ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし闘う使い魔面してみた。

おはなきれい

プロローグ(1)

立ち鏡に映るのは、顔の整った細身の少女。自身に満ち溢れた顔で、日常生活では普通着ないような、それこそアニメや漫画でありそうな服を身につけ、頭には漆黒のツノを生やし、目元にはドミノマスクを装着している。

 

「うん、いい感じ!何着ても、何付けても似合う。流石僕、流石美少女。」

 

僕は貯めていたお金を使って買った特注品の服とコスプレ用として売っていた小道具のツノとドミノマスクにとても満足していた。

こんな格好で街中に行けば目立つのは間違い無いだろうけど、アニメや漫画にありそうなデザインの服とこんな偽物のツノを身につけているのは、あえてなのだ。

 

別に今日がハロウィンってわけでも無いし、コスプレをする集まりに参加するわけでも無い。

 

この世界のある者達に寄せたらこうなったというべきか…なぜこんな格好をしているのかは、今からしようとする事に関係があるのだけど、それを理解してもらうためには少し時間が遡る。

 

 

 

……数ヶ月前

 

 

「せっかく僕の好きなゲームに酷似した世界に転生したのに暇すぎる!!」

 

僕は自分の部屋で大の字になって寝そべり不満を口にする。

 

僕は前世の記憶をもった、転生者だ。前世は男で今世は女になってしまってはいるが、美少女だし許す!

 

それより僕にとっては、今生きているこの世界は前世にハマっていたソシャゲの世界観ににすごく酷似しているという事の方がよっぽど重要だった。

 

どんなゲームの世界観かというと、表では何の変哲もない現代社会だが、裏では天使と悪魔が実在する世界で裏側の人間達が天使や悪魔と契約をして好き勝手している現状に、表側の人間であった主人公の少年が、元天使で上位悪魔であるヒロイン、ルシファーと契約を交わすのをきっかけに、主人公とルシファーが様々な問題を解決していくというのが大まかな世界観であり、ストーリーである。

 

表は基本的には前世の現代社会とあまり変わらないのだけど、地名や店の名前等がそのゲームで出てきていた物と一致していた事から、この世界がそのゲームの世界だと感じ始めた。

 

僕が進学する予定の学校だって、主人公の通っていた学校と一緒の所だし。

 

そんな感じでもしかしたらそのゲームの中に転生したんじゃないかと、テンションの上がった僕は次にゲーム内で悪魔や天使と関わらずに、特定の場所に行く事で手に入るアイテムを僕が覚えている限り片っ端から集めた。

集めたアイテムの種類はノーマルから激レアアイテムまで種類が豊富だ。

 

そしてゲーム内にあったアイテムがある事で、さらにテンションの上がった僕は、次にゲーム内に出てくる登場人物や悪魔、天使を探す事にした。

 

一応言っておくと、ゲーム内に僕のような女の子と名前のキャラは出てきていないので、モブなのだろう。

こんな顔が良くても主要キャラはもちろん、サブキャラにすらなれないなんてこの世界の厳しさを実感した。

 

そんなこんなで探す事数年、それと同時にアイテム集めは継続していたものの、肝心の登場人物や悪魔、天使に一人たりとも会わず仕舞いだった。

 

絶望した。

登場人物が居そうな場所も僕が行ける範囲で探したはずだ。

なのに見つからない。

 

主人公はゲーム内画面で、顔は映っておらず、名前も自分自身で決めるタイプの主人公だったため、見つけられなくても仕方がない気はするけど、顔も名前も分かっている登場人物すら一人も見つけられなかったのだ。

 

この世界には原作キャラがいない可能性が出てきたという事になる。

 

推していた悪魔や天使のキャラにだって会いたかったのに……これが僕が『ゲームの中の世界』ではなく、『ゲームの中に酷似した世界』だと言った理由だ。

 

この世界が、やっていたゲームに似た世界だと気付いた時から中学3年生の冬である今日に至るまで、僕が出来る事は、ほぼやり尽くしたと言ってもいい。

 

故に暇なのだ。

 

高校に進学するための勉強をしろよと言う人もいるかもしれないけど、学校にもしっかり出席して、しっかり勉強もやったので、ほぼ確実に合格する。

これ以上やっても大して変わりやしない。

だから暇なのだ。

 

机に置いていた、板チョコが目に入る。

僕は前世は普通程度だった板チョコが今世では、大好物になっている。この世界の板チョコが前世の世界より美味しいのか、僕の今世の体の影響で好きになったのかは分からない。

そんな僕は常に板チョコを常備している。

 

 

今のこの世界の状況を板チョコに例えると限りなく板チョコに似た別物とでも言うべきだろうか、そんなもどかしさがある……ん、待てよ?

