第6話 防衛装備
まずはスマホを確認する。大量の着信履歴と、メールが来ていたが、主に、いや、全部がビル掃除のバイト先からだった。 バイト、無断欠勤状態なので、最終的に解雇通知が届いていた。まぁ、仕方が無い、というか、迷惑かけてゴメン、だな。
その他に何の連絡もないのは、流石存在感の無いコミュ障系フリーターってところだろうか。
ジュンによると、エージェントには給料と活動費が支給されるので、生活の心配は無いらしいから、バイトが無くなっても大丈夫だろう。
まずは、何か食べようか、何せプリマベーラの中では、食事と言ってもゼリーのような栄養剤だけで、ちっとも食べた気がする食事ではなかったからな。
折角最悪の状況を切り抜けたのだから、豪勢に寿司でも喰ってやろうと近所の回転寿司で目いっぱい食べて、生ビールも3杯飲んだ。こんな豪勢な食事は久々だ、と感激しつつ、豪勢な食事が回転寿司な時点でオレの人生は知れてるな、と悲しくもなった。
さて仕上げにアイスとつまみとビールと缶酎ハイ買って帰るか、とコンビニへ向かった。
「やめて下さいっ!」
コンビニの駐車場で若い女性がチンピラ風の3人組に絡まれている。
おぉ、これはまさしく転生物のテンプレート的な展開、と思いながら、近づいて声をかけた。
かっこよく、ちょっと声を低くして、キザなセリフで決めてやろう。
「君たち、お嬢さんが嫌がってるじゃないか、やめたまえ。」
「はぁ?なんだテメェ!」
チンピラがオレに向かってくる。まさに王道の転生物のテンプレだ。
ここから、オレが無双で片づける、と。
しかし、もうすぐオレに手が届く、という所で突然オレの肩からビームのような物が3発発射されてチンピラ3人が血だらけになって、その場に倒れて動かなくなってしまった。
え?死んだ?えぇ??
続けて肩から光線のようなものが発射されて、死体が徐々に薄くなって消えてしまう。
駐車場には、血の跡すら残っていない。
「え?あれ?死んじゃったし消えちゃった? あらあらぁ?」
オレは動揺した。
チンピラに絡まれてた女性も目を見開き、口をパクパクさせてオレを見ている。
女性が声を発しようとした瞬間、またしてもオレの肩からビームが出て、女性も血まみれで倒れて、そして光線が出て消し去ってしまった。
「うぁぁぁぁ」
オレはジュンに電話をかけた。
「ジュンさん、今、コンビニで、人が死んじゃって、消えて、オレの肩からなんか出て・・」
「ユー、落ち着いて、落ち着いて。 何があったの? 順番に話してください。」
「あ、は、はい。。 コンビニの前で女性がチンピラに絡まれてたんだ。それを助けようとしたら、オレの肩からビームが出て、チンピラ達が血だらけになって死んじゃって、そのあと光線が出て、死体が消えちゃって、さらに、助けた女性も同じように血だらけで死んで消えちゃったんですよ。」
「あぁ、なるほど。 それは防衛装備が働いたのです。 ユーは連邦軍人で、地球に居るのは任務として、ですよね。任務中の連邦軍人に危害が及びそうな場合、自動的に防衛装備が発動します。 ユーを襲った人達が死んだのはそのせいです。 次に、死体が消えたのは、地球では死体を残した場合、ユーが逮捕されたり、問題になることを回避するために証拠を隠滅する、エージェントとしての追加機能です。」
「はぁ。とはいえ、いきなり殺しますか?」
「ユーが装備しているのは軍用品で、脅しの道具ではありません。その場で最も確実かつ最速な方法で対処されます。」
「はぁ、なるほど・・ 確かにそういうものかもしれませんが。。 では、助けた女性が死んで消えてしまったのはなぜですか?」
「ユーがチンピラを殺して消した所を目撃したからですね。確かにユーから見ると厳しいと思うかもしれませんが、思い出してください、わたくし達の存在は絶対に公開できません。もし、知られてしまうのであれば、対象、ここで言うと地球ごと削除する選択もあり得ます。」
「えぇ、論理的には理解出来るのですが、人が死ぬのは・・オレが殺してますし。」
「いいえ、ユーが殺したのではありません。判断と実行したのは各自に装備されている連邦軍のAIです。個人の責任にならないために、装備のAIが判断して対応しています。」
「はい、それも理解は出来るのですが、やはり目の前で人が死ぬのはちょっと。。」
「それは、そうかもしれませんね。でも、慣れてください。ユーは連邦軍人でエージェントなのですから。」
「はぁ。」
「それより、ユーは何故その女性を助けようとしたのですか? トラブルなら警察を呼べばよかったですよね? もしかして、女性を助けてヒーローになって、女性と仲良くなろうとか思ってましたか?」
「・・・いや、全然そんなことないですよ・・。」
「ユー。もし、浮気したら噛みつきますよ。」
えぇぇぇ、ジュンは無性なのに女性っぽい発言なの?なにこの展開・・。
「・・してませんし、しませんです。ハイ。」
とりあえず、アイスとつまみとビールと缶酎ハイを買って部屋に戻った。
転生物だと、無双して盛り上がる展開なはずなのに、これも確かに無双かもしれないけど、ちょっと違うような・・。
とにかく、女性には謝っておきたい、助けたようで助けてなくてゴメンなさい。
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