異世界エレベーター -リストラされたオレが地球を救うのか?-

@Sakamoto9

第1話 始まりはエレベーター

 ビル清掃のバイトが終わったのが午後4時。今日のシフトは朝6時からの早番だったんで、もう疲労マックスだ。地下2階の更衣室で私服に着替えてエレベーターに乗り込む。

エレベーターは地下1階で止まり、初老の女性が乗り込み、続けて、見覚えのある二人組が乗り込んできた。

妙な不快感から咄嗟に帽子を深く被り直し、女性の陰に隠れるように移動して、気配を消すかのように息をひそめてから気が付いた、俺がリストラされた職場の専務と秘書だ。不快感とも威圧感ともわからない嫌な感じはそのせいだったか。


エレベータ―は1階に着いたが、ここでオレが降りると、専務と秘書に見つかってしまうだろうから、降りるのを止めて、そのまま女性の陰に隠れ続けた。

ちょうど、1階からは、1人若い女性が乗り込んで来たので、オレが降りなくても1階に止まったことに違和感は無いしね。


若い女性は9階でエレベーターを降りて、エレベーターはまた上昇を続ける。


 専務と秘書は俺には気が付かないまま26階の役員フロアーで降りて行った。

流石オレ、存在感が無さすぎてリストラされただけのことはある、オレはヤツらの記憶の片隅にも無いのだろう、オレの存在なんか誰も認めないのさ、って、オレは自虐的な方向で自信が湧いて来た。


エレベーターのドアが閉まると、初老の女性がふぅっと、軽く溜息をついたあと両手を胸の前でクロスさせた。


すると急にガクンとエレベーターが止まり、照明が消え、操作盤全体が金色に輝き始めた。

エレベーターはもう一度、ガクンと大きく揺れると、上下でも左右でもない不思議な方向へ動き始める。


「え。。。?」思わず声が出てしまった。


「え?」女性が驚いて振り向いた。


「え?え?」間抜けな声で更に呟いてしまった。

「えぇ?えぇぇ?」女性も相当動揺しているようだ。


「えっ?乗ってたの?」

女性が目を大きく開いたまま、独り言とも、問いかけともわからない呟きをした。


「え?あ、俺、存在感薄いんで。なにせ先月、存在感無さすぎてリストラされたばっかりですし、へへへ」

このタイミングで必要なのか怪しいが、コミュ障奥義、「笑って和ませよう」が発動してしまった。


しかし、女性にはオレの奥義「笑って和ませよう」が通用しないようで、ポカンとした顔でこちらを見ている。

と、エレベーターの動きが止まった。

同時に、ドアが開く、のではなく、壁全体が薄っすらと消えていく。


「え? ええ?」オレは1ヵ月分の「え?」を今日一日で使い切ったかもしれない。


エレベーターの壁が消えると、真っ暗い空間の先にトンネルの出口のような光と、そこへ続く緑の光の道が出来ていた。


ふとオレにだけスポットライトがあたった。

すると、更にこちらへ続く緑の光の道が増え、四足歩行のようなロボットが4台、赤と青の光を点滅させながらこちらへ向かってきて、オレは取り囲まれてしまった。


「え?」。 オレは来月分の「え?」を前借りした。


女性がロボットに向かって何語だか分からない言葉を発すると、ロボット達の赤と青の光の点滅が止まり、緑の光に変わった。


女性は1台のロボットからヘッドセットのようなものを取り出してオレに手渡した。

「これ使って。翻訳機。」


ヘッドセットを付けると不思議なアクセントの日本語で話かけられた。

「アナタは、エーデルシュタイン連邦へ不法侵入してイマス。アナタの氏名、年齢。職業をイイなサイ。」


「え・・・マ、マイネームイズ、ユー」何故か英語で答えてしまった。


「My name is you⁉、フザケテいるナラ拘束しマス。」


「い、いや、ワタシーノ、名前は小笠原祐、「ゆう」デース!」まだ何故かインチキ英語のようになってしまった・・。


女性がオレをかばうように両手を広げてオレの前に立ち、またしても何語だか分からないなにかを話し出した。

 1テンポ遅れてヘッドセットから日本語訳が聞こえてくる。

「チョット待って下サイ。コレは完全に私のミスです。彼は被害者デ、何の責任もありマセン。 私が転送装置が無人でアルことを確認しなかったミス、デス。」


「ジュフラン大佐のミスでアリマスか。了解デス。しかシ、彼をどうしマスカ?」


「ミスとは言え、ここヲ見られてしまっタ以上、一旦は管理局の隔離施設デ保護して下サイ。ただし、犯罪者デハないので、丁重に対応シテくだサイ。」


 女性はオレに顔を向けると、今度は日本語で直接話しかけてきた。

「こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい。ここは私達の宇宙船の中です。詳しいことは後でお話しますが、一般の地球の人にここを見られてしまった以上、このままお帰しすることは出来ません。一旦施設へご案内しますので、そこで、また話をしましょう。本当にごめんさない。」


「え、えぇ。はい。」この「えぇ」は「え?」とは違う、返事としての「え」だから「え?」の前借りにはなってないな、と余計なことを考えながら返事をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る