 

じゃあ僕がその不完全な板チョコを完全な板チョコに作り替えればいい……そうだ!この世界に悪魔や天使がいないなら僕がなればいいんだ!

 

僕は一気に立ち上がる。

 

悪魔や天使は人間より遥かに優れた身体能力や特殊能力があり、純度100%の人間の僕はそんな力は一切ないけれど、そこは今まで集めたアイテムを使ってカバーすればどうにか行けるかも。

 

よし決まった!使い魔ごっこをしよう!

 

そうと決まれば原作のゲームのような、僕と契約をして使い魔として扱ってくれる、主人公的なポジションが居なければ始まらない。

より原作に近づけたいので、そういった役割の人間がいないと。

 

「よーし、主人公役を探すぞー!!」

 

 

 

 

 

 

 

原作ゲームの主人公は物語の開始時、高校一年生だった。

現在、僕は中学3年生で季節は冬。高校一年生になるまでの数ヶ月を期限に、同じ学校の同級生で主人公役に相応しい人を探すことにした。

この高校一年生になるまでという期限は、出来るだけ入念に準備をしたい自分にとっては、丁度いい目安になったからだ。

主人公役を探す対象として同じ学校の同じ同級生の中からと決めたのは、そちらの方が色々と動きやすいから。

 

そんなこんなで、それから数ヶ月、同じ学年の人間を観察、調査して、主人公役に相応しい少年を見つけ出す事に成功した。

 

その少年とは、一回も同じクラスになった事がないし接点も全くなかったけど、ある日バスで通学中、窓からその少年が大変そうだったおばあちゃんの荷物を持って、付き添ってあげている所を目撃した。

 

その後、その少年の事が気になり、気付かれないように観察、調査していると、結構な頻度で人助けを行なっているところを目にした。

 

絵に描いたような主人公ムーブだ。

 

彼しか主人公役に相応しい相手はいないと思った。

 

彼も同じ高校に進学するという点も、この計画を実行する上ではとても都合が良く、僕がこの少年を主人公役に決めた後押しとなった。

 

 

主人公役を決めた後は、早かった。

悪魔や天使が着ていた格好に寄せて衣装を特注で制作したり、必要な小道具を買い揃えたり、実行するにあたっての計画を練ったり、とにかく今まで暇だったのが、嘘かのように日々が充実していた。

 

 

そして今に至る。

 

今日は4月1日。

中学を卒業して高校に入学するまでの春休み期間中だ。

そんな今日に計画を実行する事になった。

当初は高校を入学後に行う予定だったが、この日しかないと思い直した。

 

4月1日はエイプリルフール、年に一度の嘘をついてもいい日、主人公役の少年を騙して行う使い魔ごっこは、いくら心優しい少年でもブチギレ案件なので、このエイプリルフール日にやればギリ許してくれるはずという、あまりにもゲスい考えなのだけど、あとで土下座でも何でもするから僕に少し時間をください。

 

という事で、主人公役の少年に今日だけ(勝手に)付き合ってもらう事にした。

 

 

今日する事は、原作ゲームの主人公のヒロインであり相棒であるルシファーとの初邂逅シーンの再現。

 

主人公が魔導書を偶然手にして、適性がある人間にしか開けられない魔導書を開く事でルシファーを召喚、主人公に圧倒的な上位悪魔の力を見せつけるルシファー。

その後、主人公と契約を交わす事で物語が始まるのだが、この契約を交わすシーンまでやってみたい。

 

僕は到底ルシファーにはなりきれないので、それ以外の大筋だけでもなぞらえたい。

 

今回この計画を実行するにあたって、今まで集めてきたアイテムをいくつか使用する。

 

