第2話 プリマベーラ
緑のランプを点滅させる四足歩行のロボットに先導されて緑に光る道を進み、机と椅子が4脚置いてあるだけの部屋に通された。特に鉄格子があったりするような感じはないので、取調室のような所では無く、応接室のような所なのだろうか?
「お掛けにナッテ、しばらくお待ちくだサイ」
そう言い残すと、四足歩行のロボット達は部屋を出て行った。
鞄からスマホを取り出してみたが、やはり圏外表示が出ている。
オレ、昨日は明け方までゲームしてて、そのまま始発でバイトに来たんで、幻覚が見えてるか、白昼夢でも見てるんだろうか。ドラマやアニメでありがちな自分で自分の頬を叩いてみる。
バチンっ。ちっ、痛いじゃないか。なにするんだよ、全く。
うん?ということは、これは夢ではない、と。さて、困ったぞ。よし、とりあえず、心を落ち着かせるために、そうだ、ゲームをすれば良いんジャマイカ。No Game, No Lifeだしネ、と。
ネットに繋がってなくても出来るゲームは。。パズル系なら、よし、数独だな。
ノックの音と共に先程の女性と軍服を着た3名の女性が入って来た。
スマホの時計を見ると、10分程、数独に集中していたようだ。こんな状況で数独に集中できるオレはある意味凄いヤツかもしれないな。
先程の女性がオレの正面の椅子に座り、軍服の3人は、その後ろに立っている。
「初めまして、という挨拶は変ですね。でも、ちゃんとお話するのは初めてですので、改めて、初めまして。わたくしはエーデルシュタイン連邦軍対外情報部のジュフラン大佐です。後ろの3名は保安部のメンバーですので、お気になさらず。」
お気になさらずって言われても、3人とも腰につけた拳銃のようなものに右手をかけたままなんで、この状況がどれほど緊迫してるのかは、説明を受けなくてもわかるってもんだよな。
「エーデルなんとか?、連邦軍…?? え?やっぱり夢なのか? あ、いや、初めまして、オレは小笠原祐、あのビルで清掃のバイトをしてます。」
「小笠原祐さん、ですか。すぐにご理解頂くのは難しいかとは思いますが、まずは概要からご説明させて頂きますね。 ここはわたくし達エーデルシュタイン連邦の移動都市プリマベーラ、地球で言うところの宇宙船の超大型の物だとご理解下さい。但し、地球の皆さんとは違う次元に存在していますので、地球からはここは見えませんし、当然、存在も知られていません。」
「移動都市が違う次元、はぁ。ハイ…」
「わたしく達の移動都市は、各次元の生物反応がある場所を監視するために存在しています。 このプリマベーラは、貴方達の言う『地球』を監視するための場所になります。 ちなみに、貴方達と同じ次元、貴方達が『宇宙』と呼んでいる空間には、全部で6か所の生物反応のある場所があり、それぞれ移動都市が監視をしています。 そしてわたくしは、現地、『地球』に入り、情報収集をしているエージェントです。」
「宇宙には6ヵ所の生物反応でエージェント、はぁ。ハイ…」
「続けてもよろしいですか?」
「はぁ。ハイ…、と言うか、異次元とか、移動都市とか、この宇宙に生物世界が6ヵ所あるとか、エージェントとか、全く理解も想像もできませんから、考えるだけ無駄なので、どんどん続けちゃって下さい…」
「そうですよね、では一旦、このまま続けますね。 わたくし達エージェントは地球と移動都市間を常に行き来しています。そのための転送装置の一つが今回のエレベーターでした。 当たり前ですが、わたくし達エージェント以外が転送装置を使うことは絶対に許されません。 本来、あのエレベーターには誰も乗っていないことを確認してから転送作業を行うべきでした。 ですので、今回の件は、全てがわたくしのミスなのです。 しかし、実際の所、わたくし、エレベーターの中で貴方の気配は全く感じませんでした。貴方は何か特殊なスキルの持ち主なのでしょうか?」
「特殊なスキル、と言うと綺麗な表現ですが、オレは存在感が無さすぎて、先月会社をリストラされてますんで、存在感の無さにかけては折り紙付きだと言えますよ。とても自慢できることではない、というか、まったくダメダメってことですけどね。」
「存在感が無くてリストラですか? 今までの情報収集活動で、そこまで存在感が無いっていう人にお目にかかったことがありませんでしたわ。」
「えぇと、たぶんそれは、存在感が無さすぎて、気にならなかった、目にも止まらなかっただけだと思いますよ。それが証拠に、今回だってオレに気づかなかったんですよね?」
「なるほど。確かにそうですね。素晴らしいスキルだと思います。是非研究させて頂きたいです。」
うーん、オレは存在感が無いことを褒められてるのか、はたまた単なる嫌味なのか。どうも異次元人の考えてることはわからないな…
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