへ入った。
「築40年なんですよ、ここ。でも、造りがしっかりしてるので、安全ですよ。」
オレが不思議な顔をしていると、察したのか、ジュンは説明を続けた。
「エージェントの基本は目立たないことですから、この姿、年金生活の初老の女性が住んでても違和感のない、古いマンションを使ってるのです。 あ、でも今気が付きましたが、ユーは、わたくしとどのような関係、ということにしましょうか? さすがにおばあちゃんのの姿で夫婦は無理ですね、親子?」
「親子でも構いませんが、そうすると呼び方がジュンではおかしいですね。親戚ということではどうでしょう? それなら、ジュンさんって呼び方も違和感ないですね。」
「そうですね、わたくしは、そのままユーと呼んで大丈夫ですね。では、次からユーだけでここへ出入り出来るように、このまま管理人室に行って、ユーを親戚の子だと紹介してしまいましょう。」
管理人室で、まさに老人っぽい一通りの世間話を済ませた後、5階の角部屋に入ったが、当然だが、見事に日本の普通の家庭の雰囲気だった。
通常の連絡は、日本の携帯電話を使い、緊急の場合にはエージェントの連絡装置を使う、ということにして、オレは一旦自宅に帰った。ベッドに横になり、もう一度言ってみた。「I'm back!!」
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