その中でも重要な役割を持つ腕輪のアイテムを腕につける。

 

このアイテムは主人公役の少年に人間とは違うと思わせるような圧倒的な力を見せるために必要になってくる。

 

これはエイプリルフールの日に特定の場所に行く事でもらえる限定アイテム。

これ自体は去年のエイプリルフールに手に入れた物だ。

 

運営が完全にネタとして作ったアイテムなわけだが、その性能はぶっ壊れ。

 

このアイテムの効果はーー

 

種族『人間』に上級悪魔相当の氷の能力を付与する

 

という物。

 

人間が上級悪魔レベルの氷の能力を操れるなんてぶっ壊れにも程があるが、ゲームバランスが崩壊する事はなかった。

 

それはそもそも人間が戦闘キャラとして戦闘に参戦していないからである。

 

契約した人間は基本的に悪魔や天使を指揮する立場であり、戦闘を行うのは天使や悪魔。

 

種族『人間』がゲームの戦闘キャラにいない以上、誰にもこのアイテムを装備させる事が出来ず、エイプリルフールのネタアイテム以上の価値はなかったのだ。

 

だけど、この世界が現実になった今、ゲームシステムの縛りから解放され、僕という原作ゲームの知識を持ったイレギュラーが存在した事で、本当のぶっ壊れアイテムとして、この世界に君臨する事になる。

 

まぁ、この世界は、あのゲームの世界にとても似てはいるけど、天使や悪魔が存在しない以上、このアイテムが日の目を見る事はそうそう無さそうだけど。

 

「じゃ、そろそろ計画を実行しようかな!」

 

 

まずは主人公役の少年に、僕を召喚させるための魔導書を拾わせる必要がある。

僕は人間でただの一般人なので、当然そんな僕を召喚できる魔導書なんて、存在しないから、それっぽいダミーを用意した。

見た目こそ魔導書っぽいが中身は何の変哲もないノートだ。

ネット通販で購入した。

原作では主人公がルシファーを召喚する魔導書を、掃除中の倉の中から引っ張り出していた。

出来るだけそんな感じに再現したいけど、流石にどの家にも倉があるわけじゃない。ある方が珍しい、一応少年役の家をチラッと確認したけど、見た感じ倉は無かった。

 

なので代替案として、僕が主人公役の家付近で待機し、主人公役が家から出て来た後に、タイミングを狙って魔導書を主人公役の近くに落とす。

気になった主人公役はそれを開き、僕が召喚される寸法だ。

主人公役が落ちている魔導書に対して気付かなかったり、無視したりした場合は詰みだし、拾いはしても開けずに家に持って帰っても詰みだ。

 

家で開けられても家の中に入る事は出来ない。

流石に見知らぬ僕が、許可を得ずに家に入るのはマズいと思う。

いや、まぁストーカー紛いなことをしている現状も普通にマズいけど。

 

それは美少女という事で、無罪にしてください。お願いします。

 

それはさておき、今僕は偽物のツノを頭に付け、特注の衣装を身につけた状態で、主人公が家から出てくるのを電柱に隠れて待っている。

 

必要になるアイテムも所持&装備しているのだが、普通に考えて変わった格好の人が家の周りをウロウロしているのは、ここのご近所さんにいつ通報されてもおかしくないので、その中のアイテムの一つである認識阻害のローブを上から身にまとっている。

 

このアイテムは原作ゲームでは、これを使用している者は、敵の天使や悪魔からの攻撃に対し、その攻撃の命中率をほんの少しだけ下げる……つまり敵の攻撃がちょっとだけ自分に当たりづらくなるという効果を持っている。

 

しかし、天使や悪魔達にとっては少し認識しづらくなる程度の効果でも、天使や悪魔に残念ながら劣る僕達人間はその限りじゃないらしい。

 

どうやら使ってみて分かったのだが、人間相手だとほぼ僕の事が認識されない。

正確には認識されてはいるが、道端に落ちた石みたいにあっても気にならない存在となる。

 

初めてこれに気付いた時は、一つのアイテムが悪魔や天使のような存在と人間とでは、ここまで効果の効き目が変わってくるのかと驚いたものだ。 

 

とにかく主人公役が家から出てくるまで待機しよう。

 

 

 

 

 

 

あれれ、おかしいぞ。朝から待っているのにもう夜なんだけど……。

 

全く家から出てこないぞ、あの主人公役の少年。

まさかここまでインドアな人間とは。

確かに休日だから家からあまり出てこない可能性も考えてはいたけど、一回も家から出ずに夜になるとは思わなかった。

数ヶ月かけて準備を整えたから計画失敗だけはしたくないと、その気持ちだけで今ここで待機してるけど、流石に今日はもう帰るべきか。

まぁ、魔導書を落としてすらいない今の状況なら、主人公役に認識されていないので、また今度に延期という形で再実行出来る。

今日は諦めて帰ろう。

 

そう思って僕が引き返そうとした、その時だった。

 

ガチャ。

 

「はぁ〜ぁ」

 

大きなあくびをしながら、家から出てくる主人公役の少年の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

「き、来た……!あ、」

 

声に出しては認識阻害をしていてもバレると口を押さえる。

 

だけど、思わず言葉に出してしまうほど嬉しかった。

 

これで今日の計画は継続出来る!

 

幸い今の声には気にもせず歩いて何処かへ向かう主人公役の少年。

格好がラフなジャージ姿に財布だけ手に持っている様子を見るとコンビニでも行くのだろう。

そのまま主人公役の少年にこっそりと付いていく。

認識阻害のローブでバレる様子はない。

 

やがて24時間営業のコンビニエンストアが見えてくるとその中に入っていった。

 

やっぱりビンゴ!

 

僕は主人公役が出てきたタイミングを狙って、魔導書を拾ってもらう事にした。

 

僕は急いで主人公役が絶妙に気づきそうな所を探してそこに魔導書を配置する。

 

その後主人公役が白いレジ袋を持ってコンビニから出てきた。

 

さぁ!気付くんだ!少年!

 

そう願っていると主人公役の少年は不思議そうに落ちている魔導書に気付きやがて手に取った。

 

やった!成功だ!あとは開いてさえくれれば、こっちのものだ!

 

……と思ったら主人公役は魔導書を開かずに歩き始めた。

 

少年、開かないの!?

 

普通こんな変わった物があったらまずは中身を見てみない!?

 

しばらく付いていくと人気のない公園に主人公役は入っていき、ベンチに座った。

 

そしてベンチまで、持ってきた魔導書の外観を舐め回すように見た後ついに開こうとする動作をとった。

 

僕はその動作を見逃さなかった。

 

まず、ゲーム内のアイテムの一つ、光玉を主人公役の近くに投げつける。

 

光玉は何かしらの衝撃をトリガーに割れて眩い光を数秒間もたらすアイテムで、こちらも相手の攻撃の命中率を下げる効果を持っている。

 

視認阻害ローブは装備する事で効果を得られるが、こちらのアイテムは消費する事で効果が得られるという違いがある。

 

今回の場合はどちらかというと目眩しのような使い方ではあるけど。

 

主人公役の近くの地面に光玉が叩きつけられた事でそれがトリガーとなり割れて眩い光を発した。主人公役はその光に思わず目を瞑る。

 

その瞬間に僕は、認識阻害のローブを取り外し、事前に飲んでおいた強化ポーションで、一定時間全体的な身体能力が向上しているその足を使って地面を蹴り、瞬時に主人公役の目の前に行く。

 

やがて光が落ち着き、主人公役の少年が目を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いたら俺の目の前にツノの生えた少女がいた。

何を言っているか分からないと思うけど、俺も分からない。

その少女はとても美しい少女だった。

ドミノマスクを付けているせいで、何処かで見たこがある気もするが思い出せない。

 

意味が分からない事が起こると人は思考を停止しようとするが俺はあえて頭を動かして今日を振り返ってみる。

 

その中にヒントがあるかもしれない。

 

俺は中学を卒業して高校に入学するまでの休みの期間ずっとゲームをやり込んでいた。

 

今日も例に漏れず朝からずっとゲームをしていたのだが、気が付いたら夜になっており、親は帰りが遅いので、渡されていたお金でコンビニに向かった。

 

その後コンビニを出ると、知らない文字と複雑な図形が表紙と裏表紙に載っている奇妙な本を見つけた。

 

何か漫画とかで見る魔導書みたいだなとか思いつつ、とりあえず交番に届けた方がいいんじゃないかと考え、交番まで持って行く事にした。

 

交番に向かっている途中、やはりどうしても中身が気になってしまう。

こんな一風も二風も変わった本の中身が気にならないわけがない。

だが、人様の物を勝手に開いてはダメだと自分に言い聞かせて開けなかったが、我慢の限界に達して近くの公園のベンチに腰を下ろし、本を開いてしまった。

そうする視界が一気に青白い光でいっぱいになり、その眩しさに思わず俺は目を瞑ってしまう。

 

光も落ち着いてきたので目を開けると先ほどまでいなかった、変わった格好の少女がいた。

 

うん、やはりどう考えても意味不明だ。

 

これは思考停止しても許して欲しい。

 

俺が思考を諦めようとしたその瞬間、少女が口を開いた。

 

「ーーーキミが僕を召喚した人間だね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーキミが僕を召喚した人間だね?」

 

少年はキョトンとしている。

 

それもそうだろう。いきなりそんな事言われて、こんな反応になるのも仕方がない。

 

だけどこの急展開を飲み込んでもらわないと、話が進まない。

頼むぞ少年。

 

「ーーーちょっといきなり何言ってんだよ。それにいきなり出てきたけど、あんたは何者なんだ?」

 

流石少年、無意識だろうけど、話を僕が持っていきたい方向に持っていってくれる。

やはり僕の見込んだ通りの主人公ムーブを見せてくれる少年だ。

 

僕は少年の持っている本を指差しながら言う。

 

「キミの持っているその本、上位悪魔である僕を召喚させるための魔導書さ。その本は適性のある人間にしか開ける事が出来ない。つまり、キミは選ばれた人間なんだよ。」

 

僕は上位悪魔でも何でもないただの一般人なのでこれは詐欺師もビックリだと思う。

 

 

「上位悪魔……?選ばれた人間……?本当、何言ってるんだ。勘弁してくれよ」

 

僕はその言葉に対して困ったなというような顔を作る。

 

「じゃあキミが信じてもらえるよう少しだけ僕の力を見せてあげよう!」

 

僕は片腕を空に向かって突き出す。

 

「氷雨ー!!」

 

実際には技名は自分が勝手に作った物で、こんな事しなくてもぶっ壊れアイテムこと腕輪で、無詠唱発動できるのだが、原作ゲームにならって天使や悪魔がしていた様に、技名を叫んでみる。

 

腕輪が僕の意思に反応して、大きな氷岩が僕らの頭上に出現したかと思うと、一気にひびが入り爆発したかのような音を立てて粉々となった。

粉々になり結晶と化したそれは闇夜に白く煌めき舞う。

 

これで僕特製の雪モドキが完成した。

雪というよりはかき氷だけど、この雪モドキの結晶は僕と主人公役の少年の周り一面に降っていく。

 

明らかに現実とは乖離した非現実的な今の出来事を見て、主人公役の少年は目を見開いたまま固まっている。

 

計画を実行するまでに、沢山練習した事が成功したので、思わずドヤ顔になりそうだったが、頑張って表情筋をコントロールして澄まし顔を維持する。

 

「……今の本当にあんたが?」

 

「もちろん!」

 

「……人間じゃない」

 

「最初からそう言ってるじゃないか。僕は悪魔だよ少年」

 

「……何が望みだ」

 

「望み?そんなのないさ。

だってキミが僕を召喚したんだ。

普通立場が逆なんだけどね。

僕が望みを叶える方でキミが望みを叶えてもらう方ーーー僕はキミの何かを代償にキミの望みを叶えてあげられるよ。

それが悪魔だから、さぁ契約しようじゃないか少年」

 

僕は微笑みながらそう言う。

 

決まった!最高に決まったぞ僕!

 

 

「叶えたい事……?」

 

「そうさ、何でもいい。

キミに復讐したい人が居るでもいいし、キミが助けたい人が居るでもいい、他にも、もっと欲望に忠実になってもいい、悪魔は天使より叶えてあげれる望みの制約がないからね。

好きに言うといい」

 

「天使もいるのか……つくづくこの世界は俺が思ってたよりカオスなのかもしれない」

 

主人公役は苦笑いをする。

 

「そうかもね」

 

まぁ、この世界は原作ゲームに酷似しているだけで天使や悪魔がいない事が分かったから、僕がこんな事してるんだけど。

それを教えるのは後でネタバラシして土下座をする時だ。

 

「ーーじゃあ答えを聞こうじゃないか少年、僕とどんな契約を結ぶのか」

 

「いや、その事なんだが、今回は無かった事にしてもらえないか?

俺さ、考えてみたんだけど、望みなんてこれっぽっちもないし、今の生活で充分満足しているんだ。」

 

「え?」

 

えーーーー!!!今のって望みを聞いて契約する流れだったじゃん。

 

原作ゲームの天使や悪魔みたいに契約すると、契約中は魔術的な物で繋がって契約した人間と一心同体!的な激アツ展開は一般人の僕には出来ないけど、その代わりに僕だって今頼られるような力を見せつけたじゃないか。

 

ルシファーはこのやり方で契約したっていうのに僕には向いていなかったのかな。

それともこれ自体が無茶な行為だったのだろうか。

 

むー悔しい。

 

ここまで準備してきたんだ。

別に人間の僕が契約するって言わせても特別な事が起こるわけじゃないけど悔しいから絶対に言わせるまで意地でも帰さないぞ!

 

そう思っていると、公園の茂みから僕たちの方向に真っ赤な顔をして瞳孔の開いた男がフラフラと近づいて来た。

 

 

普通に不審人物だけど、夜中だしただの酔っ払いだろうと目星をつけた。

そこまで慌てる事でもない。

でもこれは逆にチャンスかもしれない。

この男は悪魔の使い魔だとか適当な事を言いながら「早く契約しないとキミの命が危ない!」とせかしたら、僕に「契約する」と言ってくれるかもしれない。

 

意地でも言わせると決めたんだ。

あの男の人には後で酔いが落ち着くまで介護してあげてもいいから、少しだけ付き合ってもらおう。

 

「なぁ、あの男の人ちょっとフラつきすぎじゃないか……なんか凄い怖い表情してるし」

 

「キミ!私の後ろに下がっていて!」

 

「え?急にどうしたんだ?」

 

「あの人間は悪魔と契約をしている人間だ。しかもどうやら僕らに殺意を抱いている。

このままこっちにやってくれば恐らく殺しにかかってくるだろう。」

 

「何だよ急にそんな物騒な事言って。

てか契約したら俺もあんな感じになっちゃうのか?」

 

「あれは元の人間の問題だよ!それよりキミの命が危ない!

僕は契約しない限り、キミの為には行動出来ない……だから早く僕と契約をするんだ!」

 

実際の原作ゲームの天使や悪魔は契約をしないと人間に干渉出来ないというルールがあるが、僕は人間なのでそんなルールは無い。

でもこのルールは契約させると言わせるのに、都合がいい設定だから使わせてもらおう。

 

そんなこんなで茶番と言われても仕方がない事(実際に茶番)をやっていると男が急に叫び散らかす。

 

「オメェらさっきから何なんだよ!俺を、チラチラ見やがってよ!

俺が変かぁ?!!男と女でイチャつきやがってぜってぇ許せねぇ!」

 

僕の肩が急な大声にビクッとしてしまったが、主人公役には気付かれていないようで安心した。

主人公役の少年も今ので少しビックリしていたのでお互い様なようだ。

今のがバレてないのは本当に良かった。

今さっきやっと力を見せつける事で、悪魔の威厳みたいな物を醸し出したのに、それが一瞬で消えるとこだった。

そんな感じで安心しきっていた束の間の出来事だった。

 

「この野郎!俺を無視するんじゃなぇぞ!!!

ーーー契約内容を実行する時だ悪魔、アイツらを殺せ!!!」

 

刹那、男の近くに何処からともなく現れたのは

 

ーーー20センチ程度の身長で、全身漆黒。尖った耳と一本のツノを持ち、邪悪な顔をしながら翼を動かしホバリングする生き物。

 

あれはこの酷似しただけの世界に居ないはずの、悪魔その物だった。

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